1.朝倉 悠さんちの事情
初めて投降します。
よく分かってないところもありますが宜しくお願い致します。
見えるモノ
見エヌモノ
触れられるモノ
触レラレヌモノ
隣に在るモノ
隣二無イモノ
昔から傍にありながら、交わらない世界
それが猫又の世界…で、あった
現代猫又事情
1.朝倉 悠さんちの事情
うちには20さいを迎えた猫がいる。
名前はましろ。
拾った猫だが長毛種で毛並みは真っ黒。
だけど、首元には首輪をしたように一周白い毛が生えている。
まんまるな瞳は翡翠色で少しの濁りもない。
猫は20年生きると猫又になる、なんて話があるけど、そんな事もなく毎日を過ごしている。
ただ少し、ほんの少し、最近調子が悪そうだ。
ご飯の量が減った。
水を飲む量が減った。
少しだけイライラしているようにも見える。
ほんの少しの事なんだけど、さよならの覚悟をしないといけない時期になったのかもしれない。
「なぁ、ましろ。最近元気がないな。また病院で点滴して貰わないとな」
ましろは少し嫌そうな顔をして、俺の顔を見上げる。
膝の上で丸まるましろを撫でながら、話しかけるのは俺、朝倉悠。27歳。
IT系の会社で営業をしているサラリーマンだ。
趣味はプラモデル。
土日は引きこもって作業をする。
ましろが居るから、塗装や小さいパーツには気を使うけど概ね作業は順調に進む。
今は10月半ばにある展示会に向けて、昔流行ったアニメの戦闘機を作っている。
仲間には戦闘機以外も作れよと言われるけど、俺はもっぱら戦闘機派だ。
ロボットもかっこいいとは思うけど、変形するあの戦闘機を作った監督は天才だと思う。
まぁ、たまには他のも作ってみたくなるんだけど。
次は今流行りの美少女系プラモデルを作るのもありかもしれない。
そんな事を考えながらやすりがけをしていると、玄関のインターフォンが鳴る。
『朝倉さーん、速達でーす』
少し間の抜けた声がインターフォンごしに聞こえた。
「はいはい、っとましろ?」
リビングから玄関に向かうドアを開けた瞬間、最近は走らなくなったましろがまっさきに飛び出していった。
「ましろ、駄目だ」
そう言って玄関の前でドアを見上げるましろを抱え込む。
普段は抱っこされるのが大好きなくせに、何故かイヤイヤと身をねじる。
抱っこのままでは受け取れないと判断した俺は、ドアの隙間からましろをリビングに押し込んだ。
リビングのドアの向こうでましろが不満そうに鳴いている。
すぐなんだから我慢してくれよ、と俺は玄関を開けた。
速達ですと渡された封筒には区役所の名前が書いてあった。
その隣には見慣れない文字が。
『NMN課』
「えぬえむえぬ課?なんだそりゃ。ってあれ?宛先が朝倉ましろ宛てになってる」
リビングのドアを開けると、怒ったままのましろが唸っていた。
「ごめん、ごめん。ってかさー区役所からましろ宛てに手紙が届いたんだけど、なんだろうなー。これ。いたずらにしちゃあ凝り過ぎな気もするし」
鋏を使うなんて上品な事はせずに、封筒を手で破った。
中からいかにも役所からですと言うような、少し手触りの悪い紙が出てくる。
足元ではましろが鳴いているが、手紙を見てみないことにはと紙を開く。
「なになに、猫又ネットワーク登録完了のおしらせ?!」
は?ねこまたねっとわーく?
いかにも怪しいです!と言わんばかりの題の下にはよく分からない内容が連なっている。
『猫又ネットワーク登録完了のおしらせ
このたび猫又ネットワーク登録完了いたしました
今月より猫又生を送られる方は飼い主と御相談の上、NMN課にお越しいただくか、もしくは区役所ホームページよりお申込み下さい
そのまま猫生を送られる方は良い旅立ちを心より願います
NMN課受付時間は午前9時から午後3時までです
お急ぎの場合はホームページでのお申込みをお勧めします』
「・・・・・・・・・なぁ、ましろ・・・・猫又生ってなんだ?」
いつの間にかおとなしくなっていたましろに目をやると、ましろは目をすっと細くした。
「やっと届いたよ。ほんとお役所仕事なんだからさー。最近体調も思わしくなくて、そのまま猫生終わらせちゃうかと思ったよ」
ましろの小さな口から出た言葉は、今まで耳にしていたあの可愛らしい鳴き声ではなくなっていた。
俺は不覚にもびっくりしすぎて、腰を抜かしてしまったのであった。
うちの猫が虹の橋を渡ってからもうすぐ4年経ちます。
猫の描写は思い出す限りうちの天使です。