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ヤ、ヤバイ!!
何か非常にヤバイ気がする・・・。
誘導されたとしか思えない! 何でこんな簡単に引っかかるかなぁ、私。
どうする?! どうする・・・!!
「・・イヤ、あのね、チョットだけの休憩でね、鈴本くんとは落ち着いて話をしたくて・・・、ね」
苦しい!我ながら非常に苦しい言い訳だとは思う。
でも客観的に考えても、彼氏じゃ無くて友達に先に電話するのはダメな気がする・・・。
「ゴメンなさい・・・」
ここは素直に謝るしかないと、項垂れながらも告げる。
「俺が彼氏だからね!当然、俺、優先でないとね。まだ自覚が出来てないなら、自覚出来るように幾らでも手伝うよ。アッ!あと俺は“紘也”だからね!
呼び方もソレだから、余計に距離を感じるンだと思うよ」
「まだ慣れてないだけだから、そのうち平気になるし・・」
「慣れてないなら、美晴からドンドン電話したり、俺を誘って名前を呼んでよ!
でないと何時まで経っても変わらないよ」
「はぁ、気を付ける」
「気を付けなくても、電話したり、誘うのは付き合ってる2人なら当然の事でしょ?!」
何かいつの間にか全てが鈴本ペースになってる気がする・・・。
まぁ、大事にされて、必要とされてる気がして、私も悪い気はしないケド・・・。
何か突然すぎて頭と心がバラバラで、状況に付いていけてない。
「でさ、次の休みはどうする?俺も1日休めそうだから、出掛けようか?」
「そうだねぇ。でも、何処行くの?」
「ンー、2人でユックリしたいし。チョット寒いケド、自然公園とか行く?」
「自然公園?」
普段、インドアな生活をしている私には聞きなれない言葉だった。
鈴本の話によると、整地された大きな公園に川なんかもあって、季節毎の花も綺麗に咲いてて、家族連れやカップルに人気があるらしい。
「レジャーシートを持って行って、ご飯を食べて、本を読んだりして過ごそう!
勿論、ボーッと昼寝も出来るよ」
「へぇ~。何かイギリスでよく見てた光景みたい。やった事無いケド・・・」
「じゃ、2人でボーっとしてみよう。読みたい本も溜まってるって言ってただろ?その時に読んでも良いしさ」
「私、又 お弁当作ってくよ」
「マジか?!じゃ、それで決まりだ!」
イギリスの短い夏、若い人からお年寄りまで、沢山の人が公園の芝生の上でよく日光浴をしていた。
日本人の私は横目で羨ましく思いながら、その横をセカセカと移動していたのを覚えている。
急いでいたのもあるし、羨ましさを感じつつ‘時間の無駄’だとも感じていたと思う。
鈴本はそんな私に新しい世界を見せてくれる気がする。
★★★★★
「ごめんな、ご飯も一緒に食べれたら良かったンだけど・・・」
「仕事なんだから気にしないで!週末、楽しみにしてるし!」
「俺も!アッ、お弁当に又 チューリップ(*)入れて!!」
「分かった。それじゃ、また電話するね・・・」
そう言って車を降りようとドアを開けた私の腕を鈴本が取った。
車内灯が着いた車内で、苦笑いを浮かべながら
「外から丸見えだよ。ハイハイ、もう一回やり直し」
そう言いながら私の腕を取ったまま、助手席のドアを閉めた。
また暗くなった車内で、私を見つめ微笑みながら近づいて来る。
「ンッ・・・」
思わず声が出てしまうような激しいキスだった。
駐車場だという事を忘れてしまうようなキス。
「ま、待って・・・」
「ダメ!早く俺に慣れて・・・」
そう言って私の舌を絡め取るかのような激しいキスをしながら、左手は私の腕を握ったまま、右手は愛撫するかのように、私の背中を忙しなく動いている。
私は彼の舌の動きに付いていくのがやっとで、ようやくその激しいキスが終わった時には座席の背もたれに倒れ掛かってしまった。
そんな私の様子を嬉しそうに見つめながら、右手で私の頬を撫で、最後とばかりに今度は軽くキスをしてきた。
「美晴、あんまり経験が無さそうで、教えがいがありそう。これから、楽しみだねぇ」
そう言って笑う鈴本はやっぱり私には真っ黒に見えた・・・。
やっぱり早まった決断だった?!
お、おかあさーん!!!
愛する娘はピンチです・・・。
チューリップ(*)は鶏肉の「手羽元」と「手羽先」の事です。関西ではポピュラーな呼び名になります。