決定ですか、それ
「意味がわかりません。」
少年はきっぱりと言い切った。
美少年…サクヤがきょとんと首を傾げる。
「何がだ?」
「あれですよね。
昨日僕たちは初めて会った?」
「うん。」
「目の前で僕が倒れた?」
「ああ。」
「さあ、こいつを副隊長にしよう。」
「あってるな」
「あってるな、じゃないですよ!」
少年は自然な流れだと言わんばかりのサクヤに突っ込んだ。
「今の部分が一番おかしいでしょ!」
「?なにがおかしい」
サクヤは首を傾げた。
「なにって…」
(いや寧ろおかしく無いところがないんですけど…)
あまりにも不思議そうに見られ、脱力するとサクヤはさらっと言ってのけた。
「おかしいも何も、わたしがやりたいからやるんだ」
「なっ…!」
あまりの俺様発言にしばし少年は固まった。
少年の中で急上昇ストップしていたサクヤの株が不安定に揺らぎ始める。
(まさかの俺様何様だよこの人!このままじゃ俺、特攻隊決定じゃん!
特攻隊って何それ、俺みたいな一般人が行って帰ってこれるとこじゃないよね、むしろ地に還るよね!?)
まだなんかあるのかとこっちを見つめるサクヤに、少年は決意を固め口を開いた。
「でも、そういえば貴方言ってましたよね。特攻隊の隊長だって。」
「ああ、言ったな。」
(これだ!)
少年は会心の笑みを浮かべ、言った。
「じゃあ、どう考えてもムリです。
ほら見てください、この格好!」
土下座の原因ともなった自らの汚れた服をつまんでみる。
服はかろうじて形を保っている程度で裾は千切れ、手首が剥き出しになっている。
「思い出せないけどきっと僕は物乞いがなんかだったんです。それで腹減りすぎてふらふらしてたら倒れちゃって」
(って…ん?)
話途中に徐に腕を掲げたサクヤを訝しげに見る。
そのサクヤの手に光るものを見たと思った瞬間
ドスッ!
風を切って少年の横を“何か”が通り過ぎた。
飛んできたソレを見て少年へ顔を引きつらせた。
いかにも切れそうな黒い柄のナイフ。
ギラギラと鈍く光るそれを見て少年は器用にも横に後ずさった。
「…っなぁ!?なななななにすんですか、あんた!?当てるつもりですか!」
まだ少し揺れているソレは思い切り投げられたのであろう。
呆然とみる少年の前でサクヤが肩を竦める。
「それはお前の懐から出てきたものだ。
私が物乞いだったらこんなもの売り飛ばして即刻、食費にするだろうな。」
腹減ってんなら、飯持ってきてやる。
そう言って立ち上がると何も言えずにいる少年にサクヤは爽やかに笑って付け加えた。
「ついでにわたしは躊躇いなく眉間を狙った。よかったな、避けれて。」
「は…?」
笑いながら出て行こうとするサクヤの背中に少年は全力で突っ込んだ。
「少しは躊躇えぇ!」
バタンッ
そして少年の突っ込みはドアに阻まれ、虚しく消えるのであった。