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ジ・エンド・オブ・バトルストーリー  作者: ユリイカ
二章 タイフーン・ガール
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第一話「私立炎天直下学園の日常」

 ここは若葉薫る、私立炎天直下学園の通学路。


 ブルマ姿で登校するのは、わが校の問題児その1、如月風子きさらぎふうこ18歳。アクロバティック柔道部所属。


 柔道部は柔道着があるのだが、風子にはどうにも暑苦しいらしく、体操服にブルマ(ついでにハチマキも)で登校しているわけだ。っていうか登校は普通制服だよね。


 彼女が校門に向かって歩く反対側からは、わが校の問題児その2、三条エリリカ(さんじょうえりりか)がやってくる。ほんのり茶髪で前髪パッツンのお嬢様である。


 エリリカは女子レスリング部の主将である。

 こちらは練習はブルマのはずなのだが、今朝のエリリカはジャージと分厚いスパッツを着用している。

 というのもエリリカは以前、男連中がエリリカの事を話しているのを耳にした時に、「俺より腕の太い女はパス」と言われた事にショックを受けて以来、腕を隠す為にジャージの上着を着用するようになったのだ。


 エリリカが風子の姿を見つけた次の瞬間、それまでのお嬢様歩きから一変、カバンを捨てて短距離走者も顔負けの姿勢で突進する。

 

「風子ぉ!今日こそ決着を付けるわよ!!!」

「エリリカおはよー。懲りないなぁ、君も」


 風子も仕方なさそうに走りだす。

 そう、彼女達が制服を着ないのはこの因縁の戦いがあるからだった!

 

 エリリカが走りながらラリアットの構えに入る。風子が困惑する。

 

「ちょっと、ラリアットは反則じゃないの!?」

「ラリアットは腕のレスリング、つまりアームレスリングだからいいのよぉ!」


 もちろんよくない。アームレスリングとは腕相撲の事だ。

 でもラリアットだけのレスリングがあったら見てみたいよね?

 

 華奢な風子の首を、風子の首以上はあろうかというエリリカの太い腕が触れたと思われた次の瞬間、なんと、風子はエリリカの腕で逆上がりを披露した上に、エリリカの腕にブラブラとぶら下がっていた。

 

「やっほー」

「……お前はお父さんの腕にぶら下がる子供かぁ!」


 蹴り飛ばすエリリカ。

 

「あらら、もうレスリングじゃないじゃん!」


 吹っ飛びながら風子がブー垂れる。

 

「いいのよ!これは試合じゃないから」


 そう言ってエリリカは、逆さまになって塀にへばりついている風子に向かって一枚のビラを出した。

 

「これを見なさい、風子!」

「それは!……って、逆さまで読めないよ」


 その時、男の声がした。


「ついにやってきたな。空前絶後の投げ祭り。グラップラーズグランプリ、通称グラグラ!」


 塀の上で叫ぶは、トレパン姿の謎の教師。

 

「トレパン!」


 風子が叫んだのはアダ名であって服装の事ではない。

 

「あら、トレパン先生、ちょうど良かったですわ。先生から説明してやって下さいな。この子こういうコンペには全く興味が無いみたいですから」

「その必要はない。頭カラッポの風子にもグラグラには出るように前々から言ってあるから、よもや忘れてるなんて」

「グラグラ?」


 お約束のボケをかます風子。代わりに私が説明しよう。

 風子が今ほざいたグラグラ。これこそが全ての柔道家、レスラー、その他、人を投げ飛ばす事を生きがいとしている猛者どもを一同に集め、最強の高校生を決めちゃおうという一大祭りなのだ!

 

「なのだ!」


 トレパンが締める。

 

「なのだ!って何なんですの。トレパン先生」

「アホなのだ!」


 二人の女生徒になじられる教師。二人は校門に入る。もうすぐチャイムなるよ。トレパン先生。急いだ方がいいよ!

 

「あの、跳ねっ返りどもめ……今日はしごいてやろうかな……」

 

 教師としてのプライドを持たないとこうなるので、教師を目指している人は気をつけよう。


 さて、授業開始のチャイムが鳴った。エリリカは制服に着替えているが、風子はそのまま寝ている。

 彼女達の風景はいつもこう。

 風子は起きたかと思うと、今度は漫画を読み始めた。

 

「如月!何を漫画なんて読んでいるんだ!」


 教師の声がする。

 

「だって先生の授業、つまんないし……」

「何だと!もう一片言ってみろ!」

「うーん……これって言う所なんだっけ?」


 爆笑するクラスメイト。苛立つ教師。

 

「漫画なんか読んでるからお前は馬鹿なんだ!少しは勉強しろ!」

「えー、私、漫画から技を閃く事もあるよ?」

「それはただのお遊びだろうが!お前みたいな者が社会に出てやっていけると思っているのか!」

「……」


 機嫌の良かった風子の雲行きが怪しくなってきた。

 

「何も言えんだろう。だから俺の言う事を聞いておけ。社会に適応してお前を安心させてやる」

「私は適応なんてしたくない」


 風子が教師を睨んだ。

 

「何だと、もういっぺん」

「適応なんてしたくない!」


 教室を出て、屋上に向かっていく風子。いつも教師に怒られても朗らかな風子だが、何故かこの手の話になると人が変わるのだった。

 

 風子が感じていた違和感は、思春期なら誰でも感じるような事ではあったが、いつかは誰もが忘れてしまうものである。だが、風子のそれはどんどん膨れ上がっていった。何か違う。このまま楽しい学園生活をエンジョイするのは違う。いや、この学園生活の為にも何か大きなものに向かって戦わなければならないような、『戦わない為に、戦わなければならない』というような大きな矛盾の障壁を感じていた。

 

「ソックリだなお前は、俺と」


 風子はトレパンと初めて会った時の言葉を思い出していた。

 

「私とソックリなトレパンがよく教師になれたな……」


 そんな事を思っていると、屋上にトレパンが現れた。

 

「よっ!サボりか?」

「そんなとこ」


 トレパンは、担当する授業が無い時は校内を見まわりしてサボっている生徒がいないか見つける係をしている。見つけて話すだけで、教室に連れ戻すつもりは無いらしい。


「どうした。授業だけは出ておけと言っただろう」

「もし嫌な教師が喧嘩売ってきたら?」

「投げ飛ばせ!」

「ダメじゃん!」


 お約束のコントのあと、トレパンは真面目な話に入る。

 

「お前はなぁ。恵まれた学校にいるって事を自覚しろよ。ブルマ登校から何から何まで、ちょっと前はもっと厳しかったんだぞ」

「それは不良を束ねる為でしょ」

「ほう、知ってたのか」


 トレパンがアグラをかいて座り、本腰を入れて話はじめた。

 

「確かにここは元々不良だけを集める為の学校だった。炎天直下学園という名前も、太陽の光は最も愚かな者にこそ必要という信念に従って名付けられた。でもいつしか、不良達も一箇所に集められる事を嫌って、少ししか来なくなってしまった。分かるか。みんなが不良なら不良を演じる必要がなくなるだろう。不良を演じたいだけの生半可な奴ばっかりだったって事だ」

「代わりに熱血馬鹿が増えたよね」

「それはいいことだ。本当の不良なんてものはな。熱血馬鹿でいいんだ。熱血してないやつが不良をやるなんて100年早い。そんなのは不良じゃねぇ。良い子だ!」


 親指を立てるトレパン。


「もう意味不明だよ。トレパン」

「だが言いたい事は分かるだろう」

「まあね。でも教師としては0点」

「体育教師は馬鹿でいいんだよ!ってか聞いてくれよ!こないだも保健体育の授業で生徒の方が授業をはじめやがってよ。最近のマセガキは……」

「それは教師としての人徳が無いからでしょ」

「なにおうっ!」


 アグラの姿勢から立ち上がった所で、チャイムが鳴った。

 

「じゃあな。午後は授業に出ろよ」

「あいよ」


 友達のように返事をする風子。

 

 放課後は掃除して部活。風子の一日はこの時から始まる。

 各々の部活が始まる前に、エリリカが風子に一戦申し込むのがお決まりのパターンだった。

 

「あなたまた授業サボったってね」

「うん」

「どうやら頭の中にも風が吹いているみたいね」


 頭がカラッポだと言いたいらしい。

 それに答える風子。

 

「吹いてるよ。風の囁きが言うんだ。気に入らないセレブは投げ飛ばせってね」

「っこの!私はセレブって言われるのが……」


 制服を脱ぎ捨てるエリリカ。ジャージの上を着るのを忘れているが、それはこの際良しとしよう。

 

「大嫌いなのよ!」


 ショルダータックルから、相手と距離を詰めて掴む作戦。だが風子はエリリカの手の動きには細心の注意を払っていた為、難なくかわす事ができた。

 

「危ない、危ない」


 風子はエリリカの体を、風の力を使って持ち上げて掃除用のダストシュートに放り込んだ。

 

 ガコンッ

 

「あらら、(お尻が大きくて)挟まっちゃったね」

「括弧の中は余計だ!早く抜きなさい!」

「はいはい、でももう勝負あったんだから、攻撃してくるのは無しね」

「わかってるわよ!勝負ってのは、常に一回きりなんだから」


 埃を払いながら立ち上がるエリリカ。

 

「そんな攻撃の仕方じゃいつまで経っても勝てないよ?」


 風子がやや呆れ顔で言う。

 

「ええ。そうかもね。でもグラグラルールじゃどうかしら?」

「何か特別なルールでもあるの?」

「ふん、その余裕面がどう変わるか見ものだわね」


 これ以上ヒントは与えたくないとばかりに、エリリカは制服を拾い、去っていった。

 首をかしげる風子だが、何やら当日は楽しみになりそうな予感だけはしていた。



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