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005 星に会う騎士

 本編開始前の過去話です。一応、本編2章末から3章末あたりまでお読みになってからご覧になることをお奨めします。ですが、あまり本編との時系列を気にされなくてもよいかと思います。


 あたし、ミレーユ。シャルロット様の副官をしているの。えっ『ベルレアンの戦乙女』を知らないの?

 そうよ、あの『戦乙女』のお付きの騎士なのよ! 凄いでしょ~。


 あたしの実家は、ソンヌっていう小さな町の領主なの。でも、お兄ちゃんが、ベルレアン伯爵家で侍従見習いをしていたから、その縁でシャルロット様のお付きになれたの。

 あっ、シャルロット様は、ベルレアン伯爵閣下の継嗣なのよ。だから、将来は女伯爵になるの!


 でも、田舎男爵の娘が、伯爵様の御息女にお仕えするなんて、色々大変だったんだ。最初なんて、失敗ばかりだったし……。

 どんなことがあったのか知りたいって? そうね~、じゃあ、教えてあげるね!



 ◆ ◆ ◆ ◆



「ミレーユ、お前もベルレアン伯爵家にお仕え出来るぞ! それも継嗣シャルロット様の側仕えだ!」


 10歳の誕生日の少し前、5月の終わり頃だったかな。父上が、あたしに言ったんだ。すっごく嬉しそうな顔だったけど、今から思えばそれも当然よね。


「えっ! あたしが!?」


 お兄ちゃんがベルレアン伯爵家にお仕えしていたから、あたしもシャルロット様のお名前は聞いていたの。でも、その時は、あたしより一つ年上ってくらいしか知らなかったな。


「ミレーユ、お側に上がるのですから『あたし』はやめなさい。そんな言葉遣いでは、伯爵家の方々に笑われますよ」


 驚いたあたしに、母上が少し怖い顔をして注意したの。

 大人になった今でも、たまに『あたし』って言ってアリエルに注意されるんだけど、小さいときのクセって、なかなか直らないよね。えっ、今も言ってるって? 固いことは言わないの!


「はい! 気を付けます!」


 あたしは、母上に叱られるのが怖くて、素直に返事をしたの。

 だって、母上は今のあたしと大して変わらない小柄な人だけど、大男の父上やお兄ちゃんを、ビシバシ叱るんだから。家で一番怖いのは、当主の父上でも跡取りのお兄ちゃんでもなくて、母上なの。なにしろ、怒らせるとご飯が出てこないからね~。


「良い返事だ! シャルロット様は、武術の才をお持ちだから、きっとお前を気に入って下さるぞ!」


 お兄ちゃんは、そう言ってあたしの頭を撫でてくれた。父上とお兄ちゃんは、10歳の時のあたしより、頭二つは大きいから、いつもこうやって上から撫でるんだ。優しいから嫌いじゃないけどね。


「そうなんだ……いえ、そうなのですか?」


 あたしは、母上に注意されたばかりだから、慌てて言い直した。また、母上の顔が険しくなったんだよ。


「ああ。先代様が、熱心に教えているそうだ」


 お兄ちゃんは跡取りだから、15歳になって成人するとソンヌに戻って来たの。二年前ね。で、それまでは伯爵閣下のお側にいたから、先代ベルレアン伯爵のアンリ様に槍術を教えてもらったの。

 先代様は、今から20年前、このときからだと14年前かな、ベーリンゲン帝国との戦で敵の将軍を討ち取って、陛下から『雷槍伯』の異名を授かった凄いお方なんだよ。


「私も『雷槍伯』様から教えて貰えるでしょうか!?」


 あたしはお兄ちゃんの言葉に目を輝かせていた。あたしは魔術は得意じゃないし、魔力も少なかったから、小さい時から武術の稽古を一生懸命したんだ。乗馬に弓、槍に剣、一通りは習ったし、父上からもすごく褒められていたの。

 だから、先代様に槍術を教えて貰えるかもと思って、期待で胸が一杯になったのよ!


「うむ、一緒に稽古をつけて下さるはずだ。だが、シャルロット様の足を引っ張らないようにするんだぞ」


「そんなことはしません! 私の腕前は、父上もお褒めになって下さったじゃないですか!」


 あたしは、父上の言葉に思わず叫んだのよ! だって、小さいころから学んだ武術の腕には、自信があったもの!

 修行の邪魔だから、男の子のように髪を切ってまで学んだのに、父上が今さらそんなことを言うなんて、信じられなかったのよ。自分で言うのも何だけど綺麗な赤毛だったから、本当は切りたくなかったの。


「お前の努力は認めるが、上には上がいるのだ。こんな田舎町では、わからないだろうがな」


 でも、父上は難しい顔をしたままだった。それに、お兄ちゃんや母上まで隣で苦笑いをしているから、あたしは泣きそうになったの。


「……伯爵家に行ったらわかるだろう。ともかく、失礼の無いようにな」


「はい……」


 父上の言葉に、あたしは素直に頭を下げた。でも、絶対に負けるもんかと思っていたけどね!



 ◆ ◆ ◆ ◆



 それから少しして、あたしはベルレアン伯爵領の領都セリュジエールへと向かったの。父上と一緒に、馬車に乗っていったんだ。

 あっ、家は田舎男爵だけど、馬車くらいはあるのよ! 古くて小さいのだけど……。


 ソンヌはベルレアン伯爵領の都市ルプティと、ラコスト伯爵領の都市テルールを繋ぐ街道にあるの。ベルレアン伯爵領に一番近い町だから、急げばルプティで一泊するだけでセリュジエールに行けるのよ。

 でも、あたしは、父上達から聞くばかりで町から出たことは無かったの。だから、馬車から見える風景に夢中だったんだ。


「父上、あれがルプティですか……」


 あたしは、馬車の窓から首を出して、目の前に見える城壁を眺めていた。城壁は、ソンヌにある家よりも高そうで、遠くからも良く見えたよ。


「ああ、そうだ。ルプティは2万人も住む大都市だぞ」


 父上も若いころはベルレアン伯爵閣下の下で侍従見習いをしていたし、その後も年に一度くらいはセリュジエールに行っているの。だから、ルプティを見ても驚くことなんか無いみたい。父上は、ルプティに着くまで都市の色々な事を教えてくれたのよ。

 そして、その日はルプティの代官の館に泊めて頂くから、馬車は街の中央に向かって真っすぐ進んだの。


「お館様、お嬢様、どうぞ」


「ありがとう、ジェスト」


 代官の館に着くと、御者をしてくれた従者のジェストが、馬車の扉を開けてくれた。あたしがお嬢様だなんて、笑っちゃうでしょ。でも、ソンヌにいる家臣からは、そう呼ばれているのよ。


「おお、ソンヌ男爵。久しぶりだな」


 馬車が着いたのは、ソンヌの家なんか比べ物にならない、とっても大きな館の前だったの。田舎から出たばかりのあたしには、まるで宮殿のように見えたのを憶えているな~。

 そして、そこには父上やお兄ちゃんのような大きな体をした軍人が立っていたの。その人は父上達と同じ赤毛だから、何だか親戚のようだった。

 でも、とても立派な軍服で、白いマントに金の縁取りが付いていたけどね。


「ブロイーヌ子爵、お久しゅうございます」


「ブロイーヌ子爵閣下! 初めまして、ミレーユと申します!」


 あたしは、父上に続いて慌てて頭を下げたの。

 貴族で大隊長以上を示す白に金のマントだから、身分が高い人だと思っていたんだ。でも、ブロイーヌ子爵閣下のロベール様だなんて!

 だって、ロベール様は、ベルレアン伯爵閣下の従兄弟に当たる方なのよ!


「おお、中々有望そうな子だな。ソンヌ男爵やエルヴェに似て、良い武人となるだろう」


 ブロイーヌ子爵閣下は、あたしを見て、優しく言葉をかけて下さった。あっ、エルヴェはお兄ちゃんの名前ね。

 閣下は、あたしが軍服風のシャツとズボンを着ていたから、軍人志望だと思ったみたい。もちろん、あたしは軍務に就くつもりだったけど。あたしが内政官とか、笑っちゃうでしょ?


「あ、ありがとうございます!」


 ブロイーヌ子爵閣下にお褒め頂き、あたしはとても嬉しかった。

 実は、巨大なルプティの街を見てビックリしていたの。でも、父上やお兄ちゃんと同じくらい強そうな子爵閣下に褒められて、これなら大丈夫かも、と安心したのよ。


 その日は、ブロイーヌ子爵閣下や奥方のモルガーヌ様と一緒に、夕食を頂いたの。晩餐の作法は母上から教わっていたから、何とか失敗せずに済んだけど、料理の味なんか全く憶えていないよ~。

 奥方様があたしに話しかけてくれたけど、あの時は碌に返事もできなかったな。立派な広間にビックリして、何だか大変なところに来てしまったと思っていたから。



 ◆ ◆ ◆ ◆



 知っていると思うけど、領都セリュジエールは、ルプティよりも更に巨大な都市なのよ。何しろ人口5万人! ソンヌの50倍近いのよ!

 だから、あたしはとても緊張していたの。こんな大きな都市に住む領主様に会うんだから。それに、ベルレアン伯爵領には30万人の人が住んでいるの。あたしは男爵の娘だけど、父上の領地には千人くらいしか居ない。とても同じ領主同士だなんて、思えないよね?


「ミレーユ、大丈夫か? 閣下はお優しい方だから、心配しなくても良い」


「は、はい!」


 外を見るのも怖くなって黙り込んでいたのが、父上にもわかったみたい。父上は、心配そうな顔をしてあたしを見ていた。

 あたしは何とか返事をしたけど、それでも何だか胸がドキドキして、落ち着かなかったの。


 でも、そうしているうちに馬車はベルレアン伯爵家の館へと到着したんだ。

 父上も男爵だから、馬車で館の正面まで乗りつけることが許されている。だから、父上とあたしは、館の大扉のすぐ手前で、馬車を降りたのよ。


 家令のジェルヴェさんの案内で、あたし達はベルレアン伯爵閣下の待つサロンへと向かったの。

 大きな窓からキラキラと光が降り注ぐ廊下には、沢山の絵画が掛かっているし、とても広かった。それに、床や天井も凄く立派で、田舎者のあたしは、ここが王宮だと言われても信じてしまいそうなくらい。

 もう、余計なものは見ないで父上の背中だけを見ることにしたんだ。だって、見ているとドンドン緊張していったから。


「やあ、エルヴァン。元気そうだね」


 ソファーから立ち上がった方が、父上に優しく微笑んだの。アッシュブロンドに緑の瞳の優しそうなお顔に、綺麗に整えた髭の方だった。

 でも、あたしは、ちょっと意外だったの。だって伯爵閣下は、先代のアンリ様と同じく槍の達人で、しかも風の魔術の名人なの。手練の秘技を披露して陛下から『魔槍伯』の名を授かった達人が、あんな穏やかそうな方だなんて、思ってもみなかったんだ。


「閣下、お久しゅうございます。それに、先代様もお元気そうで何よりです」


「うむ! 息子に爵位は譲ったが、まだまだ軍は儂が切り回しておるからな!」


 先代様は、白い立派な髭とがっしりした体のお方だった。でも、とても若々しくて、軍服姿も若い方以上にピシッとしていたよ。


 そして、あたしはベルレアン伯爵家の方々をご紹介いただいた。

 まずは先代様の奥方、マリーズ様。このときは御存命で、お元気にされていたの。

 次に伯爵閣下の奥方様達、カトリーヌ様にブリジット様ね。

 カトリーヌ様は、豊かなプラチナブロンドと、とても優しそうな感じが印象的だったよ。とても、先王様の娘だなんて思えないくらい気さくな方で、あたしは凄く驚いたの。

 ブリジット様は、凄く控えめな感じだったから、別の意味で驚いたな。でも、第一夫人のカトリーヌ様が王族だから、それも仕方が無いかも。そうそう、ブリジット様は、まだ3歳のミュリエル様をだっこされていたよ。


 そして、伯爵家の跡継ぎであるシャルロット様!

 カトリーヌ様にソックリのプラチナブロンドを綺麗に結い上げて、立派な軍服を着ていらっしゃった。あたしより一つ年上だから、11歳のはずだけど、とてもそうは見えない凛とした雰囲気を纏っていたの。

 パッと見には男の子みたいだけど、でもそのお顔はとても美しくて、カトリーヌ様のお血筋だと一目でわかる容貌。あたしは、思わず見惚れちゃったのよ!


「ミレーユか。女みたいな名前だな」


 でも、シャルロット様は、あたしのことを男だと思ったみたい。

 確かに、髪は短く切っているし、まだ10歳だから、女らしさもあまりなかったはず。それに、外で武術の訓練ばかりしていたから、日焼けもしていたしね。でも、憧れの眼差しで見つめていた方から思いもしなかった言葉を聞いたあたしの気持ち、わかる!?


「……わ、私は女です!」


 あたしは、伯爵継嗣であるシャルロット様の前だということも忘れて叫んでいたの。

 実は、このとき武術の邪魔になっても良いから髪を伸ばそうと思ったんだ。でも、恥ずかしいから内緒にしてね!


「はははっ! シャルロット、お前の側仕えにするのに、男を連れてくるわけはないだろう!?」


「し、失礼した! その……済まない」


 大笑いした伯爵閣下の言葉を聞いて、シャルロット様は顔を真っ赤にして謝ってくださった。白い肌を真っ赤に染めているシャルロット様は、それまでの凛々しい様子とは違って、とても可愛かったな~。


「いえ、私こそ申し訳ありません! 良く男の子みたいって言われるんです!」


 あたしも、すぐに謝ったよ。だって、自分の間違いをキチンと認めて謝って下さったんだもの。それに、伯爵の跡継ぎが、男爵の娘に頭を下げるなんて、そうそう出来ることじゃないと思うよ。


「ミレーユ、これからよろしく頼む」


「はい!」


 シャルロット様の輝くような笑顔に、あたしは思わず大きな声で返事をしていた。この方の下なら、やっていける。そんな気がしたんだ。


「ミレーユ。こちらが、お前の先輩のアリエルだ」


「お久しぶりです。覚えているでしょうか?」


 シャルロット様とあたしの様子を見ていた伯爵閣下が、側に控えていた女の子を紹介したの。でも、女の子といっても、シャルロット様と同じような軍服を着た子だけど。


「はい! ルオール男爵家のアリエルさんですね!?」


 あたしは、目の前に進み出た栗色の髪の女の子を知っていた。ソンヌの近くの町ルオールを治める、ルオール男爵の長女アリエルとは、何年か前に会っていたから。


「シャルロット、アリエル、ミレーユ。お前達三人は、互いに助け合い、競い合い、立派な軍人となるんだよ。お前達が良き主と臣下、そして一生の友となるよう、私は願っているよ」


「父上、ありがとうございます。

……アリエル、ミレーユ、良き主となるよう努力するから、力を貸してほしい」


 伯爵閣下のお言葉を頂いたシャルロット様は、閣下にお辞儀をすると、あたし達の方を向いてうっとりするような微笑みと共に、手を伸ばしてくれた。


「はい、一生涯お供します」


 アリエルは、シャルロット様の手に自身の手を重ねたの。彼女は、まるでお姉さんのような優しい笑みをシャルロット様に向けていたよ。


「わ、私もです! この命、シャルロット様に捧げます!」


 あたしも、急いで二人の手に自分の手を乗せたんだ!

 シャルロット様を一目見たときから、この方にお仕えしたいって思ったの。それに、王族の血を引いているのに、過ちを認めて下さる真っ直ぐなところを見て、あっという間に虜になってしまったみたい。


「大神アムテリア様もご照覧あれ!

私達三人は、生まれし日は違えども、心を同じくして助け合い、民のために戦わん。王国のため、民のため尽くすと誓う。願わくは、いつまでも共に歩まんことを!」


 シャルロット様の宣誓に、私達も唱和したんだ。

 大神の誓いって言ってね、戦友や君臣の誓いとして、昔から伝わっているんだよ。勉強は苦手だけど、このときは父上から教わっておいてよかったと思ったよ。だって、私だけ言えなかったら恥ずかしいじゃない?



 ◆ ◆ ◆ ◆



 これが、あたしとシャルロット様の出会い。その後も色々あったけど、今日はここまでで良いかな?

 また、機会があれば教えてあげるね! シャルロット様のことなら、幾らでも話せるから!


 この後の展開も大よそ考えておりますので、そのうち続編を公開するかもしれません(^^)


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