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本気出せばこんなもん

「わたしが使うのは鎌だ。」

サクヤは笑みを浮かべたまま大鎌を構えてみせた。

カラはその異様な圧力に唾を飲んだ。

(凄い…小柄な隊長さんが大きくみえる…。)

カラは手汗で滑りそうになっているナイフを握り直した。

(いや、でも落ち着いて考えろ、僕。

女の身であれを振り回すのは無理だ。

というか、僕でも無理だ。

だったら振り回すと隙が大きくなるはず…)

「考え事とは余裕だな!」

「うわっ!」

大鎌が周りの空気を巻き込んで起きた刃風がカラの眼前を通る。

思い切り振られたにもかかわらず、青く光る刃はすぐに切り返してきた。

「いい反射神経だ、なっ!」

ブォン、ブォンと横切る鎌を必死に後ろによけながらカラは叫んだ。

「あんた殺しに来てるでしょ! ?」

「まあなー。」

「まあなって…!」

ドンッ

(壁っ…!)

いつの間にか退路がたたれていたことに気づき、カラは咄嗟に横に逃げた。

ガッ!

鎌がカラが今さっきまでいた壁につき刺さっている。

カラは息を整えながら鎌を壁から抜くサクヤを見た。

彼女は余裕の表情で木の枝のごとく鎌を振ってみせた。

(予想外だ…どうする。)


何か考えるような様子を見せている少年…カラを見ていた。

カラはサクヤの予想以上に筋力が無かった。

サクヤは規格外なのだがそれを差し引いても弱い。

体格からも想像できるがこの調子じゃそれこそナイフが精一杯だろう。

(まあ、こいつに“期待”してんのはそこじゃないけど。)

カラには、いや常人には到底持ち上げることの出来ないであろう鎌を片手で悪戯にくるくると回しながら、サクヤは口元に笑みを浮かべた。

と、唐突に空気が変わり、サクヤは動きを止めた。

張り詰めるような、緊張感。

思わず本能的に構えた鎌の先に見える、ケモノのような鋭い目。

(…やっときたか。)

タッ、とカラが間合いに踏み込んでくる。

サクヤは片手で鎌を振り下ろした。

こちらを見据えたまま、最低限の動きで避けた。

(かかった…!)

避けられることは今までの動きで目に見えていた。

サクヤは刃が地に落ちる前に手首を捻り、刃を横にし、そのまま横にないだ。

柄を脇腹に当て、そのまま手前に引く。

結果、カラの背に刃が刺さることになる。

ただこれは練習試合だ。

脇腹に当たる前に寸止めしようと思いつつ、サクヤは腕を振った。

しかし、それはかなわなかった。

「なっ!?」

伸びてきた細い腕が自ら鎌の柄に乗る。

そしてそのままカラは、見事に跳躍した。

塀を超える要領でそのまま柄を飛び越えるとカラの腕がスッと伸びてきた。

「ちっ…!」

サクヤは鎌を持っていない方の手をカラの手に伸ばした。


「っ!」

暖かい手にギュッと掴まれてカラは我にかえった。

鎌が落ちてきてから、ほとんど反射的に身体を動かしていたことに気づき、カラは戸惑った。

(なんで僕、えっと…身体が勝手に、避けて、それから…?)

「…引き分け、だな。」

「へ…?って近っ!?」

つむじが見えそうな程に近くから蒼い目に覗き込まれカラは飛びのいた。

「…なんだ、お前。その反応は…童貞か?」

「童貞は余計ですっ!…ってあれ?」

(血、がついてる…?)

一瞬、カラは分からなかった。

手を握ってみても痛みは感じなかったからだ。

(…じゃあ…。)

バッと顔を上げたカラの目にサクヤの手が映った。

鎌を持っていない方の掌にチラリと見える、赤。

「…何見てんだ?」

床に何かあるのか?と見当違いに下をきょろきょろするサクヤの声に、カラは我にかえった。

「何ってっ…血!血が出てるじゃないですか!」

「ああ、それか。」

言われたサクヤが手を広げると、親指と人差し指の間が切れていた。

原因は目に見えて明らかだ。

「ナイフを素手で掴むなんてなにやってんですか!バカですか、バカじゃないんですか、貴方!」

言うだけ言ってカラはサクヤにハンカチを出させた。

自分の服を千切っても良かったのだが何分汚い。

ハンカチを弁償することになってもそっちの方がいいと判断したのだ。

躊躇いなくカラが自らのハンカチを巻くのを見ながら、サクヤは言った。

「あの速さじゃな。

除けるのはまず無理だったし、腕をとるころにはわたしの首が吹っ飛んでる。」

白い布地が鈍く赤で染まる。

それに顔をしかめながらカラは反論した。

「そんなのっ…本気でやらないに決まってるじゃないですか!」

「それにしては随分な殺気だったが?」

「…う。」

否定できずに黙り込む。

確かにあの時カラは反射的に動いていたのだ。

そんなカラをサクヤは蒼い瞳でじっと見つめた。

「これでわかったか?」

「…何がですか。」

「お前のその敏捷性。反射神経。動体視力。

唯一やけに特化した能力。」

「それ以外はだめって言外にいってますよね、それ。軽く貶してますよね!?」

一通り突っ込んだ後、ハンカチの端と端を結んでカラは一つため息を付いた。

「…わかりました。」

「そうか、わかったか!」

自分の言い分がわかってもらえたとサクヤが笑顔になる。

カラはその顔を胡乱な目つきで見据えた。

「ええ、よく分かりましたよ。あなたが性格だけでなく行動もダメな女の子、いやむしろ人間としてダメだってことが。」

「はぁ?なんだそれは。」

不服そうなサクヤにカラは半ばヤケクソ気味に言った。

「ほっとけないから引き受けますよ、ええ、ひきうけりゃいいんでしょ!」

「…まあ、お前が嫌だと言っても権力をバックにやらせるつもりだったが手間が省けてよかった。」

「最低ですね、貴方本当に。」

皮肉なツッコミを見事にスルーしてサクヤは笑った。

その後記憶に残りそうな、不敵な笑みだった。

「よろしくな、“副隊長。”」

「…はい、もう煮るなり焼くなりお好きにどうぞ。」

諦め半分、いや八割でカラは自分より背の低い美少女隊長に返事したのだった。

これが少年、カラの受難な人生…ならぬ、“戦場の旋風”と恐れられることとなる二人組の誕生だったのだ。

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