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第三回 図書館の女

* 三年目の八月一日

 

 夏休みというのは暑いものである。八月一日といえばその気温はいよいよ最高潮を迎えようかという時期で、太陽のボルテージも異常なほどに高まり、空には嫌味なぐらいの青が広がっている。窓を閉じていても耳に入ってくる昆虫の大合唱がどうにも私の気分をげんなりさせるのだった。


 これが一過性のものであれば座して待つのだけど、どうにもなぜだか私の八月一日は終わらない。八月一日が終わったかと思うと、その次の日も八月一日なのだ。理由は不明。全く不明。知っている人がいたらぜひ名乗り出て欲しい。私にできることなら何でもしよう。そう、なんでも、だ。そのぐらい私は暇を持て余している。

 



* 姫崎かなで、という人物について

 

 今日は私の新しくできた友人の話をしたいと思う。彼女と知り合ったのは八月一日だった。つまり、その日初めて知り合った。でもなんとなくもう何年も付き合っているような感覚になることさえある。そんな友人の話だ。


 その日も当たり前だけどいつもと同じ快晴の一日だった。そのとき狙っていた男の身辺調査で町をうろついていたときのこと、私はあまりの暑さに這いずる様にして古びた公立図書館に逃げ込んだ。


「ふいー、涼しいなぁ、こりゃぁ。税金の無駄遣いじゃないの?」

 なんてことを言いながら胸元をぱたぱたやって冷気を取り込む。はしたない?いやいや、誰も居ないから。マジで。受付どころか奥に見えるカウンターにも人が居ないってのはどういうことよ。


 右を見ても無人。左を見ても無人。人が居る気配すらない。こんなところで勉強したらさぞかし捗るだろうな。やんねーけど。

「まさか…本当に誰も居ないなんてことはないよなぁ…」

 怪奇!!忽然と人が消えた図書館の謎!!そこには争った形跡もなく、ただ少女の鞄だけが残されていた…!!

 みたいな感じだったら面白いような怖いような。いや、怖いな。でもOK。怖いからこそ面白い。


「ちょっと見てみるか」

 いい加減汗も引いたところで本当に誰も居ないのか探してみる。まずは一階。誰も居ない。読み古された児童書だとか身障者用朗読テープだとか、そんなものが少し置いてあった。けど誰も居ない。締め切られた窓の外からかすかに聞こえてくるセミの声がやけにさびしい。


 板張りの廊下を進んで、板張りの階段を上る。見るからにオンボロだけどギシギシ言わないのは階段自体は鉄筋コンクリだからだろうね。ギシギシ鳴ってくれたほうが盛り上がるのに。微妙に残念だ。


 二階。ロビーと受付のあった一階とは違って、階段のすぐ前の扉をくぐるとあとは本棚がひたすら並ぶだけの空間だった。

「ぬぅ、ものすごい圧迫感だな…」

 この町にもう十五年(プラス二年)も住んでいるのに初めて足を踏み入れる図書館に必要以上にビビりながらも、部屋の中を見渡してみる。右側はずーーーーっと本棚で、左側には窓に向かって机が…というか板が?突き刺さっていた。手前に椅子が並んでいるから机なんだろうなぁ。カーテンは全開になってるけどこっち側は今の時間帯だと日陰になるから明るくはない。とはいえ暗いわけでもないんだけど。


 と、その一番奥の机に突っ伏している人影を発見した。そいつはどうも眠りこけているようだ。ああそうだよね、眠くなるよね、ここ。一階よりも若干マイルドな空調だし、びっくりするほど静かだし。私はそっとその人影に近寄ってみる。と、それは私のよく知っている人間だった。


「姫崎…さん…」

 姫崎かなで。私と同じクラスの、いわゆる「おとなしい子」だ。学校では窓際の一番前の席に陣取って、しょっちゅう寝ている。けど成績は私よりかなり良い。ぶっちゃけうちのクラスでは一学期の成績トップだった。学年で二番目とかそんな感じ。なので、ある意味悪目立ちしていた。だから私も覚えてる。てか、出席番号が私の一つ前だから、高校に入って最初に座った席はこいつのひとつ後ろだった。すぐに席替えして離れてしまったけど、その頃からこの風変わりな元隣人のことが気になっていた。


 姫崎かなでの特徴は他にもある。背が低い。そして細い。とにかく白い。あと髪が長い。しかもサラッサラのストレートヘア。そんでメガネ。顔のつくりはまぁ普通なのだけど、一部のうちの兄貴のような人種(ヒト化ダメ人間属)からは絶大な人気を誇っていた。

ファンクラブらしきものまであるらしい。これは後に敢行される「全男子への突撃電話アンケート・お前らウチのクラスの女子のことどう見えてんのよ編」で明らかになった事実である。


 今日はいつもの制服ではなく(夏休みなんだからあたり前か)、真っ白いノースリーブのひらひらワンピースなぞを着ているから、いつにも増してそれっぽい。横に麦藁帽子でも置いてやろうか?さぞかしお似合いになることでしょう。


「…えくし」

 なんか聞こえた。姫崎さんは机に突っ伏したままなんだかプルプルしている。もしかしてくしゃみだったのか、今の。

「…藤谷千秋」

 のそっと身を起こした姫崎さんはぼけーーっとした目で私をたっぷり五秒ぐらい見つめた後、ぼそっと私の名前を呼んだ。フルネームで。なんでフルネーム。

「こんなところで何をしているのです?藤谷千秋」

「あんたの寝顔を眺めてた」

「…悪趣味な人だ」

 そう言いながらも特に気分を害した様子はなかった。心なしかすこし照れている。照れ隠しにメガネを拭き始めた。


「藤谷千秋が図書館に何の用だろう?ここには漫画は児童用の学習漫画しかありませんよ」

 メガネをかけ直しながらなんだかちょっと(かなり?)失礼なことをおっしゃる。私は小説だって読むぞ。まぁ、内容は漫画と大差ないやつだけどな。

「いや、学習漫画に興味ないし」

「そうですか、案外面白いのですけどね。私のお勧めは「真・平家物語」ですよ。独自の解釈が入っていましてね。将門の生首が一万の軍勢を率いて頼朝の軍勢に戦いを挑むのですが、陰陽師の活躍で開戦前に乱は鎮められ、歴史書には残っていないというのです」

「面白そうだけど学習漫画としてそれはどうだろう…つーか絶対おかしいだろ?」

「私もそう思います。私たちはどうやら気が合うようですね」

 この程度で気が合う認定しないで欲しい。きっと百人いたら九十九人と気が合ってしまう。親指を立てるな。何のアピールだ。


「ところであんたは何をしてたの?」

「姫崎かなで」

「は?」

「私の名前です」

「いや知ってるし」

「ならそう呼ぶのがいいでしょう」

「姫崎さん」

「姫崎かなで」

「合ってんじゃん」

「間違ってはいないけど正確でもない。私の家にはあとふたり姫崎さんがいます」

 …やりにくいなぁ。

「姫崎かなではここで何をしていたのですか?」

 なんだか堅苦しい口調になってしまった。なんでだろう。なんか、英文の翻訳を読んでるような気分だ。

「私はここで本を読んでいました」

 寝てたじゃん。

「休憩中にちょっと寝てしまっていたところをたまたま見た藤谷千秋にそんなことを言われる筋合いはありません」

「いや言ってないし」

「そうですか」

 まぁ喉まで出てはいたけどね。もし大阪に生まれ育っていたらきっと言ってただろうな、とは思う。

「大阪で生まれ育っていたら藤谷千秋とは会っていなかったでしょう」

 ハッとする。

「あんたまさか…」

「はじめに言っておきますが、私には藤谷千秋の心を読むことなんかできませんよ。なに、簡単な推理ですよ、ワトソン君」

「誰がワトソン君じゃ!!」

「痛い」

 つい思いっきり頭を叩いてしまった。メガネがズレるほどに。にしてはリアクション薄いなぁこの子。

「大村崑ですか」

「誰よ」

「おや、ご存じない?」

 やおら姫崎かなでは立ち上がると、本棚の海に沈んでいった。


「この人です」

 戻ってきた姫崎かなでの手には「写真で見る昭和史」とかいう百科辞典サイズの巨大な写真集。その開かれたページには昭和のホーロー看板コレクションと題して古めかしい看板の写真が載っていた。その中で姫崎かなでが指差している看板には今も普通に売っている有名な栄養ドリンク的なものを持つ男の絵があった。そしてその男のメガネはズレていた。

「…正直どうでもいい」

「そうですか。残念です」

 そう言い残すと、本当に残念そうに昭和史を抱っこしてまた本棚の海に沈んでいった。


 ところで、だ。

 姫崎かなでが私の言おうとしていることを先に言ってしまったとき、姫崎かなでは自分は人の心が読めるわけではない、と言ったけど、そこが少し違っている。私が思ったのは、姫崎かなでもまた八月一日を繰り返しているのではないか、ということだ。私もよく弟相手に同じようなことをやっているから。

「私の顔に何かついていますか?」

 やべぇ。凝視しすぎた。

「いや、かわいい顔だなぁと思って。キスしてしまいそう」

「どうぞ」

 こら、目を閉じるな。

「冗談だから」

「私も冗談です」

 …だろうね。

「ところで冗談だというのは最後の一文がですか?その前からですか?」

「どっちかというとその前からかな」

「…残念です」

 これはちょっと意外な反応だったな。かわいいとかそういうことを言われるのに興味がない人種だとばかり思っていた。まぁそんなことより…

「あんた私の心が読めるわけじゃないって言ったよね?」

 グダグダ悩んでも仕方ない。ここは本人に直接聞くのが確実だ。もし違っていて恥ずかしい思いをしてもどうせ明日になれば私以外は誰も覚えてない。日本の古いことわざでこう言う。「旅の恥は掻き捨て!!!」と。まぁ、中には掻き捨てられない恥もあって、トラウマになって残ったりするんだけど。そう、あれは忘れもしない百回目の八月一日、新宿駅で…ってそれは今はいいや。

「姫崎かなで」

 呼称をいちいち訂正するなメンドクサイ。

「いや、それはもういいから。つーかあんたはあんたでしょうが」

「それはそうですが、そう呼ばれ慣れていないもので…」

 普通はフルネームで呼ばれるほうが慣れてないと思うけどな。

「たしかにそうかもしれません。では特別に『だーりん』または『はにー』と呼ぶことを許可します」

「は?」

「だから次からは『あんた』は無しでお願いします」

「だからってその選択肢はないんじゃないかと思うのよ、ハニー」

「ノリノリですね」

 お前が言い出したんだから笑わないでくれ。恥ずかしいじゃないか。お前が言い出したんだぞ、これは。お前が言ったんだからな!

「実は私は一日に五十回以上フルネームで呼ばれないと死んでしまう病気なんです」

「嘘だな」

「嘘ですね」

 会話になってない気がするのは私だけだろうか。

「私は結構楽しいですけどね」

 頼むから私の思考を先読みして答えるのだけはやめて欲しい。

「…善処しましょう」

 言ってるそばから…ああ、もういいよ強引に次に進めるよ。


「実は一つ聞きたいことがあるんだけど」

「なんでしょう」

 私の真剣な表情から冗談を言うべきところではないと察してくれたのか、居住まいを正して体ごと私のほうに向き直る。それを待ちながら、私は何をどういう風に聞けばいいのか考える。ここは、素直に思ったことを聞くべきだと判断した。

「姫崎かなでは八月一日を何回も経験してない?」

「…その質問は想定外でした」

 姫崎かなでは一瞬固まった後、メガネポジションを正常に戻して私のほうを向いた。いや、そもそもメガネはズレてなかったけどね。雰囲気だ、雰囲気。

「鋭いですね。実はかれこれ十五回目です」

 実際のところ、あんまり期待はしていなかった。目の前のこいつは私から見れば超天才の超人で、それこそ本当にテレパシーが使える超能力者だったとしても、それはそれで私はがっかりしただろう。

 けど、彼女の台詞は、私のその期待を、いい意味で裏切ってくれた。胸が高鳴る。

「やっぱり!!でもまだたった十五回?私は今日で多分732回目。人によって回数違うのかな…」

 正直興奮を抑え切れなかった。だから彼女の言う十五という数字の意味まで考えることはなかったのだ。わかるだろ?わかれよ。あまりにがっついた感じになってしまったから姫崎かなでが正直ドン引きだ。

「…ユニークなことを言う」

「へ?」

「全くもって想定外です。意味がわからない」

「え、だってダーリン、八月一日を十五回…」

「そういうことですか」

 おお、と納得したように手を打つ。実際にこのポーズをやる人間を始めてみたような気がする。

「藤谷千秋…あなたは…実は732歳だったのですね!!」

 …は?

「不老不死というやつでしょうか。吸血鬼…ではないですよね。今は昼間だ。とすれば人魚の肉を食べたか…三つ目の神様に魂を抜き取られたなんて話もありましたっけ。ゴーレムやロボット、アンドロイドの線も捨てがたいですが…オバケは死なないーって歌もありますし…」

「私吸血鬼でもロボットでもないからね」

「そうですか、では、額にウーの文字がないので…」

「それ漫画の話じゃん…」

「学校に通っているので妖怪でもないですよね」

「生まれて初めて妖怪言われたわ」


 この辺で私は気づいた。つーか興奮しすぎてこんなことにも気づかなかったなんて、正直情けない。彼女の言っている十五回の八月一日は毎日やってくる八月一日じゃなくて、私にも昔はやってきた、一年に一回の八月一日なのだ。

「藤谷千秋がこのような冗談を言う人間だとは知りませんでした。大発見です」

「私も姫崎かなでが漫画とか読んでるとは思わなかったよ」

「私は本屋さんに売っているものなら絵本から辞典までなんでも読みますよ」

「辞典読むの?」

「ええ。面白い例文が載っているものがあったりして割と楽しいですね」

 …さいですか。

「どうしました?元気がありませんね。藤谷千秋」

「あー、うん。自分のバカさ加減にうんざりしてるとこ」

「さっきの冗談は意表をついていてなかなかグッドでしたよ。落ち込むことはありません。実は私も来週の火曜日で十万十五歳になるところなんですよ」

 お前は閣下か。

「そういうことじゃなくてさ…あーもうなんていうかさ、八月一日を732回ていうのは、なんだか私、八月一日の次の日も八月一日なんだよね」

 それを聞いた姫崎かなでの表情は、まったく変わっていなかった。

「…なるほど、本来のオチはそっちでしたか。ミスリードされました。私は蝋人形になって死ぬべきですね」

 悔しがっても全然違うし。

「だから閣下か、って。そうじゃなくて、冗談じゃないから」

「どのあたりが?」

「私の八月一日の次の日がまた八月一日で、もうそれを732回繰り返していることが」

「…ふむ」

 あごに手を当て考え込むポーズ。ふむ、ってなんだよ「ふむ」って。

「仮に732回の八月一日を経験したというのなら今の藤谷千秋は私より二歳年上ということになりますね。敬語で話したほうがよろしいでしょうか?」

「最初の質問がそれかい」

「他に何が?」

「…いやまぁいいや好きにしてよ」

 つーか私には今までの口調も十分敬語に聞こえている。

「では今までどおりで。藤谷千秋、私より二歳年上になった割には見た目は全く変わっていないようですね」

「あー、うん。なんか夜の十一時半になったら意識だけ朝の七時半に戻ってくるような感覚なんだよね。髪を切っても元に戻っちゃう」

「それなのに脳に記録されているはずの記憶はしっかり残っているのですね。妙な話だ」

「…そういえばそうだね」

 にっ、とイタズラな笑顔を浮かべる。こんな顔もするのか。少しかわいいぞ、これは。ネコのようだ。

「なかなか面白い話でしたが詰めが甘かったようですね」

「信じてないね」

「さすがに信じられません。漫画や小説じゃあるまいし」

「あーじゃあもういいよ。漫画か小説の話だと思って聞いてもらえれば」

 そうして私はそれまでの二年間を順番に話し始めたのだった。




* あくまでもそういう設定です

 

 窓から聞こえていたセミの声はいつの間にか止んで、空は真っ暗になっていた。ちらっと時計を見ると九時三十分。そりゃ腹も減る。つーかこの図書館いつまで開いてるんだ。


「なかなか面白いお話でした」

「うん、私も話したら少しスッとした」

 私にとっても予想以上の、久方ぶりの充実感だ。ただちゃんと話を聞いてもらうだけでここまで楽になるとは思っていなかった。ぶっちゃけ前に兄貴や親父やお母さんやミカや…その他大勢にこの話をしてもても、適当にあしらわれるか病院にいくことを進められるかさらっと次の話題に流されるかのどれかだった。


「まさか山根明久が藤谷千秋のことを好きだということに全く気づいていなかったとは」

「そこかい!!」

「お言葉ですが誰の目にも明らかでしたよ?山根明久はクラスの男子からそのことでよくからかわれていましたし」

 …そうだったのか。正直知らんかった。悪い、山根。いろんな意味でごめんなさいだな。

「なに、ご心配なく。藤谷千秋はああ見えて相当ニブいからなぁ、などという会話もよく行われていました」

 この言葉が後に私を「全男子への突撃電話アンケート・お前らウチのクラスの女子のことどう見えてんのよ編」をはじめとするアンケート攻勢へと向かわせたのは言うまでもない。

「…しかし今の話ができるということは藤谷千秋は山根明久の気持ちを知っていた?」

「ああ、姫崎かなでにとってはそういう解釈になるのね」

「まぁそこを気にしていても仕方ないので気にしないことにしましょう」

 大雑把な性格だ。

「よく言われます」

「や、何にも言ってないし」

「どうせ『かわいいやつめ』とでも思っていたのでしょう」

「思ってないからマジで。大雑把なやつだなぁ、とは思った」

「そうだと思っていました」

 何がなんだかわからない。

「ところで、藤谷千秋の話を全面的に信じたとして、藤谷千秋はどうしたいのですか?」

「んー、わかんない」

 正直、本当に全然わからない。

「最初の頃はどうにか八月一日を終わらせようと思ってたんだけどさ、二年も経つとなんかこのままでもいいかもなぁ、って考えることも増えてきてさ…全然わかんない」

「…ではこういう設定はどうでしょう」

 設定て。

「藤谷千秋の生きている世界にははじめから藤谷千秋が八月一日として認識している一日しか存在しない。藤谷千秋の八月一日より前の記憶を含む『世界』のすべては最初の八月一日が始まったときに作られたものである」

「それなんてSF?」

「藤谷千秋の話も十分SFでしたよ」

 …そりゃそうか。

「なかなか斬新な仮説だ」

「世界五分前仮説の変形ですね。昔読んだ小説にあった設定です。残念ながらタイトルを失念してしまいましたが、なかなか面白い話だったように記憶しています」

「まぁそれはいいや。で、その仮説によると私はどうすればいいの?」

「どうすることもできませんね」

「な、なんだってー!」

「俺にだってわからないことぐらい…ある…」

「いや、そんなボケは要らないから」

 少し恥ずかしかったらしく、汚れてもいないメガネを拭いて、小さく咳払い。照れるならやらなきゃいいのに。

「女性相手にこのボケが通じたのは藤谷千秋が初めてです」

「ああそれ多分兄貴の影響」

「すばらしい兄をお持ちのようだ」

 すばらしくはない。絶対。

「とにかく、藤谷千秋の暮らす世界には八月一日しか存在しない。そこははじめからそういう世界なのです。これはどうなるものでもない。むしろ、本来はそんな世界なのにそれを『異常である』と認識している藤谷千秋こそ異常、とも考えられる」

「んー、でもさ、その仮説はないと思うんだよね」

「なぜです?」

 考えるまでもない。当たり前だ。私には今までずっと『普通に』生活してきた実感がある。

「そんな実感なんて存在しないのと同じですよ。そのすべての世界と記憶が最初の八月一日が始まるときに作られたものではない、と客観的に証明できますか?それこそが世界五分前仮説なんです」

 …できるわけねぇ。

「そう、できるわけがない。つまり、今まさに藤谷千秋が認識していることがこの世界のすべてなのです。藤谷千秋の世界に八月一日しかなかろうが、私たちの世界の中でたまたま藤谷千秋が八月一日を繰り返しているだけだろうが、藤谷千秋の正常だと思っている世界で正常に生活してようが、藤谷千秋は今のまま、あるがままに過ごすしかないのです」

 …なんとなく…わかったようなわからなかったような。いや、正直に言おう。さっぱりわからない。

「ところで、藤谷千秋は姫崎かなでが本当に藤谷千秋と同じような自我を持って行動していると思いますか?」

「は?」

「自分以外のすべてのものが自分が生み出した幻だと感じたことはないですか?」

「ないね」

「…即答ですね」

「だって自分の思い通りになることなんてホンのちょっとなんだもん。わたしゃそれをこの二年でイヤというほど実感したよ」

 アメリカ人のように身振りを踏まえて大げさに。ため息交じりなんてもんじゃない。ため息一つじゃ全然表現しきれないよ。

「…そう、ですか」

 その時の姫崎かなでの悲しげな表情の意味を私は今でも知らない。

「さて、そろそろ閉館の時間です。今日は有意義な時間が過ごせました。もしよければ今後もこのような話をしていきたいものですね」

 パタン、と手を打って姫崎かなでが言った。でも、姫崎かなでの明日に私はたどり着くことができない。それは経験的にほぼ確定している。それがどうしようもなく寂しかった。

「そう、だね」

 席を立って歩く姫崎かなでの後をついて歩く。彼女の長い髪が揺れるのをただ眺めていた。

「では、また明日」

 出口の扉をくぐった所で軽く手を上げて挨拶。私もそれに合わせて手を振った。

「私は鍵を返してきますので」

 …は?

「実はこの図書館は今私専用なのです」

「なにそれ」

「先月この先の大通りの突き当たりに新しい図書館ができたのは知っているでしょう?」

「ごめん知らない」

「…私の記憶では藤谷千秋は生まれも育ちもこの町だったはずですが?」

「でも知らない」

「…まぁいいでしょう。とにかく、普段読まれる本はすべてその新館に移動されて、ここに残っているのは重複していた不要なものとか、新しく買い換えて不要になったボロボロの本とか、移動がまだ移動が終わっていない若干の本だけなので、この旧館には入れないことになっているのです」

「その鍵がなぜここに」

「貸して、と言ったら貸してくれました」

「意味がわからない」

「小さい頃から入り浸っていたので、私は図書館の職員の間では座敷わらしとして大人気なのです。なにしろ職員よりも長くいるといわれるぐらいで…」

「妖怪じゃねーか」

「座敷わらしは善い妖怪ですよ」

 あからさまにいやな顔をする姫崎かなで。まさか怒られるなんて。そんな。ほっぺたを膨らませるとかしてもかわいくありませんから!いや、嘘。ちょっとかわいい。

「…姫崎かなでがそれでいいならいいや」

 妖怪と呼ばれて喜ぶ人間がいるとは思わなかった。しかし姫崎かなでは私が納得したのを確認すると、満足げに頷くのだった。本当によくわからんやつだ。

「ではまた。続きは明日にでもお話しましょう。どうせ宿題などやるつもりもなく、暇でしょう?」

 宿題は一応一通りやったぞ。証拠残ってないけどな。


「…暇だけどたぶん姫崎かなでの明日と私の明日は違う明日だよ」

「ふむ、そういえばそういう設定でしたね。では、明日の私ともまたお話してください。おやすみなさい。夜道にはくれぐれも気をつけて」

 そう言って歩いていった姫崎かなでの後姿はあっという間に見えなくなってしまった。私はなんとなく寂しくなって、彼女が消えた後の薄暗い小道をずっと眺めていた。たぶん、一時間ぐらい。

「あんたこそ…誘拐されないように気をつけなよ」

 聞こえていないとわかっているけど、呟かずにはいられなかった。だってあいつ、私の肩ぐらいまでしか身長ないんだよ?今日日小学生でももうちょいデカいわ!




* 兄は巫女を追ってプールに行く

 

 不意に景色が変わって、見慣れた天井が目に入る。瞬きした瞬間に全く別の景色になっている感じだ。何度経験してもこの瞬間には戸惑う。本日の睡眠時間ゼロ秒。でも特にダルいとかはないんだよなぁ。

 のそのそとベッドから降りて、部屋を出て、階段を下りる。降りきったら回れ右して洗面所へ。


 そのとき、やけに軽い音がして腰のあたりにプラスチックのライトセイバーが炸裂した。ひょいっと物陰から飛び出してきた我が弟は得意満面の笑みで剣を振りかざしてなにやら叫んでいるが、正直どうでもいい。

「はいはい、冷凍みかんは悪かったからちょっと顔洗わせてね」

「なんだよ姉ちゃん、ノリ悪いな!!」

「あんたが朝から元気すぎんのよ」

「だが俺の恨みはこの程度ではおしゃまらないぜ!!!」

 カッコよくポーズを決めて、叫びながらライトセイバーを振り回し続ける。せりふちょっと噛んでるけどな。

「こら、危ないからやめなって」

 振り回す剣を無理やりわしづかみ。

「むむ、真剣白羽取りでござるか…!やるな!!」

「ジェダイの騎士は『ござる』とか言わないし」

「邪魔」

 トイレから出てきた兄貴が道をふさぐ弟を軽く小突きながら台所へ向かう。手洗ったか?


「みんな起きてきたのね?じゃあ朝ごはんにしましょうか」

 お母さんのいつも通りやけに明るい声が聞こえてきた。

 朝食は毎日ベーコンエッグと食パン、そしてサラダ。これはもう本当に毎日こうなのだ。でも八月一日より前からこうなのでいまさら文句もない。

「今日も暑くなりそうねぇ」

 もう聞き飽きたなぁ、このせりふ。


「プールに…行きたいです…」

 これは弟だ。

「そうねぇ。でも私は今日は買い物に行かなきゃならないし」

「兄貴、よろしく」

「何で俺が」

「秋篠さんが今日プールに行く予定だという極秘情報をキャッチしたわけだが」

「…ガセじゃないだろうな」

「鈴子情報。間違いない」

「よし行こう。すぐ行こう」

「わっほーい!!」

 兄貴は俄然やる気になった。このイベントの攻略法はこうだ。まず、朝一の弟の攻撃を甘んじて受ける。その後トイレの前で暴れる弟の攻撃が兄貴に当たらないようにし、弟がプールに行きたいと言い出したら話を兄貴に振って、秋篠さんの話をすればクリア。めでたく弟は兄貴とプールに行くことができる。なお、途中で失敗すると私が一緒に行くことになってしまうので注意が必要だ。


 ちなみに、秋篠さんというのは近所の神社の「巫女さん」だ。かなり気合の入った巫女さんで、この町に住むオタクさんで彼女を知らない人は居ない。断言できる。知らないやつがいたらそいつはモグリだ。そして鈴子というのはその妹で、うちのクラスの女子である。その秋篠さんが今日プールに行く情報は本当にガセではない。私がプールに行くことになったときに確認済みだ。このイベントのクリアには一週間を要した。六日連続市民プールはすこし…飽きる。


「ふぉっふぉっふぉっ!!」

「ふぉっふぉっふぉっ!!」

 バルタンではない。繰り返す。これはバルタンではない。バカ兄弟だ。「ごちそうさま!」とでも言っているのだろう。口いっぱいにトーストを突っ込んだまま、あわてて席を立って二階の自室にダッシュしていった。そんなに巫女さんが好きか、兄貴よ。プールでは巫女服着てないぞ?




* シェークスピアの悲劇

 

 昼過ぎ。私は図書館に向かっていた。途中真新しい建物があって、なるほどそれは確かに図書館だった。なんで今まで気がつかなかったんだろうなぁ。その脇を抜けて細い道に入ってしばらくいくと、古びた…いや、ボロボロの目的地が姿を現す。これが旧図書館だ。立地条件最悪の上にこんだけボロボロだと利用者はもとから少なかったんだろうなぁ。私の記憶になくても不思議でなかろう。


 軋む扉を押し開けて中に入ると、昨日と同じで冷房がガンガン効いていた。でも人影はなく薄気味わるい。私はとっとと階段を上ると、二階の戸をくぐる。本棚の軍団を左手に迂回するとその一番奥の席には座敷わらしが座っていて、なにやら真剣な表情で本を読んでいた。


 私は気づかれないように迂回して本棚の裏にまわりこみ、そっと近づく。そして姫崎かなでの読んでいる本を覗き込んでみると…

「ウルトラ大百科て!!」

「…ビックリです」

 思わず大声で突っ込んでしまった。その声に驚いて姫崎かなでの体すこしが跳ねた。本を置いて姫崎かなでは振り返る。開かれたページにはカネゴンの「詳細な」解説が載っていた。異常に詳細だ。ネットの某百科辞典とか話にならんぐらい詳細だ。絶対に子供向けじゃない。詳細すぎて本当に正しいことが書いてあるのかどうか疑わしいぐらいだ。

「藤谷千秋…こんなところで何を?」

「ここにくれば姫崎かなでに会えると思ってね」

「…私に何か用が?」

「いや、約束したからね、また話そうね、って」

 私の言葉に、小首をかしげて真剣に考え込んでしまった。

「すいません、失念していました。いつ頃の話でしょう?」

 当然こうなる、か。性懲りもなく少し期待していた私を笑ってもいいですよ。

「嘘嘘、冗談だから。ちょっと通りかかっただけ」

「そうですか。でも藤谷千秋が図書館に何の用だろう?ここには漫画は児童用の学習漫画しかありませんよ」

「学習漫画に興味ないし」

「そうですか、案外面白いのですけどね。私のお勧めは「真・平家物語」ですよ。独自の解釈が入っていて。将門の生首が一万の軍勢を率いて頼朝の軍勢に戦いを挑むのですが、陰陽師の活躍で開戦前に乱は鎮められ、歴史書には残っていないというのです」

「面白そうだけど学習漫画としてそれはどうだろう…つーか絶対おかしいだろ?」

「私もそう思います。私たちはどうやら気が合うようですね」

 言って、姫崎かなではにゅっ、っと親指を突き出す。はは。なんとなくうれしくなって私も同じように突き出した。折角だから、ちょん、と親指同士を触れ合わせる。

「E.T.ですか」

 姫崎かなではちょっと照れていた。私も少し照れる。

「どっちがE.T.?」

「…残念ながら私のほうが背が低いのでE.T.ということに…」

 心底残念そうに言うな。


「ところでさ、姫崎かなでは、同じ日が永遠に続いたらどんな風になるかって考えたことある?」

「唐突ですね。しかもかなり想定外の質問です」

 そう言いながらも、姫崎かなでの表情は全く変わらない。

「そうですね。『同じ』の定義にもよると思いますが、もし完全に同じ日が永遠に続くのなら、誰もそのことに気がつかないでしょうね。もしくは、全員が気づいているのならその世界はこの世界と恐らく何もかわらない」

「…そりゃそうだね」

「何が聞きたいんです?何かの心理テストでしょうか」

「そうそう、心理テスト。じゃあさ、自分だけがその日の夜になったら朝に戻るとしたらどう?」

「やりたい放題ですね」

「やりたい放題かもね」

 実際やりたい放題なのだ。小心者の私にはそれほど大胆なことはできないんだけどね。


「でも悲しい」

「悲しい?」

「誰も前の日の自分を知らないのでしょう?それはつまり誰からも相手にされていないことと同じ意味だ。それはすごく、悲しい」

 うーん…それはどちらかというと悲しいんじゃなくて…

「寂しさとはきっと違うと思います」

 先に言われた。

「言葉にするのは難しいですね」

 にっ、と無理やり笑顔を浮かべて席を立った姫崎かなでは、そばに置いてあったやたら巨大なスポーツバッグをごそごそ漁って、マグネットのオセロを取り出した。

「折角だからちょっと対戦しませんか?こう見えても私、強いですよ」

 ノースリーブなのに腕まくり。気合入りまくりだな。つーかあからさまに話題を逸らされた。これ以上この話を続けるのは無理か。

「私もオセロにはそこそこ自信がある」

「ならちょうどいい。第三十二回世界ジュニアオセロ選手権優勝者の私にその自信とやらを見せてもらいましょうか」

 なんだその選手権、聞いたことないぞ。




* 人類の歴史は戦いの歴史である

 

「姫崎かなで、ちょっと私とオセロで勝負してくんない?」

「唐突ですね、藤谷千秋。それは私が…」

「第三十二回世界ジュニアオセロ選手権優勝なんでしょ」

「…まぁそんな選手権はありませんけどね」

 ねーのかよ!!

「いいでしょう、俄然興味がわいてきました。いざ、尋常に勝負と行きましょうか」

 不敵に微笑む姫崎かなでの手にはペラペラのマグネットオセロが握られていた。


 昨日最初の勝負を始める前、私にはそこそこ自信があった。少なくともいつもつるんでいる友人連中相手に負けたことはなかったし。その自信をこの姫崎かなではあっさりと打ち砕いたわけだが。

 初戦、いきなりのパーフェクトゲームで私をぶちのめすと、その後も危なげなく二十連勝。そこから先の黒星は数えていない。そうして私の自信とプライドは跡形もなく粉砕されたのだった。

 しかしタダでは起きるつもりはない。昨日泣きながら帰ってからというもの、ネットでオセロの基本戦略やら応用戦略やらを勉強して、今日の戦いに備えていた。


 のだけど。


「負けた…」

「負けたぁ…」

「勝てない、勝てないぃぃぃ…」

 黒星だけが順調にたまっていく。

「藤谷千秋は確かに強いし、ストラテジーもしっかりしている。しかし、だからこそ読みやすい」

「…すとらてじー…。陰謀?」

 ストラテジーだなんて単語、探偵アニメの映画のタイトルでしか聞いたことない。

「言うと思っていました。しかしここでは戦略、という意味です」

「戦略、ねぇ」

「教科書どおりでは神の一手に近づくことはできませんよ、ヒカル!!」

「…座敷わらしじゃなくてオバケだったのか」

「よく私がこの図書館で座敷わらしと呼ばれ親しまれていると知っていましたね」

「親しまれてるのか、それ…。どっちかというといじめられているような気が」

「失敬な。座敷わらしは善い妖怪ですよ?それはもう親しまれていますとも」

 …そうですよね。もはや反撃する気力もない。

「ふふふ。ともかく、今日はもうそろそろ閉館の時間です。続きは明日にしましょう」


 というわけで、その日から私の戦いが始まった。その期間、実に二十八日。ほぼ一ヶ月かかってついに…その時はやってきた!!

「ふむ、負けてしまいましたね」

「やった、やったよ!!ついに姫崎かなでを倒したよ…!」

 感動の涙で前が見えません。

「なかなかやりますね、藤谷千秋。この私に三十二戦目で黒星をつけるとは。正直予想以上です」

 ごめんなさい、実際には千回近く負けました。途中から全然数えてません。でも勝ちは勝ちだ。これまでの苦労が報われて私はとてもうれしいです!!!最高に幸せな一日です!!

「では、次からは本気で行きましょう」

「…はい?」

 耳を疑ったね。今まで本気でなかったとでも言うのだろうか。またまた、ご冗談を。

「…負けました」

 もう、ダメだ。


 その後とっぷり日が暮れるまで本気の姫崎かなでに何度も何度も完膚なきまでに叩きのめされ、オセロでは姫崎かなでに勝てないと悟らされたのだった。こいつ、絶対人間じゃねぇ。




* 図書館の女

 

 ぺたり、ぺたり。

 すっかり日も暮れた夜の図書館でうら若い乙女が二人並んで延々オセロ。お前ら他にもっとやることはないのか?青春は一度きりだぞ!とか怒られそうな気もするな。本当に余計なお世話だが。


「…姫崎かなでは一日を最初からやり直したいとか、考えたことない?」

「無いですね」

 即答だ。

「ずっと今日みたいな日が続けばいいのに、とはよく思っていますが」

 私が黙っていると、彼女は続けてこう言うのだ。

「そんなところです」

 と。最初に私がこの質問をしたとき考えていたことは、よっぽど楽しい毎日を送ってるんだろうな、だった。けど、それから何日もこいつと話をしていくうちに、どうもそうじゃないらしいと、なんとなくわかってきた。あくまでもなんとなく、だ。はっきりしたことはわからないし、聞いちゃいけない事のような気がして今までずっと聞けずにいる。これからも多分、聞かないだろう。


「私は、とっとと先に進みたいけどね」

 だからこうしてあえて、正面からぶつかってみる。ま、とっとと先に進みたいのは紛れもない本音でもあることだし。

「何もあせることはないと思います。藤谷千秋も、みんな、少しずつ、本人さえも気づかないうちに前に進んでいくんですから」

「そう、かな?」

「そう、ですよ」

 本当に、そうあって欲しい。この小さくてかわいい、どこか不思議な雰囲気の娘がそう言ってくれるから、私はそれに甘えて、縋って、何度も何度も彼女に同じ質問をしてしまう。

「そう、だよね」

 そう、だといいなぁ。そう願いながら置いた白いマグネットはあっさりと黒に塗り替えられて、私の負けが決まってしまった。

 とっとと先に進みたいのは、本当。

 でも、この子のいうとおり、ずっとこのままでもいいかもしれない。そんな風にも思えるようになった。

 だってほら、私の八月一日は、永遠だから。


 私の八月一日はまだ、終わらない。

 


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