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第七話「最後の勇者」

「その昔、勇者の一族とはただの狩人の一族に過ぎなかった。狩人は獣から恐れられ、その遺伝子は狩人を憎むように本能に刻まれていった」

「それが勇者一族がモンスターに狙われる原因か」

「それだけでは足りぬ。知能を持ったモンスターに、彼らの血の騒ぎの原因をある一族に限定したものがおる。そやつの名はキサラギという東洋人じゃ」

「あいつか!」


 ユルゲンは3階で戦った中年の男を思い出した。


「奴がモンスターの知的階級に、ブレイブマン一族が全ての元凶である事を告げた途端、モンスター達はブレイブマン一族のみを標的にするようになった。だがこの事を知る者はわしと、キサラギぐらいじゃろう。まあキサラギには4人の娘が居るから、その娘らにも伝わっとるかもしれんが……」

「あいつが元凶なのか……」

「あやつの判断は間違ってはおらん。誰かが犠牲になれば確かに被害は少なく済む」

「だが奴のせいでブレイブマン一族は!」

「まあ続きを聞くがよい。それからというもの、ブレイブマン一族とモンスターは戦い続ける運命となった。それが周りには勇敢に見えて『勇者』という言葉が生み出されるようになった」


 勇者誕生の歴史を知ったユルゲンはショックを隠せなかった。


「それは何年も続いたが、その形を変えよったのがこのビルの社長、ミリオン・ブレイブマンじゃ。奴はモンスターとビジネス関係を持とうとした」

「そこからは知っている。モンスターを食糧で買収し、茶番を打つ。奴らは人間を襲う為に、街の近くまでやってきて、ブレイブマン一族が来たら、倒された振りをして撤退する。そうすれば、無駄な資源を使わずにモンスター討伐を成功させることができ、富と人望が全て自分たちのものになる。

 モンスターの中には獰猛な種もいて、時折殺される狩人がいる事から、モンスターが危険である事も十分に伝わる。これで民衆にモンスターの危険性を知らしめたまま茶番が打てるというもの」

「さよう、それを知る者が最近は増えて、ブレイブマン一族も終わりが近いと言われておったわけじゃな」

「じいさん、あんたはどうしてさっさと俺たちブレイブマン一族を殺さなかったんだ?もっと早く殺していればこんな腐った世の中にはなっていなかったはずだ」

「言ったじゃろう。そんな事をしても、別の勇者、成金が生まれるだけだと」

「じゃあ何故今殺したんだ!?」


 一呼吸置いて、老人はゆっくりと話した。


「時代の終わりを告げる為、そしてお前に会うためじゃよ。ユルゲン。最後の勇者よ」

「俺の名まで知っているのか。あんた一体何者なんだ?」


 老人は実の親のような優しい顔をした。


「お前を金の亡者にせぬ為に、知人に引き渡すように命じたのはわしじゃ。そのおかげでお前の親は犠牲になったが、お前の親父は悔いておらんかったよ。お前が真実に生きる本当の勇者になって欲しいと願っておった」

「親父がそんな事を……」

「殺し合いの連鎖をやめ、皆がその気になれば世の中だって根本的に変わるかもしれん」

「ふざけるな!そんな事信じられるわけないだろう。今勇者の血筋を絶やす事の方が大事だ。貴様を殺して俺も死ぬ。そうすればモンスターは、少なくとも以前の状態に戻るはずだ」

「ばかな。人間から入れ知恵をされたモンスター達がそう簡単に引くわけは無かろう。と言った所でお前はもう聞く耳をもっておらぬな。納得いかぬならその剣で切り開いてみせい!」

「言われなくても、そうするさ」


 そういうと、ユルゲンは腰の後ろに結び付けていた剣の柄のようなものを取り出した。

 しかし、その奇妙な剣は、確かに剣ではあるが、肝心の刃がついていないのだ。


「その剣は……」

「これはゼーレと名付けられた剣。魂の炎を燃やして刃を作り出す代物だ」

「貴様ごときがそんなものを使えるものか!」

「使えるさ。こうすればな」


 おもむろにユルゲンは、剣の柄を自分の胸に刺した。

 そして、その剣を引きぬいた時、青く燃える炎が、刃として現れ出した。


「自分の魂を刃に変えるのか」

「そう、体力の消耗は激しいが、威力は段違いだ」


 ユルゲンは魂の剣を振りかざし、老人に向けて振り下ろした。

 攻撃を受ければ一溜りもない事を悟った老人は、慎重に刃をかわした。

 ユルゲンのニ撃目、魂の炎がかすると、老人の皮膚が光り、焼け爛れた。

 老人の額に汗が流れた。

 

「貴様、命が惜しいか」

「やらねばならぬ事があるでの」


 老人が逃げに徹すると、ユルゲンは次第に体力を消耗していった。魂の剣は力を失い、短くなっていった。

 

「はぁ……はぁ……くそ……俺の力はこんなものなのか……」

「そろそろかの」


 そういって老人は、何やら奇妙な腕輪を取り出した。


「貴様は死んではならん。時代の移り変わりを全て見て、悟れ」


 そう言って、奇妙な腕輪をユルゲンに付けた。

 その腕輪には、生きた人間の顔が2つ付いており、ピクピクと動いていた。


「この肉欲の腕輪『ラスト&リスト』は、人間として受肉したものが味わう全ての快楽と苦痛を吸い込み、装備者に体験させる。そして人間の憎しみを受ける度に醜く、飽食を受ける度に肥えさせていく。人間が抱えた苦しみを同じように味わうがいい」


「やめろ!外せ、こんなもの!」


 ユルゲンは叫んだが、力を使いすぎた代償で体はもうほとんど動かず、外す事はできなかった。

 腕輪はどんどん手首に食い込み、終いには同化していった。


「もはや外れんよ。なあに、飯の心配はしなくてもいい。その腕輪自身の力で、嫌というほど生きられるじゃろうて。どうじゃ、夢のような話じゃろ?」

「くそ!外れない。それどころか、どんどん手首に馴染んでいくようだ。おい!外せ!」

「断る。そのかわりと言っては何だが、貴様を始まりの街、セントハイムまで送ってやろう。最後の勇者の醜き姿を、皆に見てもらうのじゃ」

 そう言うと、最初の勇者は魔法を詠唱し、ユルゲンをセントハイムにまで飛ばした。

 老人は屋上に立てられた小屋の中に戻っていった。



 セントハイムに送られたユルゲンは、翌日から奇妙な快楽と苦痛を毎瞬味わうようになった。

 それは耐え難い程に大きく、まさに街中の人間の快苦を受けているようであった。

 ユルゲンは数日間、ベッドから起き上がる事すら出来なかった。


 個人の快楽など、他人から見ては分からぬものばかり。ユルゲンには苦しみの方が何倍も強く感じられ、その度に身をよじって苦しみに耐えた。

 更にユルゲンはブレイブマンカンパニーの連中に狙われている身。常に身を隠す日々でもあった。

 

 そんな日々に耐えられるわけもなく、ユルゲンは、街を出て、洞穴に身を隠すようになった。

 だが、ブレイブマンカンパニーの捜索隊に見つかり、また勇者の血筋であるがゆえ、モンスターにも狙われる彼にとって、この生活も危険なものだった。

 

 街にいれば苦痛を味わう。外に出ればモンスターに襲われる。ユルゲンは地獄のような日々をあてどなく彷徨った。

 

 彼自身の容姿はどんどん大きく、醜くなっていった。

 もはや元の姿など留めてはいなかった。

 モンスターと寸分違わぬ彼が、安息できる場所など一つとして無かった。

 

 もはや洞穴に身を隠す事などできないと知ったユルゲンは、新たな策に覚悟を決める他なかった。

 モンスターを迎え打つのではなく、力で従えるのだ。その方が何倍も効率がいい。そして小さな城を作らせ、籠城する事となった。


 容姿はもはや、隠せるような大きさでは無かったが、醜い容姿を隠す為に、重い鎧に身を包んだ。目立たないよう、黒く重い鎧に。


 その姿は魔王のようにも見えた……

 

 

 

 

 

 第一章 最後の勇者 完

 

 

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