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春からの勤務先は恩師の口添えと、急増している外国人患者の来院頻度の高い中央医療センターに決まった。


まぁ、初めから勤務先は本流の大学病院では無いと思っていた。

希望していた系列病院なら勤務している医師達の出身大学も系列の医大とはいえ色々で、それ程肩身の狭い思いもせずに、仕事が出来ると思えたからだ。

実家から車で約30分は、通勤圏内だと言える。

でも仕事柄、不規則な上に夜勤等もある。急な呼び出しを考えると実家から通うのは無理かもしれない。

今更、寮に入るような年齢でも無いし、そうなると1人暮らしを考える必要がある。

勤務先が変わる事で、今の生活から何かが変わる?!と心の何処かでは考えていたが、あまりに一変に大きく変える事に戸惑いも覚える。

ハァ〜、取り敢えずお父さんに相談して、住む場所から考えないと・・・。



中央医療センターは去年、新しく立て替えられた最新の医療施設だった。

病院内も明るく綺麗で清潔。システムも全てがオンライン化されていた。

診察を受けた患者さんは、診察券1枚で駐車場の料金までもが反映されて、駐車料金は減額される。

病院内の器具に機器、処置室、案内板まで最新で見易く、患者さんにもとても分かり易いように工夫されていた。予定外の私の来院にも事務課長が丁寧に対応し、案内までしてくれた。

私は春からの勤務先に満足して、病院を後にした。



病院を出て、マナーモードのまま、鞄に入れてあった携帯をチェックする。

ドクッと心臓が音をたてたような気がした。

お昼過ぎに入っていた鈴本からの2度の着信とLINE。

『県病の近くに居るから、一緒に食事をどうか・・・?』とのお誘いだった。


ほぼ毎日といっていい程、掛かって来ていた電話に、私がLINEでしか返事を返さなかったあの日から丸1日過ぎている。

このままじゃドンドン電話し難くなるだろうな・・・。

イヤイヤ、大丈夫!大丈夫!! 何を気遣う事が?

そう普通に、何時ものように電話すればいいだけ。ヨシッ!!


「もしもし美晴?ゴメンな、仕事中に電話して・・。」

全く変わらない、いつもと同じ鈴本に安堵して何事もなかったように私も話す。

「ううん、ゴメンね私こそ。今日は大学病院へ来てて、電話に気付かなかったの」

「大学病院?何でまた・・。

いやさ、丁度、昼時に県病の近くに居たから一緒に昼メシでもどうかと思って電話したんだよ。

まぁ、1人寂しくいただきましたよ」

「ワーッ、ホントにゴメンね。

春からの移動の件で呼ばれてて・・・「移動?!移動って何の事だよ?!」

珍しく少し焦ったような鈴本の声に驚きつつ説明をする。

「俺、移動なんて聞いて無かったし、全くの初耳なんだけどね」

イチイチ説明をする必要性が?!と喉まで出掛かったが

何処か不機嫌そうな彼を刺激するのは宜しく無いと判断して、出来る限り何でも無いように話した。


「だからね、初めから県病は仮だったの。日本の慣例で春まで待ってただけ!

外来ローテーションにも入れ無くて肩身の狭い思いもやっと終わるの」

何故か急に無口になった鈴本に(???)な私だったが、決まったばかりの勤務地を1番に話した相手が鈴本という偶然にこの前から引きずっていた気まずさを打ち砕く手段に出来れば・・・と思う。


「今、何処?」

唐突に聞かれて、正直に病院を出て駅に向かっている事を伝える。

「迎えに行ってやる!」

「はぁ?!いいよ、わざわざ!!電車に乗れば直ぐだし・・・「イイから!駅に居ろ!着いたら電話するから、携帯は手放すなよ!」

反論する間も無く、電話は切られた。

エーッ、マジか?!

ハァ〜。鈴本の意外な俺様振りに驚きつつ、仕方無く駅中でウィンドウショッピングを楽しむ事にする。

両親に電話するつもりだったが、帰宅してから落ち着いて話すほうが良いだろう。


携帯が着信を告げる。

「着いた。東側出口のバスターミナル近くに居るから、急いで来てくれ!ブッ」

又 言葉を挟む間も無く電話を切られた。

何で?!訳が分からん!そう思いながらも、取り敢えず小走りで向かう。

居た!わざわざゴメンねっと謝罪を述べながら、助手席に乗り込む。

此方をチラリっと見た鈴本は

「シートベルトして」と一言だけ言って、車を出した。

相変わらずの滑らかでスムーズな運転に安心しつつ、(何処へ向かって居るのか?)と疑問が浮かぶ。

何故か今日は沈黙がイタイ!!

「エッと、何処へ向かってるか聞いても・・・?」

「飯まだだろ?一緒に晩飯食って帰ろう、な!」

って、決定してるし! 断られるなんて思って無いし!

よっぽど突っ込みたかったが堪える。



鈴本が連れて行ってくれたお店は小さな路地にある小料理屋だった。

誰か知ってる人と一緒で無いと、絶対に入れないような路地裏のお店はこじんまりした暖かみのあるお店だった。

「良い雰囲気のお店。よく見付けたね。」

何か話してないといけない気にさせられる。

ご機嫌を伺うように鈴本に告げる。

オイ!! 何時もの胡散臭い営業スマイルは何処へ行った?! 何か言えよー!と心のなさで叫ぶ。


「春から移動ってどうすんの?!通うの?」

イキナリ核心を付くかな、ンッとに。

「まだ分かン無い。両親と相談して決めようと思ってる。」

「フーン、そう」

って、興味無いなら聞くなよな!

「車で30分って微妙な距離でしょう。

夜勤明けとか、急な呼び出しを考えると、10分圏内が理想なんだけどね。

まぁ、焦らずに考えて決めるつもり」

「中央医療センターっていうのはどんな病院?」

「去年、移動して新しくなった病院でね。綺麗で最新設備が整った良い病院だよ。

かなり大きいし、派閥間争いも薄そうだから希望通りの病院かな」

「・・・」


今日の鈴本は何かオカシイ。

ソレは分かるケド、何がオカシイのか・・・。

食事は凄く美味しかったが、どこか気詰まりで、早く帰りたい!!と思っていた。

こんな事を思うのは、鈴本と居て始めての事だと思う。

私がこんな風に考えて居るのに、彼は相変わらず綺麗な箸捌きで黙々と食事を続けた。



重苦しい空気は帰りの車でも続いた。

やっと家に着いた!とホッと息を吐いた私に鈴本は次の休みを尋ねた。

「研修何かが入らなければ、今週は土日が休みかな」

「じゃ空けといて!四国にでもドライブしよう!」

イヤ!とは言えない日本人!!

了解の旨を伝えて車から降りた。

「ありがとうね。気を付けて帰ってね」

鈴本の車が消えるのを見届けて、大きく溜息をついて玄関ドアを開けた。






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