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初仕事だそうです



「で、状況は?」

サクヤが促すと、デリクはカラにちらりと視線をやってから話し始めた。

「南山道でアレイルの商隊が十数名の盗賊に襲われたらしいっす。数人が重傷で他のやつはなんとか逃げ切ったらしいっすけど輸出しようとしてた魔石は全部奪われたらしくて…。」

「そいつらの居場所は?」

「アラン達が行ったっすけど、襲われてすぐに駆けつけたし、目撃者もいたんで多分もう場所は割れてると思うっす。」

「…デリクとカラはわたしについて来い。南の門まで馬で行く。それとデリク、お前は二番隊の奴らにその商人の拘束もさせてこい。」

「了解っす!」

「行くぞ。」

「は、はいっ!」

足早に出て行ったサクヤの後にデリクと、慌てながらカラが続く。

あっという間に階段を駆け下り、出たのは厩の前だった。

(そういえば、ここにきて外に出たの初めてかもしれない…。)

きょろきょろと辺りを見渡すカラの前でサクヤが声を上げた。

「おい、馬番!」

「へい。」

ランプを持った中年が出てきた。

どうやら馬の手入れをしていたらしい。

サクヤはその男につかつかと歩み寄った。

「馬、借りるぞ。」

「わかりやした。」

夜にも関わらずさして驚いた様子も無く、馬の準備をしているところを見ると慣れているらしい。

(馬、かぁ…。)

「どうした?」

まるで未知の生き物を見るような目で馬を見るカラの顔をサクヤが覗き込んだ。

サクヤが手に持っている小さな携帯ランプのオレンジ色の火がチラチラと銀色に映える。

「いや、それが…僕、馬の乗り方分からないんですけど…」

「なんだ、そんなことか。」

「馬の準備が出来ましただ。」

「ありがとう。ああ、やっぱり2頭でいい。」

「?」

「ほら。」

サクヤは軽々と馬に跨るとポンと自らの後ろを叩いた。

「早くわたしの後ろに乗れ。」

「ええ!馬って2人も乗れるんですか!?」

「のれるにきまってんだろ、だいたいお前ひょろっとしてるし、まだらはいい馬だ。」

(いや、でもなぁ…。)

「遅い。」

どうやらカラが乗らないのに焦れたらしくサクヤはカラの首根っこを掴むとぐいっと引っ張った。

「うわっ!」

踏ん張ってなかったとはいえ、恐ろしい程の、あるまじき力で引っ張られ、カラは慌てて跨った。

「掴まってろよ、飛ばすからな。」


2匹の馬が、すでにひと気の無い街中を疾走する。外に出る為の門を潜ると、一匹を残し、もう一匹も速度を落とした。

「隊長!」

門の外で待機していたらしい男が声をかける。

「ああ、状況はどうだ。」

声をかけられたサクヤが馬を止め、馬から降りてから、続いてカラもよろよろと降りた。

(し、死ぬかと思った…!)

馬は後ろの方が反動が大きい。

手綱も握らず振り落とされなかったのはひとえにカラの運動神経のおかげだろう。

「うっぷ…気持ち悪…」

(もうこんな生き物に乗るのやめよ…。)

「酔うのはやいな、お前。」

けろりとした顔でサクヤが言うと、先程、別れたデリクの馬が遅れて着いた。

「隊長!南の奴らに言ってきたっす!」

「ああ、ありがとう。じゃあ行くぞ。」

スタスタと先導するように前を歩くサクヤに、遅れてカラもついていく。

(ああ…ちょっとはマシになったかも…

それにしても…)

少し落ち着いてきたカラは今更ながらに首を傾げた。

「なんで商人達を…?」

よくよく考えてみれば、商人達は被害者なんじゃないのだろうか。

カラの疑問にサクヤがちらりと後ろを向いて答える。

「普通、夜は出国をしないことの方が多い。

賊やら、魔物やらが出る可能性が高いからな。それがわざわざ夜に出国したってことは…」

「夜に出国する理由があった…?」

「ああ。大方やましい理由だろうな。」

(やましい…密輸、とかかな…。)

考え込んでいたカラがふと、横に目をやると、デリクと目があった。

デリクがぐいっと顔を寄せ、小声で言う。

「さっきから思ってたんすけどあんた誰すか?」

「いや、えっと…」

胡散臭い、と言わんばかりの目で見られ、カラは目を泳がせながらボソリと答えた。

「あ、新しく副隊長になりました…カラです。」

「ふぅーん…あんたに務まるんすかぁ?」

「いや、えっと…」

(それを言われると痛い!

てかそれは俺が一番言いたい!

「サクヤさんは凄いんすよ。

強いし、かっこいいし!…だからせいぜい足手まといにはならないで欲しいっすよ。」

(…凄いな、隊長について語る時と、俺に話しかける時のテンションの落差…)

「着いたぞ。」

心の中でしくしくとないているとサクヤが小声で声をかけた。

ちょっとした崖になっているようで、サクヤは片膝を地につけ、そこを覗き込んでいる。

カラもそろそろと近寄って覗き込んだ。

そして思わず呟いた。

「…うわ、今度は本物の山賊だ…」

途中に生えている木の火を囲み、いかにも強そうな男達が話し声をたてている。

こちらには全く気付いていないようで見る気配もない。

隣でサクヤの小さな声がした。

「ここ、アレイルが国としてやってける理由、わかるか?」

「え?」

(やっていける理由…?)

「そういえば、なんだろう…。」

「魔石だ。」

「魔石?」

「アレイルは良質な魔石がじゃんじゃん取れる。だから魔石工学や、魔石の輸出入で公益することによって国が潤ってんだ。

例えばこれもそうだ。」

サクヤはくいっとランプを持ち上げた。

「あ…本当だ。」

「炎石だな。微量の魔力でも夜道を照らせるくらいには火が付く。」

「へぇ…、凄い…」

「普通だろ、これくらい…ああ、記憶がないのか。まあ、魔石のことはおいおい説明するとして…」

「だから、あっちからしたら魔石は盗めば儲け物。盗まなくたって行商人を襲えば一発ってわけだ。」

「あ、確かに…。」

納得していると、後ろの隊員にサクヤが話しかけた。

「それにしても、いいとこ見つけたな。」

「ありがとうございます。」

「いいとこ?」

「裏手だし風下。見つからなくていいじゃないか。」

「まあ、そりゃ、そうですけど…結局捕まえに行くんなら降りて回り込まないと… 」

(ここから下まで回り込むには中々時間がかかるんじゃ…。)

「めんどくさい。」

「へ?」

カラは立ち上がり、膝の土を払っているサクヤを見上げた。

「こっから降りるぞ。」

「え、うそ、ちょっ…!」

タッ…

カラが制止する間も無く、躊躇いなくサクヤは坂を駆け下りた…というより落ちた。

カラは慌てて下を覗き込んだ。

銀髪の隊長の姿は既に見えない。

(なっ!ほぼ崖じゃないか…!ここ、行かなきゃダメ?ダメなの?ってか他の人達行かないしいいってこと…?はっ!まさか『先行けよクズが』ってことですか⁉︎)

これだけのことを僅か10秒で考えたカラはわたわたとナイフを取り出しつつ地を蹴った。

(やばい、早くいかなきゃ…!殺られる(後ろに)!)

カラの頭には 飛び降りられないから飛び降りていない という考えは全くなかったのであった。


一方、サクヤが飛び降りて唖然としていた一同はカラが飛び降りたことに目が点になるほど驚かされ、急いで崖下を覗き込んだ。

「おいっ、あのガキ!」

「どんな運動神経してんだよ…!」

「それ以前にこっから飛び降りるなんてヤバイよな…。」

通常の思考回路を巡らす彼らの中で、デリクは口をポカンと開けていた。

「まじすか…。」


ザザザザザッ…!

腕をクロスし、身を守りつつ、サクヤは落ちる。

枝や、大量の葉と一緒に落ちてきたサクヤを見て、そこにいた山賊達は驚いて目を見開いた。

一瞬の後、各々武器を持ち急いで立ち上がる。

「なんだあ!てめぇ!」

「ど、どっからでてきたこのガキ!」

一気に殺気立った野営地をくるりと見渡し、サクヤは腕を組んで仁王立ちした。

「わたしは腹が減ってるから早く帰りたい。

大人しく捕まっとけ。」

もの凄い、言いようである。

あまりの言いように山賊どもは一瞬ポカンとし、それから凶悪な顔をした。

「なめてんのか、このガキ!」

「ぶっ殺すぞ!」

(あーあ、めんどくさ。ぱっと見10くらいかぁ…)

サクヤは背中に背負っている鎌を手に取った。

中でも一際ガタイのいい男がサクヤを睨みつけながら口を開いた。

「お前ら、やっちま」

ザワザワッ!

と、まるでリーダー格の男の台詞を遮るかのように木々が揺れた。

ガサガサッ、ガサッ…

タン…!

サクヤのように落ちるのではなく、木に飛び移り静かに着地したカラは、立ち上がり状況を確認するとあわあわとナイフを構え直した。

「え、なんかタイミング失敗した…?」

「もう一人来たぞ…!」

ざわめく山賊達の前でカラは頭を抱えた。

(うわあ、失敗した…!乱闘になってたらどさくさに紛れてなるべく隠れとこうと思ったのに…!)

「なんだ、お前だけか。」

横で尋ねるサクヤにカラは顔をしかめたまま答えた。

「いや、なんかお前行けよみたいな空気だったんで怖すぎて…」

「ふぅん…。」

振り向いて崖を見上げたサクヤの頭上に剣が振りかぶられた。

「余所見してんじゃねぇっ!」

「隊長、あ、あぶなっ…」

後ろから降りかかってきた刃をひょいとよけ、柄でガツンと頭を殴った。

(うわ、痛そ…)

カラが呆気に取られている中、サクヤはフッと笑い、小さく呟いた。

「あいつらは思ってなさそうだけどな。」

「え、なんて言いました?」

「なんでもないさ、それよりお前もよそ見してると死ぬぞ。」

「えっ…うわっ!」

咄嗟に避けると、さっきまで頭上にあった枝がスッパリ切れて地に落ちた。

「うわわ…!」

「てめぇ、よくも俺のセリフをじゃましてくれたなぁ…?」

「え、セリフ…?」

全く覚えのないことにカラはポカンと目の前のガタイのいい男を見あげた。

男は額に青筋を浮かべながら言った。

「そうだよ、頭からこいつら任されて初めての掛け声だったんだよ…!」

練習したんだぞ…と、ブツブツ呟いている男はいっそ、悲壮感さえ感じる。

「えっと…なんかその…すみません…。」

「謝ってすむか、コラァ!」

「ひぃっ…! 」

男は自らの見るからに重そうなアックスを振り下ろした。

やけ気味の一撃を咄嗟に避けてカラはん?と違和感を感じた。

「なんか…思ったより遅い。」

どうしても、サクヤの鎌さばきを思い出してしまうと遅く感じてしまうのだ。

しかし、馬鹿正直に言ってしまったことにカラは早速反省していた。

「んだと…!」

カラの一言は目の前の男を余計に煽る形になってしまったのだ。

「ガキがっ!死ねぇ!」

ブォン、ブォンと重い風を切るアックスを冷静によけ、カラはタイミングを見極めて

ガッ

ナイフの柄でアックスを持つ手を打ち据えた。

そして流れるようにそれを腹へ突き出した。

「ぐあっ…!」

柄での一撃がモロに腹に入った男は地に崩れ落ちた。

「ふぅ、なんとかなった…!」

と、ホッと息を着いたカラの耳に不穏な声が耳に入る。

「こ、この銀髪強え!」

「一旦、ずらかるぞ!」

「え、ちょ、こっち!?」

必死の形相で迫り来る男達にカラは自分が逃げたしたくなるのをなんとか堪え、ナイフを構えた。


「ぐっ!」

ドサリと倒れる男の隣でカラは思わず声を漏らした。

「ふぅ…あー、死ぬかと思った…。」

(なぁに言ってんだか。)

刃をしまった鎌の柄を肩に担ぎなおしたサクヤはカラの言葉を聞いて呆れていた。

(1人でわたしと同じくらいの人数を一撃で倒した挙句に汗一つかいてないってのに…。)

しかも、全員気絶ですませている。

まあ、サクヤもそうなのだが。

サクヤはやれやれと首を振ると声をかけた。

「もう疲れたし帰るぞ。」

「あ、はい!」

班に跨ったサクヤはカラを見下ろして言った。

「なにやってんだ、他の奴らも連れてこい。」

「ぼっ、僕がですかっ⁉︎」

「当たり前だろ。」

「うえぇ〜…。」

嫌そうに振り返ると、山賊を捕縛し終わった何人かと目があい、カラは慌てて逸らした。

「あ、あのぅ…、その…。」

声をかけた瞬間、何人か近づいてくる。

未だ残っている焚き火の明かりのせいで逆光になってしまい表情が伺えず、カラはタジタジと数歩後ずさった。

と、一人がカラの肩をがっしり掴んだ。

「ひっ…!」

「お前…」

肩をビクッと震わせたカラにかけられた言葉は意外なものだった。

「すごいな!」

「…へ?」

「ただのガキだと思ってたぜ。」

「あの駿足の隊長についてくなんて相当だよ」

「あれはびびったよなぁ、着いてけなかったよなぁ」

周りが口々にいうのをポカンと聞いていたカラの目の前にデリクが進み出た。

と、思い切り頭を下げた。

「すいませんっす!」

「へっ!?」

ぽかんと口を開けているカラの目の前でデリクが言った。

「俺、カラさんのこと正直なめてたっす!

ひょろいし、頼りなさそうだし、覇気はないし、そもそもいいとこあるのかみたいな!」

(本当に正直だな…)

ぐっさぐっさと言葉の刃を刺されカラが凹んでいるとデリクが顔を上げた。

心なしか目がキラキラしている。

「でもそんな自分が馬鹿だったっす!俺…一生ついてくっす!」

「へ…?」

(…なんでだかわからないが、僕に部下が出来たってこと?…なのか?)

カラは苦笑してデリクを見た。


「おい、着いたぞ。降りろ。」

「だから馬はイヤだって…うぷっ!」

「カラさん具合悪いんスか!

だったら俺が看病するっす!」


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