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第二回 人間が人の生き死にをどうにかしようなんて、おこがましいとは思わんかね

* 五百回目の八月一日

 

 私は千秋。藤谷千秋。夏休み真っ盛りの女子高生である。わけもわからず八月一日をもうかれこれ三年分は経験している。勘違いしないで貰いたいのは、三年分ってのが三回じゃなくて千回ぐらい、ってことだ。


 まったく理由はわからないけど、とにかく、私にとって、この八月一日の次の日は八月一日なのだ。何を言っているかわからねぇと思うが、私も何を言っているかわからねぇ。今日これから話すのは、大体五百日目ぐらいの八月一日のことだ。とにかくありのままに、起こったことを話すぜ。


 その頃の私はある使命感と焦燥感に苛まれていた。それは、この八月一日生活もそろそろ五百日を迎えるにあたって、何か大きなイベントが起きそうな気がする、という直感に端を発している。ちょうど今も千日目を迎えるか迎えないかの瀬戸際で、同じような精神状態だったのをよく覚えている。


 とにかく私はいい加減このままではダメだと思い始めていて、こういう状況を打破すべく、とにかく特別なことが起こらないかと、町中を、いや、関東中をうろつきまわる日々を過ごしていた。栃木県とか始めて行ったわ。


 これがRPGなら、はじめの町にノーヒントで放り出され散々うろつきまわっても特に何も起きない理不尽な展開に対して

「あえて言おう!カスであると!!」

 と高らかにクソゲー宣言して投げ出しているところではあるけど、生憎どこを探しても電源ボタンは見つからない。リセットボタンだけは毎日毎日強制的に押されているのだけど、ね。


 まぁ、いろいろ言ってはみたものの、ぶっちゃけた話、そうでもしなけりゃとにかく暇なのである。インターネットの某巨大掲示板だって、子供は見ちゃいけない板からダムや湖沼に関する板まで、ありとあらゆる板を見てしまった。この状況を打破するために必要なのは暇つぶしなのだけど、男漁りも毎日やってりゃそりゃ飽きる。

愛ってもっとこう長い間時間をかけて育んでいくものだと思うんですよね!マジでかっこいい理想の男を見つけて苦労して口説き落としても、日付が変わればなかったことになるんで、むなしさもひとしお。これがゲームならイベントCGを見返しておいしいとこだけ追体験できようものを。ああ、不便だ。せめてCG達成率でもあればなぁ。


 なんてことを考えながら、毎日毎日同じ内容を垂れ流す夜のニュースを何の気なしに眺めていた時だった。唐突に気づいてしまった。トップニュースの内容が、微妙に違う日がある、ということに。


 とはいえ、その差は本当に微妙だった。ベースになっている事件は、ワゴン車がガードレールに激突して乗っていた四人全員が死亡した、というものだ。それが、たとえば今日のニュースではガードレール脇にいた主婦も巻き込んで主婦が軽症です、という結びなんだけど、そこだけがたまにごっそり抜け落ちている。つまりワゴン車が自爆しただけのニュースになっていることがあったりするのだった。


 私以外の行動は私が何もしなければ一秒だって狂わないのはこの時すでに嫌ってほど理解していたので、その日の私の行動が何らかの影響を与えて主婦が事故に巻き込まれなくなった、ってことは考えなくてもわかる。わからないのは、事故の現場がここから山を二つ越えた、隣の県の普段全く名前を聞かない土地だ、ってところ。私のどの行動が影響してそんなことになっているかを、まずは見つけなければならなかった。


 その日から注意して(夜の)ニュース(の最初だけ)を見るようにしていた私が大体三ヵ月後の八月一日に達した結論は、どうも「主婦が事故に巻き込まれない日」のうちの晩御飯がカレーだ、ってことだった。


 うちの八月一日の晩御飯は私が何もしなければ自動的に餃子になる。これはもうそういう運命だ。だから私には朝起きたら晩御飯のリクエストをする習慣が付いていた。たまに忘れて餃子になるけど、たまになら餃子も悪くない。てゆーか餃子は大好物です。


 で、朝にカレーをリクエストした日に限って、主婦は巻き込まれない。はじめは半信半疑、いや全く信じちゃいない単なる思い付きだったけど、試しに一週間続けてカレーをリクエストしてみたらどの日も主婦は無事だったんだから、こりゃもう確定だろう。しかし一週間カレーはさすがにキツかった。カレーも好きだけども。おっと、脱線脱線。


 そこまでわかれば、あとは行動あるのみ、だ。なにしろ、私の八月一日は無限にあるんだから。暇つぶしのネタは、なんだっていい。暇つぶしのネタ、プライスレス。




* お母さんの八月一日

 

 カレーが怪しいと睨んだ私がまずしたことは、「カレー以外のとき」の母親の行動をチェックすることだった。これは単純に私がカレーをリクエストすることで影響を受けそうなのがお母さんしか思い浮かばなかったからだ。


 お母さんは基本的に朝に掃除と洗濯、昼食後テレビをみて、三時ごろから買い物に出て戻ってきたら晩御飯の準備、晩御飯の後は片づけを終えたら適当に、という主婦丸出しの生態をしている。もちろん、八月一日だって例外じゃない。


 今も、「んーんーんんんんんーんーんんんんーんー」などと鼻歌を歌いながら、真夏の日差しで綺麗に乾いた洗濯物を畳んでいる。

 私はずっとリビングでテレビを見るふりをしながら密かにお母さんの様子を観察していた。

 もちろん、お母さんの行動に出来るだけ影響を与えずに、事の成り行きを見守るためだ。八月一日のテレビ番組は暗唱できそうなほど見ているのでいまさら興味はない。単なるカモフラージュだけど、退屈すぎて死にそうだ。


「そろそろ買い物行ってくるけど、今日の晩御飯何がいい?」

 おっと早速のイレギュラー発生だ。突然話しかけられてしまった。だけど私は落ち着いて対処したよ。

「…餃子」

「そうよねー、暑い日はやっぱり餃子よねー。私もそろそろ食べたいなーと思ってたところなのよ。さっすが千秋ちゃん、わが娘!」

 ほっとけば晩御飯は餃子になるんだから、それに合わせておけばこの後の行動が変化することもないだろう。たぶん。てゆーかカレー以外なら何でもいいんだと思うけど。


「じゃー行ってきます。留守番よろしくね」

 そう言い残して出かけていく。これで家には私一人になった。ちなみに二人の兄弟はプールに行った。正確に言うと、うまく誘導してプールに追いやった。だって弟と私が二人で家にいるとなんやかんやちょっかい掛けてきてウザいんだもの。どんな邪魔をされるかわからない。


 さて、玄関が閉じられると共に私はすばやく行動を開始する。もちろん尾行するためだ。ドアスコープから外を確認して、お母さんの姿が見えないことを確認してから外に出て鍵を掛けた。留守番?そんなのするわけねー。どうせ泥棒も来客も電話一本ありゃしない。そういう運命だ。本当は鍵も掛けなくていいぐらい。


「こちらスネーク。任務を開始する」

 誰にでもなく呟いて、尾行を始める。尾行といってもそんなに難しいもんじゃない。のんきに歩く母上の後ろを、少し離れて付いていくだけだから。行き先だって商店街のスーパーに決まっているから、見失うこともない。もっとも、仮に見つかったとしてもまた明日今度は見つからないように尾行するだけだけど。


 そのまま特に何事もなく商店街の裏手に差し掛かったとき、スーツをビシッと着こなした男の人がみっともなく這いつくばって自動販売機の下に手を差し込んでいるのが視界に入った。かなり必死に手を伸ばしている。本気でみっともない。十円ぐらいなら奢ってやるぜ?


 なんて考えていると、お母さんがそいつに話しかけていた。二言三言交わした後に二人ともぺこぺこぺこぺこ何度も頭を下げてから、何もなかったみたいに別れて、男はまた自販機に手を突っ込んだ。知り合いって雰囲気じゃない。単純に、困っているところに通りがかったから声を掛けた、とかそんな感じ。私も少しだけ気になるので声を掛けてみる。


「オッサン何やってんの?」

「オッサ…ってまぁ君ぐらいの年の子からしたらそうかも知れないが…俺はまだ三十んーー才だ」

 見栄なのかなんなのか、微妙に年齢をごまかそうとする辺りがオッサンぽさをアップさせているような気がする。まぁ、それは置いといて。


「何やってんの?」

「いやね、封筒をこの下に落としてしまって、絶対必要なものだからなんとしてでも拾わないといけないんだけどどーにも届かないんだよ」

 ほらほら、と自販機の下に手を突っ込んでるけど、指が全部入ったぐらいで引っかかっている。

「ふーん」

 言いながら覗き込んでみると、そこには確かに封筒らしきものが見える。そんなに奥にあるわけじゃないけど、いかんせん自販機の下のスペースが狭すぎて全然手が入っていかないんだ。この自販機男より細い私の手でも入らないもんな。私だって何度十円玉や百円玉をあきらめたことか。まったく、こんなに隙間を狭くして誰が得するってんだ。自販機を撤去する業者か?

「届かないね」

「だろう?」

 そんな誇らしげに言われても困る。

「今度覚えてたら棒かなにか持ってきてあげるからさ、今日のところはもうちょっとがんばってみれば?」

「今度って…完全に手遅れだよね、それ」

 八月一日を永遠に繰り返すというふざけた私の事情なんて全く知らずに肩を落とす自販機男はその場に放置して、私は尾行に戻った。


 お母さんがスーパーに入っていくのを確認すると、私はその正面の本屋で雑誌を物色するふりをしながらスーパーの出口を監視する。しばらくすると、スーパーのビニール袋をぶら下げたお母さんが出てきたので、私もその後にこっそり続く。


 普通にまっすぐ帰宅ルートを通っていると(ちなみに自販機男はまだ自販機と格闘していた)、スクーターが爆走する音が遠くから聞こえてきた。直後、女の人の悲鳴が住宅街に響き渡る。

「ひったくりよ!!」


 その声とほぼ同時にわき道から2ケツのスクーターが飛び出してきた。二人ともスクーターなのにフルフェイスで、しかも手には似合わなさ過ぎる女物のバッグが。どうみてもこいつらがひったくりです。本当にありがとうございました。


 そいつらは慣れた様子で交差点を私らとは逆のほうに曲がって走り去ろうとする。と、母様が突然買い物袋からキャベツを取り出し、バイクに向かって、なんとそれを投げつけたぁぁッ!!だが無念、キャベツはバイクに届かず、空しく道路に転がってしまった。全く予想外の展開だ。まさか私の知らないところでこんなことになっていたなんて!


 私が呆然としているうちに、ピンヒールのおねーさんがバイクが飛び出してきた脇道から現れる。

「チクショー!やられた!!死ね!!」

 ブチギレるおねーさん(その手はいわゆる下品なジェスチャーを連発していた)とお母さんは情報交換した後、通報で駆けつけたらしい警官(どうでもいいけど、なんかびっくりするほど背の高い警官だった)にあらましを説明してからキャベツを拾って、ようやくその場を離れたときには真夏の日差しで私の頭がどうにかなりそうだったぜ。


 しかし、それだけでは終わらなかった。お母さんは帰宅途中で迷子に遭遇して泣かれ、なだめているうちにいつの間にか人だかり、騒ぎを聞きつけてやって来た子供の母親らしき人に何度もお礼を言われたりしていた。

 そんなこんなでやっと帰宅したときにはもう六時にだった。ちょっと餃子の材料を買いに出ただけで三時間。イベント起こりすぎなんじゃないの?


 で、だ。

 現在夕食の時間。そこでちょっとした問題が発生した。

 今、目の前に出ている餃子に使われたキャベツはあの時ひったくりに投げつけられて道路に転がったものだと思うんですが…兄様、大丈夫そうですか?ってか私もこの餃子何回度も食ってるよ…なんか今更ながら少し胃が痛くなってきた。


 憂鬱な気分で餃子を食べて(当たり前だけど普通においしかった)、明日へつづく。




* 最後の八月一日?

 

 私は目を疑った。超スピードだとかなんかそんなもんだが、とても恐ろしいものの片鱗を味わったぜ!


 尾行二日目、今日はカレーをリクエストした。その恐ろしい事件が起こったのは、買い物を終えての帰宅途中、ひったくりに遭遇したときのことだ。

 私は昨日と同じように、こっそり後をつけていた。今までのところで変わったところは特にない。せいぜい私が飴玉をしゃぶってる事ぐらいだ。哀れな自販機男に玄関先から持って来た傘を貸したら、それでなんとか封筒の回収に成功してお礼にこの飴玉(コーラ味のでかいの)を貰ったのだ。

 ともかく、その日起こったことは私の想像を遥かに超えていた。びっくりしすぎて飴玉を飲み込みかけて、んがんぐっとなってしまったほどだ。


 その時私が見たものを説明しよう。ひったくりのバイクが側道から飛び出してくるやいなや、お母様の右腕が激しくニ回転。それによって高速で射出された茶色い物体すなわちジャガイモ、いわゆるポテトが二つ、寸文の狂いもなく二人組みのひったくりの頭部に命中した。

二人の乗ったバイクはバランスを崩して転倒、起き上がったところに被害者のおねーさんが現れて、犯人の股間をピンヒールでストンピング。ありゃあ使い物にならなくなったかも知れんな。

で、ひったくられた鞄を回収するとその中から鞭(鞭なんか初めて見た)を取り出して、流れるような動きでそれを振りぬき、二人組みの犯人を痛めつけはじめた。そのそばに転がる砕けたジャガイモと相まって、なんとも言えない異空間を演出している。


 状況が特異すぎて頭の処理が追いつかない。わかることといえば、おねーさんが生粋のSで本職の女王様だった、ってことぐらいか。犯人二人に変な性癖が目覚めてなければいいんだけど。


 住宅街に鞭の音と悲鳴と高笑いが響く中、昨日と同じ警官がやってきて、むしろ女王様を拘束した。女王様をなだめてパトカーの助手席に座らせると、ひったくり二人を楽々抱えて後部座席に押し込み、お母さんから少し話を聞くと、敬礼して去っていった。


 そして。

 その日のニュースは衝撃的だったよ。何しろ、例のトップニュース、四人死亡した交通事故そのものがなくなってたんだから!その代わりにニュースのラストにひったくり犯が被害者の女性に捕まってボコボコにされたというニュースが追加されていた。間違いなく私が目撃したアレだ。


 私は震えた。ちょっとした好奇心のつもりだった。なぜうちの晩御飯がカレーになると交通事故に巻き込まれる人がいなくなるのか気になって、確かめたかっただけなのだ。それなのに、事故そのものがなくなってしまった。

「これだぁぁぁぁッ!!」

 私はベッドの上で叫んでいた。

 私が八月一日を五百日近くも繰り返してきたのは、この事故を止めて四人の命を救うためだったんだ、何の疑いもなく、そう思った。

興奮で心臓が激しく波打つ。ベッドに入っても目が冴えて全然眠れやしない。がんばった私!よくやった私!さようなら八月一日!


 ベッドの中で悶々としながら、時計の針は進んでいく。そして運命の二十三時三十二分十八秒…こんにちは新しい世界!新しい明日!私の八月二日!!




* もういちど八月一日

 

 まぁ、気づけば普通に八月一日だったわけですけど。確認するまでもない。突然部屋が明るくなるんだから。


 私はベッドの上で間抜けに口を開けたまま固まってしまった。どのぐらいそうしていたのかはわからないけど、起こしにやってきたお母さんはベッドの上の私を見て本気でビビっていた。


 抜け殻のようになった私が味のしないベーコンエッグを食べながらかろうじて思いついたのは、「何か…足りないんだ。もしかして、やり方がよくないのか?」だった。「クリアしなければいけないイベント」に死亡事故の回避が含まれて居ないなんてことは1ミリだって思っちゃいない。

「ごめんね、味薄かった?何か足りなかった?」

正面のお母さんがしょぼーんとした顔で聞いてくる。しまった。思いついただけのつもりだったけど勝手に口から漏れていたみたい。

「なんでもない。それよりお母さん、今日の晩御飯はカレーにして。あと、雨が降るような気がするから傘も持っていったほうがいいよ。折り畳みじゃなくて、でかいの」

「降るわけねーだろばーか」

「降るの!だから持って行ってよね!」


 隣から要らん茶々を入れてくる兄に軽くイラッとしながら、念押しした。いつものカレーの日と昨日の何が違うのか。それは考えなくても分かる。自販機男に私が傘を貸したこと、だ。だから今日はその役をお母さんにやってもらって、私は今日一日今後の作戦を練ることに決めた。


 その日一日チョコレートを齧りながら椅子に三角座りでギシギシ言わせて出てきた結論は、当然のごとく「さっぱりわからん!!」だった。

「なにがなんだかわからない」

 三角座りで爪を噛んでみても、そもそも私の脳みそは物事を深く考えるように出来ていないのである。一日無駄にした。こんなことなら初めから考えずに動いてみればてみればよかったんだ。とりあえず明日、事故が起こるパターンで現場に行って、巻き込まれるはずの主婦の話を聞こう。待ち伏せして事故現場から離れたところで足止めすれば巻き込まれることもないだろう。


 そこでちょうどいつものニュースの時間になった。私の仮説、「自販機男に傘を渡せばOK」を検証するべく、ニュースを確認すると…画面に映し出されたのは、見慣れた「四人死亡」の事故だった。

「…なんでだ?」

 お母さんが傘を持って出たのは確かだ。それは出かけたときに窓から覗いて確認済み。だとしたら、傘を貸さなかった?お母さんの性格からするとそれはあんまり考えられないことだけど、そうとしか思えない。

これは確認する必要がある。急いで一階に降りると、お母さんは台所でカレーを作っていた。ああ、この匂い、腹が鳴る。


「お母さん、今日何かあった?」

「あー、千秋ちゃん、今日千秋ちゃんの言うとーりに傘もって出かけたけど、雨降らなかったよ?ひどいね?もしかしてお母さん騙されちゃった?」

くっ、なんでこんなに無駄にかわいらしいんだ!

「いや、そんなことより今日何かあった?」

「今日?そうねぇ。買い物の途中に自動販売機の下に封筒を落としたって人が居たから、その人に傘を貸してあげたらお礼に飴玉を貰ったわ。ああ、そういう意味では傘は役に立ったわね」


 ふむ、予想に反してここまでは想定どおりか。なら…

「その後は?」

「えーっと、途中でひったくりのバイクに遭遇したから、無我夢中でジャガイモを投げたら犯人に当たっちゃって、見事犯人逮捕に協力できたのよ。いやぁ、偶然ってあるものね。すごいでしょ?」

 現場を唯一目撃した私が断言しよう。あれは「当たっちゃった」って雰囲気じゃなかった。「仕留めた」って感じだった。オリンピックメダリストのようなダイナミックで綺麗なフォームから投げられたジャガイモは、二人組みの脳天めがけて一直線に飛んで行ったんです。しかも命中したジャガイモが砕け散るほどの威力だったんです。でもそのことは怖いので聞かないことにしよう。


「その後は?」

「なに?今日はなんなの千秋ちゃん。そんなに気になるの?」

「ええ、とても気になりますとも」

「そんな大したことはないわよ?あとはそうね、迷子の子が居たから飴玉あげて、交番に連れて行ったわね。そうそう、その帰りに喫茶店の前を通りがかったんだけど、そこのケーキセットがおいしそうでね。入ろうかなーどうしようかなーって悩んでたら店から出てきた男の人とぶつかっちゃってね。その時買い物袋が破れて大変だったのよ?だからそこの喫茶店のマスターに袋貰ってね、お礼代わりにコーヒーを一杯飲んできたの。財布を見たらお金が足りなくてケーキセットは食べられなかったんだけど…コーヒーは結構おいしかったから今度一緒に行ってみる?って聞いてる?千秋ちゃん」

「聞いてますとも」

 子供を交番に?昨日はそんなイベントなかったぞ。迷子は居たけど…飴玉持ってたからかな?そうとしか考えられないよね。まったく、哀れな自販機男は人にどれだけ迷惑掛ければ気が済むんだ。

「他には?」

「他っていっても…喫茶店でぶつかった男の人が封筒を落としていってたからそれもお店のマスターに預けて…あとはまっすぐ帰ってきてこうしてカレーを作ってますが?あ、そうだ千秋ちゃん。今日はルーをちょっと変えてみたの。いつものが売り切れてたから。ちょっと試してみない?」

 これも初めてだ。自販機男に関わっているうちにルーが売り切れたんだろうか?まったく、哀れな自販機男は(ry

「え、あ、うん」

 差し出された小皿の上のカレーをぺろり、ってこれは…

「辛っ!!なんだこれ!!?」

「そう?そんなに辛いかしら?おいしいと思うけど…」

お母様は平然と味見しているけど、辛いなんてもんじゃない。いや、辛いを通り越して痛い。そして熱い。反射的に蛇口に手を伸ばして蛇口からがぶ飲み。はしたない?知るか!そんなこと考えてる余裕なんか全くないよ!涙出てきた。

「なにこれ、何カレー!?ってか本当にカレー?唐辛子のペーストじゃなくて?」

「これこれ」

 お母さんが棚から取り出してきたルーの箱には、極うま激辛80倍野菜エキスたっぷりカレーと書かれている。これは…なんか見覚えがある。そうだ、八月一日生活初期の頃、秋山先輩を攻略するときのキーアイテムになったカレールーだ。こんなところでまさかの再会。全然うれしくないけど。

「この夏の新発売でねー、この前ちらっとテレビで見てから気になってたんだー」

 うれしそうな顔でルーの小箱を抱えてキャッキャ言ってるけど、その手に握られているものを私は兵器と認識した。今度からはルーは私が買ってくるとでも言って兵器の購入をやめさせなければ!




* 事故に注意


 翌日、私は事故現場に立った。時刻は午後六時。そろそろ事故が起こるはずの時間だ。

 事故が起こらないようにカレーをリクエストして自販機に先回り、傘を自販機男に貸してから、電車で二駅、バスにちょっと乗って事故現場に来た。


 道幅の割りに交通量が少ない。そのかわり、車のスピードが速い。車道の両脇には歩道があって、その間はガードレールで区切られている。

 辺りを見回してみる。探すべきなのはこのぐらいの時間帯にここを通る主婦だ。それっぽい人に片っ端から話を聞いて、事故に巻き込まれそうな人を特定する。


 で、一時間半後。

 もう夜のニュースも終わった時間だ。収穫はゼロ。どいつもこいつも怪しく見える。一時間半で大体十人ぐらいの話を聞いたけど、何にもピンとはこなかった。


 で、とぼとぼと電車に乗っているとき、不意に気がついてしまった。

 カレーをリクエストした日にその主婦が事故に巻き込まれないということは、カレーをリクエストした日には主婦はその場所を通らないってことに。ということは、今日はいくら待っていたってそんな人来るわけないのである。


 気がついてみれば納得できる。つーか当たり前だ。なんでこのことに最初に気がつかなかったのか、むしろその方が疑問だ。でもまぁ、私だから仕方ない。


 いや、でも待てよ。

 ということは、だ。カレーをリクエストしなければ、その主婦はあの場所にやってくる、ってことだ。ならば明日、カレーをリクエストせずにここへ来て、今日居て明日居なかった人を特定すればいいんじゃね?私天才じゃね?でも今日会った人の特徴なんか覚えようとしていなかったから殆ど覚えていない。ここは明日一日使って今日通った人の特徴を覚えてから、明後日チャレンジしよう。


 で、翌々日。出来るだけ標準的な状況になるように、カレーもリクエストしなかったし自販機男の事も無視して、私はここに居る。


 周りを見渡してみる。

 やっぱりなんてことはない、普通の大通りだ。昨日と同じで車は少ない。とゆーかほとんどない。あとは犬を散歩させているおじいちゃんとか、自転車で歩道を爆走する小学生とか、そんなんばっかりだ。夕飯の準備の時間帯なのか、主婦らしき姿は全くない。細かいとこまで覚えちゃいないけど、印象的には昨日と全く一緒だ。


 私はじっと歩道を通る人を眺めながら時間が過ぎるのを待っていた。真夏の太陽が容赦なく照りつけるけど、ペットボトル持参だからまだ戦える。初日はこれを忘れたから死ぬかと思った。

 そのまま何事もなく三十分が経過した頃、私の前を見慣れないおばちゃんが通った。ハデハデな衣装の、特徴的なおばちゃんだ。こんな人が昨日居たら、いくら何でも気づかないわけがないし、覚えていないわけがない。決まりだ。この人だ。


 私はその人の前に回りこむと、アンケートを装って声を掛けた。そのための小道具(紙を何枚か挟めるA4サイズの板とボールペンとそれっぽいアンケート用紙)もばっちり準備してある。

この「アンケートを装う手法」ってのはリアル恋愛シュミレーションの過程において私が編み出した、聞き込みのための常套手段だ。

どんなに突飛な内容でもいきなり聞けて結構便利。カマをかけるにも効果的。ちなみに私のアンケートテクはこの一年ですこぶる上達した。

そんじょそこらの俄かアンケーターには負けない自信がある。インチキ画廊で詐欺的な値段の版画だって簡単に売りさばけそうな感じに成長してしまいました。


「あのー、ちょっとお時間いただけませんか?」

「…何?私ちょっと急いでるんだけど?」

 おばちゃんは見るからに不機嫌だ。凄みのある声で明確に私を拒絶しながら、歩道を進んでいく。でも、行かせるわけにはいかない。このまま行けば事故に巻き込まれてしまうんだから。


「今日、なにかよくないことが起こりませんでしたか?」

 言うと、おばちゃんは足を止めて、

「ああ?あったわよ!あった!ありました!いきなりバイクで後ろから鞄を盗られました!それがなにか!!?私がなにか悪いことした?アンタに何かした?」

 すごい剣幕で叫んだ。ちょうど八つ当たりの先を探していて、そこにたまたま私が現れて気に食わないことを言った。だから私にやり場のない怒りを容赦なくぶつけてくる。

 しかし、ひったくり。そうか、ひったくりか。これで繋がった。えらくあっさり繋がった。カレーじゃない日はひったくりが逮捕されないから、このおばちゃんが次の犯行の餌食になってしまったんだ。それで帰る時間がずれて今頃こんなところを歩いている。

「ご、ごめんなさい。そうとは知らずに失礼なことを」

 私は一旦大人しく引き下がる。


「あっと…ちょっとお姉さん!」

「何?」

「これ、落としませんでした?」

 私はわざとらしく落ちている百円玉を拾い上げる。もちろんこの百円はさっき私が置いたものだ。いぶかしがりながらもちょっと考えて、

「違うと思うわ」

 とやっぱり不機嫌に呟いてから去って行った。でも十分だ。十分足止めにはなった。これでこの人が事故に巻き込まれることはないはずだ。

 ちょうどその時、激しくほえる犬の鳴き声、それに続いて、けたたましいスキール音。で、ガシャン。

 事故だ!!音のしたほうに振り返りかけて、この時ほど自分の浅はかさを、バカさ加減を後悔したことはなかったよ。

 トラウマだ。ぶっちゃけトラウマだ。

 私が今目撃しようとしているこの事故は、紛れもなく死亡事故なんだ。しかも四人も死んでこの後のニュースのトップ記事になるほどの大事故なんだ。そんな事故をわざわざ見に行くなんて、正気の沙汰じゃない。でも、それに思い至らなかった。自分にはこの事故を起こさないようにも出来たのに、好奇心からそれもしなかった。


 振り向いちゃだめだ。振り向いた先にはきっと、私が見ちゃいけない景色が広がっている。車に乗っていた四人は、全員死んだんだ。私が殺したようなもんだ。好奇心は猫を殺すというけれど、私の好奇心は人間を四人も殺してしまった。


 さっき話しかけたおばちゃんも、青ざめた顔で呆然としていた。ちょうどその陰になって、私のところからは事故の様子は見えない。その先からは戦場のような悲鳴と怒声。


 私は、震える足に無理やり言うことを聞かせて、ただ走ってその場から逃げた。何も見ないようにして、何も聞かないようにして、全力で走って電車に駆け込んで、家に帰って布団の中で後悔に押しつぶされそうになりながら、何にでもなく、ごめんなさい、ごめんなさい、と繰り返した。どのぐらいの時間そうしていたかなんて、覚えていない。

 



*神々の遊び

 

 次の八月一日も容赦なくやってきた。それからしばらく何も手につかず、ただ、朝になると機械のように起きだして、カレーをリクエストするだけで精一杯だった。カレーをリクエストするだけだと事故はなくならないけど、少なくともあのおばちゃんが巻き込まれるのだけは防ぐことができる。


 ニ、三日たってやっとまともな思考ができるようになって来た頃、私は布団に包まってひたすら考えていた。もう、バカだから考えても無駄だとか、そんなことを言っている場合じゃない。どんな可能性でも考えて、それを片っ端から試していくより他に、方法はなかった。


 思い出せ。あの日、お母さんが言っていたことを。

 事故が起こらなかった日と起こった日の違い、それは迷子を交番に連れて行ったことと、そのせいで喫茶店の前を通りがかって、そこで男とぶつかったこと。男は封筒を落としていったらしい。


 子供を交番に連れて行かないようにするにはどうすればいい?お母さんに泣いている子供を見かけても放っておくようにお願いする?だめだ。たとえどんなにお願いしても、母は子供を放ってはおけないだろう。そういう人だ。

かといって、初日と同じように飴玉を貰わないようにするには自販機男に傘を貸さなければいいんだけど、それだと事故が起こってしまう。


 それならば、喫茶店で男とぶつからないようにすればいいのか?それとも、そもそも喫茶店の前を通って帰るのがダメなのか?喫茶店の前で迷うのがダメなのか?


 ともかくありとあらゆる可能性を考慮して、試してみるしかなかった。その間も、私の神経はどんどん磨り減っていく。


「お母さん、今日の晩御飯はカレーにしてね。あと、雨が降りそうだから傘も持っていって。それから、喫茶店のケーキがおいしそうでも、それは気のせいだからまっすぐ帰ってきてよね」

 その結果、事故は起こった。ケーキ屋の前で散々迷った結果私の言葉を思い出して帰ろうと思ったところで男の人とぶつかったらしい。袋が破れてどうのこうのと散々文句を言っていた。


「お母さん、今日の晩御飯はカレーにしてね。あと、雨が降りそうだから傘も持っていって。それから、おいしそうなケーキがあったら迷わず食べるべきだよ」

 その結果、やっぱり事故は起こった。迷わず食べようと思ったけどお金が足りなかったから、別のケーキにしようか、それとも帰ろうか迷っていたところで男の人とぶつかったらしい。やっぱり袋が破れてどうのこうのと文句を言っていた。


 事故を繰り返すたびに徐々に私のMPが減っていくけど、そんなことは気にしちゃいられない。大事なのは精神力ってキラも言ってた。

「お母さん、今日の晩御飯はカレーにしてね。あと、雨が降りそうだから傘も持っていって。それから、おいしそうなケーキがあったら迷わず食べるべきだよ。そのためにお金も多めに持って行ってね」

 これでやっと、事故がなくなった。一安心だ。だけど、途中で買い物袋が破れて困っている人がいて、助けてあげられなくて残念だ、と言っていた。


 次の日も、普通に八月一日だった。もう、やけくそだ。あらゆる不満を解消してやる。それで文句ないだろう?買い物袋が破れて困っている主婦がなぜだか発生するんだろう?なら簡単だ。お母さんに袋を持って買い物に行かせればいい。


「お母さん、今日の晩御飯はカレーにしてね。あと、雨が降りそうだから傘も持っていって。それから、おいしそうなケーキがあったら迷わず食べるべきだよ。そのためにお金も多めに持って行ってね。あとビニール袋も一枚持っていくべき!」

 結果、事故は起こらなかったけどやっぱり買い物袋が破れて困っている主婦がいて、袋をあげられればよかったんだけど家から持っていった袋は自分がスーパーで買ったものを入れていたから無理なんだってさ!


 あーもう!なんかイライラしてきた。でも、それと同時にこの頃からなんだか楽しくもなってきていた。私の言動ひとつで、四人の命を救うばかりか、それ以外のいろんなことが変化する。これは楽しい。楽しすぎる。まるで神様にでもなったみたいだ。ふふふ、神か、悪くない。私はこの力で新世界の神になる!!


「お母さん、今日の晩御飯はカレーにしてね。あと、雨が降りそうだから傘も持っていって。それから、おいしそうなケーキがあったら迷わず食べるべきだよ。そのためにお金も多めに持って行ってね。あとビニール袋も二枚ぐらい持っていくべき!」


 神になる、などと浮かれていた私に天罰が落ちるのを、そのときの私はまだ知らない。

 



*悪夢再来

 

 …なんで?

 もう事故は起こらないものだと完全に油断しきっていたところに、また事故のニュースが飛び込んできた。


 聞くと、喫茶店の前を通りかかった瞬間に男の人とぶつかったらしい。もう決まりだ。自販機男の封筒と、喫茶店で男とぶつかったときに落とす封筒、この二つを持ち主に返さない限り、事故が起こってしまう。

今回は買い物袋の破れた主婦の荷物を一緒に拾っているうちに到着時刻が遅れてぶつかるようになってしまったのか。かといってここで主婦を見捨てていては八月一日生活に終わりはない。

そう、根拠はないけど私はそう信じているんだ。私ができるだけうまく動いて、あらゆる問題を解決できたとき、きっと私はこの生活を抜け出して、普通の高校生としての生活に戻ることができると。

二年近くに及ぶ八月一日生活の中にやっと見出した希望だったから。


 男二人の封筒がなくならないように、私がついていってフォローすると、事故は起こらない。だからといって私がついてフォローするだけでは八月一日は終わらない。つまり、私がクリアしなければならない問題はこれだけじゃなくて、他にもいろいろある、ってことだ。

だから私は出来るだけ少ない手間で問題を解決して、他の問題を解決する余力を残さないといけない。きっと、そういうことだ。


 それからは試行錯誤の連続だった。

 すべてのスケジュールを早めるために買い物に行く時間を早めにするように頼んでみたら、自販機男にそもそも遭遇しなかったらしく、事故が起こった。私のMPにもダメージ。


 あと、何度も繰り返していくうちに制限も見えてきた。お母さんに七つ以上のお願いをすると、どうでもよさそうなことから忘れてしまう。ややこしいお願いをすると傘を持っていくのを忘れたりする。


 そんな中、私の心はどんどん擦り切れて、冷静さを取り戻していた。

 



*八月一日はカレーの日

 

 つまり、いくらこんなことを続けていても全く無駄だ、と思い始めていた。

 最初に事故のことに気がついてからもう半年以上、本当にいろいろなことを試して、それでも私の八月一日は終わらずに、ただ私の自己満足だけが残る、という有様だ。


 自販機男の封筒を無事に取り戻し、ひったくりにジャガイモを投げつけ、女王様が必要以上にひったくりの二人組みを痛めつけないように説得させて、買い物袋が破れた主婦に代わりの袋を貸し与え、野良猫に牛乳を与えて、泣いている子供に飴玉を、お母さんには喫茶店でケーキセットを、携帯の電池が切れて困っているおじさんに十円あげて、車道に落ちてる犬の糞を回収して、晩御飯が激辛カレーになって涙する兄と弟を救っても、結局のところ八月一日の次の日は八月一日だった。


 しかも、最近はなぜだか途中をちょっと変えるだけでも事故が起こったり起こらなかったりするようになってしまったので余計に神経を使う。地道な聞き込みとニュースの内容を照らし合わせて、事故を起こすのはあの自販機男と喫茶店で母にぶつかる男、携帯の電池が切れて困っているおじさん、それと彼らと一緒に仕事をしている女の人、ということを突き止めはしたけれど、それだけだ。

彼らの持っている大量の封筒がひとつでもなくなると、彼らは夕方車をかっ飛ばして方々を走り回ることになる。その時、たまたますれ違った犬同士が吼えあう音に驚いてハンドルを切り損ねてガードレールに激突したり、あるいは横断歩道を渡っていたおじいさんに突っ込みそうになって交差点の電柱に激突してみたりと、いじり方によっては事故の状況も大きく変わってくる。


 だから私は最近では人死にが出なくてひったくりも逮捕される無難なパターンをずっと繰り返すことにしている。だから、夜のニュースは今日も死亡事故を伝えずに、ひったくりをやっつけた主婦の武勇伝をラストにちょっと流すのだった。


「いやあしかし、同情する気にもなりませんが、犯人も災難でしたね。勇気ある主婦の行動には素直に賞賛を送りますが、視聴者の皆さんは決して無理をせず、危ないと思ったらすぐに逃げてください。それではまた、来週のこの時間にお会いしましょう」


 テレビの中でアナウンサーが頭を下げるのを見届けてから、スイッチを消して部屋を出る。さて、今日も勇気ある主婦の作ったカレーが私を待っている。ま、カレーばっかりじゃ飽きるんで、普段は外食ばっかりなんだけどね。今日はなんだか、カレーが食べたい気分。ほら、こんなにいい匂い。

「辛ッ!!」

 あ、そういえばルー買ってくるって言うの忘れてた。私は階段を下りたその足で玄関を飛び出して、兄の悲鳴を背に受けながら、携帯を取り出した。

「ごめん、ミカ、今からちょっと出られない?ファミレスでご飯でも一緒にどう?そのあとカラオケとか――」



 私の八月一日はまだ、終わらない。



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