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私は後日、岩木と鈴本の2人に恭子を加えた4人で行った食事会、その後行ったこじゃれたBarでも飲んだのは岩木と恭子の2人だけだった。
恭子が「私が言い出した・・」と言ってはくれたが、今までのお返しと思えば喜んで払いたいぐらいだったので、今回は・・・と全て自分で支払った。
その後、次の日も仕事だという岩木と恭子の為に早々に切り上げ、鈴本の車で2人を家まで送り届けた。
学生時代の話をしながら鈴本に自分の車の駐車場へ送って貰って、オヤスミの挨拶をしようとした私に
「明日、もし予定が無いなら2人で出掛けようか。」
今までも2人だけで過ごす事はあったし、寝て過ごすだけの休日に予定が入ったのが嬉しくて何も考えずに「OK!」の返事をして明日の待ち合わせ時間を決めてその日は別れた。
待ち合わせのコンビニに少し早めに付いた私は2人分のお茶やガム等を選びながら鈴本の到着を待った。
鈴本の車が駐車場に着いたのを見て、助手席に乗りながら挨拶を交わした。
岩木とも鈴本とも待ち合わせの都合等で2人だけで会った事はあったが、朝から会った事は無かったので少し新鮮な気がする と言う私に頷いて、目じりに笑い皺を浮かべて笑う鈴本に【この童顔!】と思わず言いそうになったのを堪えた。
「なに?」
「エッ、何も言ってないよ。」
「うん、でも何か言いたそうな顔してたから。なに?早く教えて」
「あの、ほら、その・・ね、若いなぁと思って!笑い皺はあるけど、とても年上に見えないから・・・。」
「笑い皺は職業柄!見た目が若いのは ウーン、遺伝かなぁ。ジャニーズ系?」
「イヤ、そんな事は誰も・・」
「ジョーダン!冗談だから引かない!!ね。」
とても慣れた感じのする鈴本を気にしながらも、いつしか安心出来る鈴本の運転テクニックに気を許していた。
鈴本に聞かれるままに兄弟や両親の事を話した。
どうして医者になったか 答える度に興味深そうに聞いてくれる彼に私は居心地の良さを覚えはじめていた。
「家族の仲が良いンやなぁ」
「フツーだと思ってたケド、周りから見ると仲は良いみたい。
うちは母が特殊って言うか、ウーン、‘お父さん好き!!、子供?何それ?’って言う感じの人でね。」
「確かに周りには居ないようなタイプだな」
「でしょ!未だに晴代君って名前で呼んで、寝る時もいつも一緒!
“生まれ変わってもお父さんと結婚するの〜♥”っていっつも言っててね。
でも、お父さんも口には出さないケド、お母さんが大好きみたいで・・・。」
問われるままに両親の仲良しエピソードを話した。
以前、乳がんの乳房切除手術で母が入院した際は、仕事を抜けて毎日病院へ通い詰めたこと。
一時帰国していた私も一緒に毎日病院へ通ったこと。
明日、退院って時も「明日退院だから」っと当然の様に病院へ行ったこと。
話をしていて本当に自分の両親が好きあっているンだなぁと改めて実感する。
そして嬉しくて、羨ましく思った。
そんな私を鈴本が熱い目で見つめていたのには気付いては居なかった。
「今日は鈴虫寺に行ってみようと思うンだけど、行ったことある?」
「鈴虫寺?何ですが、ソレ」
「ウーン、知らないかぁ。
京都にあるお寺でね、願い事を1つ叶えてくれるって評判のお寺なんだよ。
俺ね、大学卒業してから此方に戻る迄は京都で働いてたから、其れなりに京都は知ってるから案内するよ。」
「わー、其れは楽しみです。
小学校の修学旅行以来かも・・・。」
大人になっての京都は楽しかった。
観光地だけでは無い京都に大人が楽しめる京都。
鈴虫寺では《自分に似合う人》に出会えるように・・・と住所氏名を告げて私のお願いを叶えに来て下さい!とお願いした。
和尚さんの話からも贅沢や非現実的なお願いでは無く、自分に似合う人!と言うのがポイントらしい。
「何お願いした?」
鈴本に聞かれたが、「内緒です!」と気恥ずかしくて答えられなかった。
その後はオススメのご飯屋さん、何故か京都でイタリアンだったケド、美味しかったので良しとする。
美味しい甘味処にも連れて行って貰って、かなり充実した休日を過ごす事が出来た。
支払いの度にどちらが支払うかで揉めたが、結局、私がお財布を使う事は無かった。
「本当にありがとうございました。すっごく楽しかった!」
「コッチこそ付き合ってくれて、ありがとう。又行こうな」
「是非!!アッ、でも奢りばっかりだと悪くて行きにくいから次は割り勘で!」
「俺も其れなりに稼いでるから、女の子は黙って甘えておきなさい」
「女の子って年では無いから・・・」
「ハイハイ、でも俺には可愛い女の子に見えるよ」
「ウワー、何か鈴本さんって全てがスマート!童顔の見た目に騙されたら、イタイ目に合いそう」
「失礼だなぁ、ホント。
でも俺も楽しかったし、又誘うよ」
その日からは鈴本と2人で出掛ける事も増えた。
其れに伴って鈴本からの電話もよくかかってくるようになった。
鈴本とは岩木の人生相談の重苦しい電話とは違い、取り留めも無い話をする事が多かった。
(何の話した?)と聞かれても覚えては無い様な電話だった。
恋愛の対象では無く、純粋に異性の友人が出来ただけだったが、私には居心地が良かった。
2人は正に私の理想だった。
用事も無く電話を掛けられる、私の寂しい【無の時間】を埋めてくれる貴重な人達だったから。
商工会主催のお見合いBBQを無事に終えた翌日も片付けを口実に遊んだ。
私の実家で行うBBQにも恭子と一緒に2人も参加した。
両親の友人達も参加しており、どちらが私の彼氏?と聞かれたりしたが、父が『友達だ!』と強調したので、誰も踏み込めなくなった。
「みはちゃん、トイレ貸して」
そう言う岩木をBBQをしていた庭から家の中へと案内する為に関を立った。
「ウワッ、ナンこの玄関!何処の旅館、コレ?」
「ヘッ?!」
「ヘッてコレ!一般家庭の玄関の大きさじゃ無いやろ!」
そう言って大騒ぎしている岩木に[他の家なんて行った事無いし・・・]と、思いつつトイレに案内する。
リビングで待っていると
「俺、一般家庭のトイレの手洗いが自動って始めて・・・」
何やらブツブツ言いながら出て来た岩木に今度は「私室を見せろ!」と言われ、何も無い事を伝えてから2階の寝室へ向かった。
「シンプルやなぁ〜。何も無い!」
「だって本当に寝るだけだから・・・。」
私の部屋にはセミダブルのベッドにドレッサー替わりにしているチェストとスタンドミラーだけしか無い。
服や小物等は全てウォークインクローゼットに納められ、TVさえ置いて無い。
何故か満足気な岩木を連れて戻ると
「遅かったな・・・」
と言う鈴本に私の部屋を見せて貰ったと答える岩木。
スッと立ち上がった鈴本に驚いていると
「俺もトイレ」
アッ、ハイハイ、連れて行けば良いンですね。一緒に行ってよねぇ〜と思いながらも仕方無く案内する。
で、当然の様に私の部屋ですか。
何も面白い物は無いよ!プライベートな空間なのに・・・とブツブツ言いながら何故か先を歩く鈴本の後を付いて行く。
「ね、何も無いでしょう。本当に寝るだけしかして無いから」
何も無い部屋を何故か興味深そうに見てまわり、ベッドに座る鈴本に困惑しながら私はドレッサー替わりのチェスト前の椅子に腰をおろした。