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006 木人ファイト ~女神武闘伝A木人~

 本編と直接の関係はありません。

 ギャグやコメディが苦手な方はご覧にならないほうが良いかもしれません。


 また、登場人物などの関係上、本編の18章末までお読みになってから御覧になることをお奨めします。


「皆さん、お待ちかね~!」


 満員の闘技場に、ミリィの能天気な声が響いた。

 何故(なぜ)かミリィは、片目に眼帯をしている。彼女はピンクのワイシャツに青の蝶ネクタイ、そしてワインレッドのスーツを着けている。また、彼女は片手にマイクに似た集音の魔道具を持っており、一見するとショーの司会者か何かのようだが、幼い姿には今ひとつ似合わない。

 しかし、観客は『そんなことはどうでもいい!』と言わんばかりに拳を突き上げ声援を送っている。


「木人ファイト決勝大会が、いよいよスタートです~。アマノ同盟各国の木人達が、アマノシュタットに集まりました~」


 ミリィの声に合わせて、闘技場の中心が光の魔道具で照らされる。すると、そこには八体の木人の姿があった。


「しかも、驚くべき木人まで姿を見せたではありませんか~。それは、ヤマト王国から来たヤマト木人です~。はい、皆さん拍手~!」


 観客達は、割れんばかりの拍手喝采でミリィに応える。

 アマノ同盟に加盟しているのはエウレア地方の七カ国、アマノ王国、メリエンヌ王国、ヴォーリ連合国、カンビーニ王国、ガルゴン王国、デルフィナ共和国、アルマン共和国である。したがって八体目が招待選手なのは、闘技場に集まった観客達からすれば自明の理であったのだ。


「それでは~、木人ファイト~、レディ~・ゴ~!」


 何が『それでは』なのか全く判らない流れではあるが、ミリィは強引に開会宣言に持っていった。

 しかも彼女は、いつの間にかスーツの上着を脱ぎ、更に着けていた眼帯をわざわざ外し、両手を突き上げての絶叫である。ちなみに眼帯の下に隠されていた目は普通であり、着けていた理由も良く判らない。


「これは、先が読めないね!」


「ああ! 予測できるのは、よほどの通だけだ!」


「もちろん俺は判るさ! いや、ここに集った者は、皆そうだろ!?」


 闘技場の中では、観客達が興奮気味に叫んでいる。どうやら、かなり高度な戦いが繰り広げられるらしい。そのためだろう、観客達を良く見ると(いず)れも『通』らしい顔をしていた。



 ◆ ◆ ◆ ◆



「え~、ここで解説の方々をご紹介しましょう~。まずはアマノ同盟を率いるお方『光の盟主』シノブ様です~。この場合は『シャイニング盟主』とでもお呼びしましょうか~」


「呼ばなくて良いよ……シノブ・ド・アマノです。木人の操縦経験は一応ありますが、解説できるほどの知識はありません」


 ノリノリのミリィに、シノブは苦笑で応じた。そして彼は真面目な口調で自己紹介をする。

 これが国王かという気さくな語りだが、解説者として臨んだからであろうか。それとも、やはりこれが地なのだろうか。


「シノブ様は、各選手のコメントをしてくだされば良いです~。次は私の同僚でもあるアミィです~。お目付け役だけど恵みのアメやチョコはくれません~」


「ミリィの馬鹿! そんなこと言わなくても……」


 全く揺らがないミリィに呆れたのか、アミィは小さな拳で彼女の頭を叩いた。


「叩いたね? アムテリア様にも叩かれたことないのに!」


「ミリィ……アミィです。木人は操縦できますが、シノブ様と同じであまり経験はありません」


 もはや、どうしようもないと思ったのだろう。アミィは苦笑したまま自己紹介をする。

 シノブと同様に冗談を交えずに進めていくアミィの姿からは、似た者主従という言葉が浮かんでくる。


「三人目は、木人の本家本元であるヤマト王国は伊予(いよ)の島からお越しいただいた、女王日巫女(ひみこ)様こと美魔(みま)豊花(とよはな)様です~。ヒミコ様、木人の解説はお任せしました~」


 流石に他所の国の大領主に対してだと、ミリィも冗談を言わないようだ。口調は変わらぬものの、彼女は穏当な表現でヒミコことトヨハナを紹介する。


「うむ。安心して任せるのじゃ」


 トヨハナは百歳を幾らか超えたエルフで、他種族なら三十代に入って数年という若さである。しかし彼女は(おおやけ)の場だと地位に相応しい態度を心がけているらしい。そのためトヨハナは威厳のある口調でミリィに応じていた。


「それでは、第一回戦の第一試合です~。最初は何と、ヴォーリ連合国とアマノ王国ですよ~!」


 ミリィの言葉を聞き、場内が大きなどよめきを上げていた。

 何しろ会場はアマノ王国の王都アマノシュタットなのだから、当然アマノ王国の民が多い。それにヴォーリ連合国は北側に隣接しており鉱山開発で多くのドワーフが来ている。くじ引きの結果か何かなのだろうが、この組み合わせが最初と思った者は少なかったのではないだろうか。



 ◆ ◆ ◆ ◆



「ヴォーリ連合国は、何と三体変形合体の『陸海空木人』ですよ~。通常形態は戦斧が武器ですね~」


 闘技場の中央には、ミリィが紹介したヴォーリ連合国の木人が立っている。

 頭部と胸部は赤く、頭からは二本の角が両脇に伸びている。胸の下は白く、下腹部は黄色である。手足は白と赤で塗り分けられており、後ろにはマント状のものを着けている。ドワーフが操縦しているにしては細身の木人だが、憑依するのだから体型は関係ないのかもしれない。

 そして両手には一本ずつ黒光りする戦斧を持っている。斧の柄は刃の根元が太く、まるで棍棒に斧の刃を付けたような、一種独特の形状であった。


「ほう! それはすごいのじゃ! 我らがヤマトのエルフでも、合体木人など造ったことはないのじゃ!」


 ヒミコが驚きの声を上げた。

 確かに伊予(いよ)の島の巨大木人は様々な種類があり、しかも魔術を応用した技まで使う高性能なものであったが、合体などはしなかった。木人は人間が憑依し動かすから、基本的に人体と異なる動きは出来ない。そのため変形合体などを実現したことはないらしい。


「ちなみに木人は、全てメリエンヌ学園の研究所で造ったものです~。操縦者の要望などを聞いて一体ずつ拵えた特別製ですが、魔力蓄積結晶の量などは揃えて公平にしています~」


 ミリィは観客向けに、木人ファイトや木人に関するルールを語っていく。

 この木人ファイトの正式名称は『アマノ同盟木人技術大会』で、使用する木人も開催委員会が定めた『アマノ同盟木人技術大会 木人規格』に則ったものだ。しかし多くの者は通称である『木人ファイト』を使うし、出場する木人も通は『ア木人』などとしているが普通は単に木人と呼んでいるようだ。

 戦闘方法は肉弾戦か木人に仕込まれた魔道具による擬似的な魔術である。そして闘技場の中には魔力障壁で囲まれた区画が用意され、その中で戦う。

 相手が木人への憑依を継続できなくなるか、あるいは木人が破壊されて立てなくなるか、そのどちらかに持っていけば勝ちである。

 ちなみに勝利条件には、相手が戦闘不能になってから十秒間の自立が含まれている。そのため、両者が前後して戦闘できなくなった場合、両者敗北という事態もあり得る。


「それは良いんだけど、どうやって三つも同時に操縦するのかな?」


「そうですよね……」


 シノブとアミィは首を傾げていた。どちらも複数の木人を同時に操ったことなどないからである。

 シノブは極めて大きな魔力を持っている。それにアミィはエウレア地方の者で最初に木人を操り解析にも協力した、いわばエウレア地方での第一人者である。しかし、その二人が想像も出来ないのだから、かなり意表を突いた方法に違いない。


「もう一方は『戦乙女(ヴァルキリー)木人』です~。もちろん、操縦者は戦王妃(せんおうひ)シャルロット様です~!」


 アマノ王国の方は、ほっそりとした白い木人であった。飾りは少なく実用的な外見である。『陸海空木人』の形容が超絶的(スーパー)なら、こちらは現実的(リアル)とでも呼べば良いのだろうか。

 とはいえ、手にする武器は戦乙女らしく長槍であった。その辺りは現実は現実でも、この世界の現実に沿ったもののようである。


『アマノ王国、戦王妃(せんおうひ)シャルロットです。……貴女の名は?』


 シャルロットは凛々しい声で名乗りを上げ、相手の名を問うた。

 既にヤマト王国の木人を参考に発声の技術を実現したから、こちらの木人も声を発することが可能であった。そのため『戦乙女(ヴァルキリー)木人』からは、シャルロットにそっくりの美しい声音(こわね)が響く。

 なお、この木人ファイトの操縦者は全て女性である。したがって、シャルロットは相手が女性であることについては疑っていないようだ。


『ヴォーリ連合国のアウネです』


『同じくラウナです』


『同じくメーリです』


 何と、『陸海空木人』の操縦者は三人であった。イヴァールの妹アウネと、アウネの友人ラウナ、そしてブラヴァ族のドワーフの少女メーリであった。

 おそらく魔力の少ないドワーフだと、一人では木人を動かせないのだろう。そのため三人が力を合わせて操縦しているようだ。


「こ、これは~。……失格です~」


『開催委員会からのお知らせです。ヴォーリ連合国の皆様は、操縦者が一人だとご理解されていなかった模様です。大変申し訳ありませんが、ヴォーリ連合国は失格とさせていただきます』


 ミリィに続き、ソニアのアナウンスが闘技場の中に響き渡った。何とも間の抜けた話だが、第一回戦はシャルロットの不戦勝となったのだ。



 ◆ ◆ ◆ ◆



「それでは気を取り直しまして~。第二試合はアルマン共和国の『魔法騎士木人』とメリエンヌ王国の『光の木人』ですね~。操縦者はアルマン共和国がアデレシア様、そしてメリエンヌ王国はセレスティーヌ様です~」


 どうやら、今度は先に操縦者を確認したらしい。ミリィは双方の操縦者も含めて紹介していた。

 『魔法騎士木人』は、青い色で細身の鋭角的なデザインである。竜を模したのか後ろには羽、足には大きな爪まである。

 そして『光の木人』は銀色の地に赤い模様であった。こちらは『魔法騎士木人』のような鋭さは無く、人そのもののような、あっさりした外見であった。特徴と言えば頭の上の前から後ろに流れるような突起と、胸に青く光る魔力蓄積結晶らしきものくらいである。

 ちなみにセレスティーヌだが、まだシノブに嫁いでいないためメリエンヌ王国の代表となっていた。どうもメリエンヌ王家や公爵家の女性で憑依の適性を持つ者では、彼女が一番魔力が大きく操縦も上手かったようである。


「青ということは、アルマン共和国に伝わる遺宝のように水を操るのかな?」


「メリエンヌ王国も四つの光の遺宝でしたからね」


 シノブとアミィの声は何となく笑いを抑えるようなものであった。しかし、それでも二人は真面目に解説を続けていく。


「それでは~、木人ファイト~、レディ~・ゴ~!」


 ミリィの掛け声で、戦いは始まった。どちらの木人も魔法攻撃が主体らしく、距離を取ったまま独特のポーズをとる。


『海の竜!』


『テヤッ!』


 アルマン王国の元王女、現在はアルマック伯爵の妹アデレシアの操る『魔法騎士木人』は、叫んだ技の名の通り青い竜のような水弾を飛ばす。

 それに対し、セレスティーヌは掛け声らしきものだけで言葉は発しない。少し前のめりの姿勢の『光の木人』はアミィの予測通り光線を、十字に組んだ腕や突き出した手から放っている。


「ミリィ殿。何故(なぜ)セレスティーヌ殿は、しゃべらぬのじゃ?」


「あ~。光線技を強化するために会話機能を削ったみたいです~。確かに戦いには不要ですからね~」


 トヨハナの疑問に、ミリィは答えていく。

 木人の大きさは規定で定められており、魔道装置を幾らでも積めるわけではない。そこで強力な術を使うために、『光の木人』から戦闘に不要な機能を削ったのだろう。

 そんなことをミリィが話している間に、結構な時間が流れていく。


「あっ、胸の結晶が!」


「点滅しています!」


 シノブとアミィの叫んだ通り、『光の木人』の胸の魔力蓄積結晶らしきものが点滅していた。すると『光の木人』の動きが慌ただしくなる。もしかすると、魔力切れか何かが近いのかもしれない。

 『光の木人』は光線技を連発し、その甲斐あってか『魔法騎士木人』の各部が焦げ、一部が爆ぜていく。


「これはセレスティーヌ様の~、あ、あれ~?」


「どうやら引き分けのようじゃな……」


 『魔法騎士木人』の両足が吹き飛び倒れた直後、『光の木人』も前のめりに突っ伏した。『魔法騎士木人』は物理的に直立不能、『光の木人』は魔力切れか操縦可能時間が過ぎたようである。



 ◆ ◆ ◆ ◆



『あなたは獅子王レオンの子孫でしょ。信じられないの、自分の力が』


 ガルゴン王国の王女エディオラは、普段に増して無感情な声音(こわね)である。正確には、彼女が動かす『伝道師木人』が、であるが。

 オレンジ色の『伝道師木人』は、どこか『光の木人』に似た前のめりの姿勢である。そして相手の技を八角形の光る魔力障壁で受け止めては、エディオラが無機質な声で呟いている。


『光になるのじゃ~!』


 組んだ両腕から緑色の光を放つのは、カンビーニ王国の公女マリエッタが憑依した漆黒の『獅子王木人』である。

 まるで地獄(ヘル)()天国(ヘブン)を同時に照らすような恐ろしい光は戦いの場を包んだ魔力障壁を揺るがすが、それでも『伝道師木人』の絶対的なまでに不可侵な障壁は打ち砕けない。


「こ、これは~。結界が危ないですね~。ホリィ~、マリィ~、頑張って障壁を支えるのです~」


 闘技場を保護しているのは、アムテリアの眷属であるホリィとマリィであった。これで駄目ならシノブやアミィも加わることになるのだろうが、現在のところ最悪の事態は避けられそうである。


「いつまでも続かんぞ……憑依の同調率は四十割ほどになっておるし、これでは操り手が……」


 トヨハナは、木人術の使い手らしく何やら専門的な言葉を口にする。しかし十割を超えた同調率とは、いったい何なのだろうか。


「エディオラさんが魔術系なのは納得だけど、マリエッタも一緒とは思わなかったな」


「木人自体に魔法攻撃用の装置が仕込んでありますから。魔力があれば、こういう攻め方もありなのでしょうね」


 シノブとアミィは、解説というより観客のようであった。特にシノブは木人に詳しいわけでもないので、最初に操縦者について説明してしまえば、こうなるのも仕方ない。


 そしてシノブ達が言葉を交わしている間に、強大な威力の光の矛と不壊の姿を保ち続ける光の盾の戦いに、異変が起きる。


「爆発、ですね~」


「だからお前はアホなのじゃ……と作り手に言うべきかの。双方の……」


 何と、今回も双方が戦闘継続不能となっていた。『伝道師木人』は体全体から、『獅子王木人』は両腕を中心に濛々(もうもう)たる煙を上げている。どちらも加熱(ヒート)()終了(エンド)ということのようだ。



 ◆ ◆ ◆ ◆



 第四試合は、第二試合を彷彿とさせる強烈な撃ち合いであった。


 片や招待選手であるヤマト王国のヤマト木人。ヤマト王国のヤマト姫こと(いつき)姫が操る、大和撫子の象徴たる木人だ。なお、ヤマトが続くのはヤマト王国だけに勘弁願いたい。

 もっとも木人自体は海に浮かぶ城のような黒光りする無骨な造りであった。そしてヤマト木人は、両肩の上に据えられた三連主砲から眩い光を敵に向かって放ち続けている。


 もう片方は、デルフィナ共和国のエルフの巫女メリーナが操るムサシ木人であった。東西のエルフの技術交流が進んだせいか、ほぼ同型機の登場となったのだ。


「こ、これは~」


「今回も、なのじゃ……」


 ほぼ同等の能力の木人が真正面から撃ち合ったのだから、共倒れは必然と言うべきだろう。

 壮絶な、第三試合と同様に保護の魔力障壁を揺るがす激闘であったが、戦い方が愚直に過ぎた。哀れ大艦巨砲主義の末路、というべきであろうか。

 もっとも双方とも相手が攻撃可能範囲に入ったと同時に撃ち始めたから、接近するのは容易ではなかっただろう。



 ◆ ◆ ◆ ◆



「と、言うことは~? 第二から第四試合が全て双方戦闘継続不能で、第一試合がシャルロット様の不戦勝ですから~」


「……シャルロットの優勝?」


 困惑気味のミリィに、シノブは苦笑しながら応じた。


『いや、それではあまりに興醒めであろう……ここは(わらわ)が本当の木人戦闘を見せるのじゃ!』


 いつの間にか、トヨハナは木人に憑依していた。解説席に座る彼女の肉体からは力が抜け、代わりに闘技場に現れた白い木人から声がする。


「ヒミコ様~、その木人の名は~?」


 ミリィも、ダブルノックアウトに不戦勝だけでは詰まらないと思ったのだろう。彼女はトヨハナの乱入を認めることにしたようだ。

 それに開催委員も口出ししない。どうやら開催委員はシャルロットの優勝とし、これは非公式な試合とでもすれば良い、と思ったようだ。


『これは……これは『機動木人』じゃ! こんなこともあろうかと、(わらわ)も持ち込んでおったのじゃ!』


『確かに、このままでは不満が残ります。木人が誕生した地の巫女姫の技……ありがたく学ばせていただきます!』


 トヨハナの『機動木人』が光り輝く細い直剣を抜くと、シャルロットの『戦乙女(ヴァルキリー)木人』も長い槍を手に前に進む。

 『機動木人』は百年近い研鑽による熟練の風格を。そして『戦乙女(ヴァルキリー)木人』は歳月こそ(かな)わぬものの、やはり幼少からの血の滲むような修練と生身で戦に赴き得た凄みを。双方の発する神気とも魔気とも言うべき圧力が場を引き締め、更に清めてさえいく。

 もはや、開始の合図など不要であった。それを悟ったのかミリィも言葉を発することはない。


『参ります!』


『来るがよい、若き戦乙女よ! そなたの心、そなたの魂の歌、(わらわ)に響かせるのじゃ!』


 場数はシャルロットの方が圧倒的に踏んではいるが、それは我が身を使っての戦いである。そのためだろう、彼女は謙虚な物言いで戦闘開始を宣言した。

 対するトヨハナは、正に女王の威厳をもって応じていた。王妃と女王、国を率いる女性達の戦いは、こうして始まったのだ。


『ベルレアン流槍術……稲妻!』


 一直線に飛び込んだシャルロットの木人は、彼女が肉体で戦うときと代わらぬ槍術を披露した。しかも彼女の操る木人の槍には眩い雷光が宿り、名称の通りの威容である。

 どうやら『戦乙女(ヴァルキリー)木人』はシャルロットの戦闘能力を活かし、そこに魔法攻撃を付与する形にしたようだ。確かに下手に木人の特殊能力に頼らず、元々優れた武人であるシャルロットの能力を引き出すのが上策だと言えよう。


『おお、見事じゃ! 美威武(びいむ)冴亜辺流(さあべる)!』


 トヨハナが操る『機動木人』は、こちらも右手の光る剣で『戦乙女(ヴァルキリー)木人』の槍を受け止めた。

 『機動木人』の光の剣は、細い棒のような円錐形で長さもさほどではなく扱いやすそうだ。とはいえ、これだけだと槍の相手は厳しいだろう。

 しかし『機動木人』の左手には大きな赤い盾がある。トヨハナは、それも上手く用いてシャルロットの攻撃を(しの)いでいた。


『稲妻……火炎! ……爆撃!』


 『戦乙女(ヴァルキリー)木人』が使えるのは、雷撃だけではないらしい。シャルロットの操る木人は、槍から吹き出す炎や、遠方に飛ばして爆発する火炎弾などを交えている。


『なんの! (わらわ)が一番、木人を上手く使えるのじゃ!』


 トヨハナも豪語するだけのことはある。彼女自身は生身での戦闘経験などない筈だが、それを補う操縦術で相手の攻撃を防ぎ、反撃をしている。


『何とも恐るべき……素質か、それとも修練か?』


『熱き心を叩きつけるだけ……それが戦いです!』


 驚愕するトヨハナに、熱き心と言いつつも冷静な様子を崩さないシャルロット。長時間の戦いで、実際の戦闘経験の差が現れてきたようだ。

 シャルロットの『戦乙女(ヴァルキリー)木人』の槍が、『機動木人』の頭部を貫き吹き飛ばしたのだ。


『まだじゃ、たかが視覚をやられただけじゃ!』


 通常、木人が大きく破損すれば憑依は解ける。しかし流石は女王ヒミコだけあり、トヨハナの『機動木人』は戦闘を継続していた。

 言葉通りトヨハナは的確な剣捌きで応じるが、傾き掛けた天秤を戻すことはできなかった。シャルロットは、容赦のない追撃で『機動木人』の左腕を切り落とす。

 そして一瞬片腕を天に掲げた『機動木人』から、残った腕も落ちて体も地に崩れ落ちる。


『……私の戦いの歌、聴いていただけましたか?』


 シャルロットの『戦乙女(ヴァルキリー)木人』から発した微かな声は、トヨハナに届いたであろうか。限界まで戦ったためだろう、肉体に戻ったトヨハナが意識を取り戻したのは、暫く後のことであった。



 ◆ ◆ ◆ ◆



「さ~て、後片付けですね~」


 闘技場に降りたミリィは、壊れた『機動木人』を抱え上げた。木人ファイトに使った木人達は、子供くらいの大きさだったのだ。


「小型だから助かりますね」


「巨大木人だったら、王都に被害が出るわよ。それに魔力障壁を維持するのも疲れるし……。ともかく、ここは私達がやるから、ミリィは最後の締めをお願い」


 ホリィと共に『機動木人』の破片を拾っていたマリィだが、ミリィへと手を伸ばす。

 コクリと頷いたミリィは、同僚に『機動木人』を渡す。そして彼女は木人達が戦った舞台の中央に移動し、満員の観客席へと顔を向けた。


「さようなら~! 皆さん、また次回の木人ファイトでお会いいたしましょう~!!」


 ミリィは集音の魔道具を使い、闘技場全体に声を響き渡らせた。そして観客達は万雷の拍手と天に届く歓声で、司会という大役を終えた彼女に応えていた。


 今回は、結城藍人様からいただいた「木人ファイト」のお言葉を元にしたお話です。

 結城藍人様、素晴らしいアイディアをいただいたこと、心から感謝しております!


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