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煌鋒の勇者  作者: サケ/坂石遊作
一章『覚醒』
17/22

最高の聖剣(3)

 ファナの見つけた階段を下り、二層目に到達する頃には、アジナも回復していた。

 第二層。風景は一層と変わらず、薄暗い洞窟だが、少々水気が多い気がする。暫く適当に歩いたアジナたちは、すぐにその要因を理解した。


「湖か……でかいな」


 飛び越えて進むなんて以ての外。目の前に広がる湖は、迷宮内とは思えないほどの面積だった。これだけの大きさだと、泳いで行くのも難しいだろう。

 迂回を余儀なくされる中、ファナが目を凝らす。


「向こう岸に、階段があるわね」


 どうやらこの階層、構造自体は単純らしい。目的地の場所さえわかれば、後の行動は単純だ。当面は、右に迂回するか、左に迂回するかの二択を選ぶことになる。

 アジナたちは左に迂回することに決め、水辺を歩いた。


「――魔物よ」


 ファナの報告に、浅瀬を走り抜く魔物の姿を確認する。

 黒い毛並みの、狼のような魔物が四体。ショットハウンドと呼ばれるその獣は、普段は迷宮内の鉱物を食し、戦闘時はそれを弾丸のように吐き出す魔物だ。


「おらよっと」


 ファナが一体を殴り飛ばす。同時に、ジックが第一階梯の聖剣を解放した。その巨体を活かし、回転斬りで広範囲をカバーする。魔物の内、一体がその領域に侵入した。首と胴体が分離した魔物は、血飛沫を撒き散らしながら地面に横たわる。

 ファナが更に一体を倒した頃、最後のショットハウンドがサイカへと接近した。

 再び、第一階梯の聖剣を解放する。

 サイカの行動は迅速で、何よりも計算されていた。身体を回転させ、まず、ショットハウンドの口から放たれた拳一つ分の弾丸を斬り捨てる。次に、二周目の回転で、彼女は刀身を器用に操り、湖から水飛沫を生み出す。水の弾丸がショットハウンドの目元に命中すると同時、サイカは三周目の回転で、その胴を切断した。

 回転運動による、複雑な連撃。アクロバティックに身体を動かし、全身で敵を斬り伏せるその姿は、まるでサイカ自身が鋭利な刃であるようだった。


「やるじゃない」

「実力が足りていないから、工夫しているだけよ。正面から立ち会って、無傷で戦えるあなたやジックには敵わないわ」

「どうだか」


 含みのある言い方に、サイカは眉を顰める。

 片や、見境無く、何時如何なる時でも争い興じる肉食獣。片や、冷静沈着に物事を観察し、隙あらば即座に狩りを実行する肉食獣。……どちらも共に、肉食獣だ。どことなく不穏な空気が立ち込める中、ジックは隠れて呟く。


「ほらな。やっぱり似てるだろ。あの二人……って、あれ? アジナ?」


 つい先程までそこにいた筈のアジナが、いつの間にかいない。


「た、助け……!!」


 足元の岩陰から、苦し紛れの声が聞こえた。

 見れば、そこには真っ黒な泥沼に下半身を沈めているアジナの姿があった。スワロウスワンプと呼ばれるその魔物は、自力で移動することはないが、岩や地面の表面に張り付くことで、獲物が落下してくるのを待つ。アジナはまるで、岩に吸い込まれるかのように泥沼に引きずり込まれていた。


「ちょ、おいおいおいっ!」


 幸い、スワロウスワンプは獲物の消化に時間を掛ける。そのため、単独での探索でない限り、あまり注意するべき魔物ではないのだが……極稀に、存在感の薄い者が、仲間に気づかれぬまま死に至ることもある。

 焦燥するジックの目の前で、サイカが泥沼に剣を突き刺した。

 魔物が怯んだ隙に、ジックがアジナを引っ張りだす。ブチブチと沼に見せかけた魔物の腕が千切れ、アジナの全身には、黒い帯のようなものが張り付いていた。


「しまった、油断してた。いくら頼もしい助っ人がいても、アジナがいることに変わりはねぇんだった……」

「返す言葉も、御座いません……」


 スワロウスワンプの腕を剥がしながら、アジナは反省する。流石に、落ち込んだ。

 目を伏せるアジナに、ジックがこっそり声を掛ける。


「アジナ、お前、緊張してるだろ」

「うっ」


 完全に図星だった。

 それは、探索するよりも以前。今朝、目が覚めた時から自覚していたことだ。どれだけ表面を繕おうとも、その内心は誤魔化せない。なにせ、この試験で失敗すれば退学だ。


「今回ばかりは、無理するなとは言えねぇ。ただ、危険を感じたらすぐに助けを呼べ。俺たちはそのためにいるんだからな」

「……ごめん。ありがとう」


 気を遣ってくれたことに、謝罪と感謝を述べる。

 それから、二人はファナたちと合流し、再び階段へ向けて歩み出した。道中、ショットハウンドと出くわしては、ジックとファナが先陣を切って討伐する。サイカはスワロウスワンプの擬態を見抜いては、聖剣で一突きにして倒していた。

 二層は構造が単純であるため、魔物との遭遇率も高い。その上、足元には岩場に擬態したスワロウスワンプがいる。緊張の糸を緩める暇はなく、一同は少しずつ疲労を蓄積させていた。サイカもジックも、聖剣を出したままにしている。


「狩り尽くしたか?」

「みたいね」


 見渡したところ、敵影はない。周辺の魔物は全て討伐したらしい。ファナが肯定を示したと同時、ジックとサイカは展開していた聖剣を解いた。


「アジナ、大丈夫か?」

「……うん」


 戦闘中、アジナも幾らか魔物を撃退した。しかし、アジナは人一倍、体力切れに気をつけなければならない。アジナの場合は、息が切れて動けなくなるだけではないのだ。ここで気を失ってしまえば、アジナだけではなく、アジナを護衛するための一人。二人が行動不能となってしまう。……その懸念が、精神的な疲労感を与えていた。


「新手、来たわよ」


 遠くを見張っていたファナが、全体に通る声で言う。アジナは息を整えた。


「ゴブリン。数は八体。……統制が取れている。ゴブリン・アーミーね」


 目を細めたファナが、認識した情報を訥々と告げる。

 二足歩行する人型のゴブリンは、その多岐に渡る習性から、幾らか呼名が改められていた。ゴブリン・アーミーは、集団行動するゴブリンの総称。ないし、その団体を指す。変異個体では無いにせよ、通常のゴブリンとはまた違った対策が求められる敵だ。


「遠いな……ファナ、よく気づいたな」

「向こうもこっちに気づいているわ。走れば、逃げきれると思うけど」

「階段も、走れば間に合いそうだが……どうする、アジナ?」

「……トレインになる可能性がある。ここで、対処した方がいい」


 迷宮探索のマナーとして、トレインというものがある。簡単に言えば、魔物を引き連れてどこかへ移動する行為だ。そのまま逃げきれればいいのだが、逃走中に他のチームと遭遇する可能性がある。その場合、引き連れた魔物を押し付けてしまうかもしれない。トレインは、意図しなくとも起こり得る危険な行為だ。アジナは、階段の先に他のチームがいることを考慮して、ジックの提案を拒否した。


「俺がやる」


 ジックは簡潔に、代案を述べた。


「任せろ。雑魚狩りは俺の得意分野だ」


 計八体の人型の魔物が、ジックの巨体目掛けて駆け寄って来る。対するジックはその瞳に、微塵も揺るがない自信を宿す。両手をポケットに入れながら、直立した。


「――行くぜ」


 この場にいない誰かに、呼び掛ける。

 その返答として、ジックの傍に、等身大の長方形の枠が投影された。半透明のそれは陽炎のように大気を湾曲させ、少しずつ回転と共に数を増す。大小様々な長方形が中心だけを共有する。その存在感が目に見えるくらいに明らかになった頃、ジックは名を唱えた。


「――『デイセントローズ』」


 名を呼ぶと共に、ジックは握り締めた拳の側面で、傍らの輝きを叩いた。

 全ての長方形の中心に、軋む音と共に、亀裂が走る。それは瞬く内に浅黒く、血管のようなモノへと変貌し、合間を埋めるように鋼の刀身が顕になった。

 中心の空洞が、心臓のように血管を蠢かす。聖剣『デイセントローズ』は、完成と共に重力に従って落下した。刀身が地面につくよりも先に、ジックが柄を捉える。

 刃の潰れた剣。それは、馬鹿でかい鉄板のようだった。


「オラァ――ッ!!」


 接近するゴブリンたちに対し、ジックは裏手に構えた剣を、横一文字に振る。

 それだけで、ゴブリン・アーミーは次々と消し飛んだ。胴が千切れ、見るも無惨な死体の山ができあがる。その中で、ジックは嬉々とした表情で魔物を狩っていた。


「……ふぅ」


 やがてゴブリン・アーミーが壊滅した後、ジックは一息ついた。


「お疲れ。助かったよ」

「ああ。……いかんな。聖剣を出すと、どうしてもテンションが上がる」


 そう言いながら、ジックは聖剣を光の粒子へと還した。

 ジックの聖剣は巨大故に、持ち運びには適さない。第一階梯に戻すという手段もあったが、周辺の様子から、今は必要ないと判断したのだろう。

 聖剣は自由に出し入れができる。既に出している第一階梯の剣を、第二階梯へ変化させることも可能だし、最初から第二階梯で取り出すことも可能だ。ただ一つ問題があるとすれば、聖剣の抜刀は、通常の剣と比べて僅かに遅いことである。聖剣の抜刀は勇者が呼び掛けなくてはならない。一方、アジナのように道具としての剣を扱う場合は、その必要がない。使用者個人の意思によって自由に抜刀できるから、その分、動作が早くなる。そういう理由から、聖剣の納刀は、ある程度の安全が確保されてからでないといけなかった。


「変わっているわね、その剣」

「刃が無いから、切断には向いてねぇけどな。代わりに破壊力は抜群だぜ」


 サイカの言葉に、ジックは自慢気に返す。聖剣は自分の相棒だ。嬉しそうに話すジックのその姿を見て、アジナは素直に羨ましいと思った。


「階段はすぐそこだ。さっさと行こう」


 両手を重ね、掌の筋を伸ばす。

 ジックは引き締まった表情で、そう言った。


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