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第四話「キサラギ」

 入り口には誰も居ない。すでに退社時間を過ぎて、社員達は帰っているようだ。

 だが、この日、この時間に社長が5階に居ることはすでに入手した情報から分かっている。念の為、マドカにも透視してもらったが、妨害されていて見えないとの事であった。


「よっし、そんじゃ行くべ」

「ああ、手筈通りに頼む」

「まっかせるべ。オラだけで社長をブチ殺して生首を剥いでやるべ」

「そこまでせんでいい。このヌケサク!」


 マドカもNK39と打ち解けているようだ。

 

「ほんじゃ、行ってくるべ」

「ああ、できるだけ相手の気を引いてくれ」


 草陰に隠れる一同。


「うおおおおおお!年貢を減らせえええええ」


 叫びながら本社に突進するNK39。

 案の定、入り口を突き破った辺りでビル内の明かりが点いた。


「あのバカ、騒ぐのが早すぎるって!」


 マドカが困惑する。


「でもこれで、私達は入りやすくなりますよね、ユルゲンさん。あんな農民のおじさんが計画的に動いているなんて思われませんからね」

「そうだな。どこからどう見ても一人で起こしている『いっき』だ。竹槍でも持たせるべきだったか」


 2分ほどした後、中でサイレンが鳴り始めた。


「あれじゃ探知されるもされないも関係ないじゃん!」


 マドカの言う通りだった。


「仕方ない、今から突入だ!マドカ、結界で援護を頼む」


 三人が一緒になって建物に突入する。銃声やミサイルの爆発音が聞こえ始めた。NK39が暴れているのだろう。

 三人は正面から乗り込み、一目散に、見取り図にあったエレベーターに向かって走った。


 社内は数人が銃を撃っている程度。一足飛びでユルゲンが斬りかかり、マドカは銃撃を結界で防ぐ。


「すごい!これ無敵ですよ!」

「そうでもないよ。思いの外、銃が高性能だし、このままじゃ結界が破られる!」


 エレベーターで1階にやってきた増援をユルゲンとサナエが一瞬で切り伏せる。


「二人のコンビネーションの方が無敵じゃんか!」


 マドカが感嘆する。


「NK39さんは!?」

「2階のエレベーター前で応戦するように言ってある。早く乗り込め!」


 一同はエレベーターに乗る。

 扉が閉まった後、ユルゲンはエレベーターの箱の上部を剣で切り裂き、穴を開けた。


「何があるか分からん。ここで待機しよう」


 そう言って三人はエレベーターの箱の上に隠れた。

 案の定、2階に到達した瞬間、銃の乱射がエレベーター内を襲った。

 

「うっわ、これ、中に居たら結界破られてたよ」

「銃を撃つしか脳の無い腰抜けどもめ」


 そう言うと、ユルゲンはエレベーターの箱の上部から小石を弾き、『閉じる』ボタンを押した。扉は閉まり、3階に向かった。

 

「NK39は先に行っているみたいだな」

「ホント役立たずね。あのポンコツ」


 マドカは憤慨した。

 3階に到達すると、銃声は止んでいた。2分ほどした後、確かめるように降りるユルゲン。


「大丈夫だ。ここには敵は居ない」

「なんか静かですね」


 サナエが不思議がる。


 3階からはフロアを横断しないと上には行けないので、一同はドアを開けてフロアの中に入る。

 するとそこには研究室のようにガラス張りの植物が置いてある広間があった。中央にはかなり広い空間がある。

 

「何かの研究室ですかね」

「そうみたいだな、下の階とは雰囲気が全然違う」

 

 奥まで行くと、一人の男が何かのマシンに乗ってユルゲン達を待っていた。


「来ましたね」


 白衣を着た中年くらいの男がこちらを見ていた。

 

「何だお前は」

「このフロアは私、キサラギの研究フロアだ。一般の社員は入れない。」


 男はゆったりとした口調で話し始めた。


「君達は特別ゲストって所だな。こんな素晴らしいプレゼントをくれたのだから」

「プレゼント?」

「このメカの事だよ。NK39と言ったかな」


 博士が乗っているマシンは、NK39とは似ても似つかない、高性能のマシンだった。

 近代的なフォルムに、後ろに人を載せる部分まで付いた、完全な戦闘用マシンのようであった。

 よく見ると、変形したマシンの中央に薄ら汚れたおっさんの顔が伺えた。


「バカな!NK39が突入して5分ほどしか経ってないぞ!」

「5分もあれば充分ですよ。脳波をいじれば細胞は何にでも変化可能のようですからね。私はただ脳波をコントロールしただけです。それだけでこんなにも巨大化、硬質化が可能なのですから……これは素晴らしいものだ!」


 キサラギはおっとりした口調ながらも、研究対象には熱が入っているようだった。

 その時、マシン中央の顔が喋り出した。。

 

「ユルゲン~助けてくんろ~」

「NK39!意識はあるのか!?」

「あるだよー、でもどうにもならねぇだー」

「おや、困りましたね。体はともかく、アイデンティティはどうやって制御するんでしょう」


 キサラギはわざとらしいポーズで悩んだ。


「ど、どうするんですか?ユルゲンさん」

「戦うしか無いだろう」

「待って、私に考えがあるわ」


 マドカが提案した。

 その作戦は成功するかは賭けだったが、このままNK39を壊すよりは現実的なものであった。


「うん、それでいこう!」

「今度は俺がオトリか……」

「頼みますよ。ユルゲンさん♪」

「お前なぁ……」


 サナエとユルゲンが普段のように軽い話をした後、ユルゲンはキッとキサラギと名乗る男を睨んだ。

 

「まさかやり合うって言うんじゃないだろうね?戦闘は嫌いだよ。少なくとも僕はね」


 キサラギは飄々とした態度でユルゲンを見下ろす。

 

「生憎、俺は好きなんだよ、斬りかかる時の高揚感がな!」


 ユルゲンは一足飛びでNK39に斬りかかる。NK39は素早い反応で後ろに身をかわした。


「デンジャーレベル2、6連装ミサイル及び特殊合金ブレード使用解除」

「おやおや、そういう仕組みなのか。たまげたな」


 研究対象に興味を示すキサラギ。


「ユルゲン逃げろ~、オラの事はいいから、畑だけは守ってくんろ~」

「バカ野郎。弱音吐く暇があったら、抵抗して見せろ!」


 6連装ミサイルがユルゲンを襲う。背中の剣で薙ぎ払うも、流石にこの数のミサイルを捌く事はできず、一発被弾してしまった。

 脇腹を抑えながら、叫ぶ。


「今だ、サナエ!」

「はい!」


 そう言って飛び込むサナエ。

 しかしサナエの体格はあろうかという特殊合金ブレードがサナエを刀ごと弾き飛ばした。

 その次の瞬間、サナエのマントに隠れていたマドカが飛び出してきた。

 マドカの頭の団子はメラメラと燃えるようにうねっていた。


「くらえ!」


 マドカは真っ赤に染まったお札を一直線に飛ばし、NK39の額に貼りつけた。すると、お札から放たれる鋭い閃光の後にNK39はピタリとその動きを止めてしまった。


「やりぃ!」


 ガッツポーズをするマドカ。

 すぐさま数珠を取り出して念じる。

 するとNK39は、後ろに乗せていたキサラギを掴んで上空に放り投げ、6連装ミサイルをお見舞いした。


 凄まじい爆音と煙が飛び散る。NK39は完全にマドカの支配下にあった。

 サナエがマドカの行動を褒めた。


「すごいじゃん、マドカ、成功だよ!」

「へへ、脳波で簡単に操れたって事は、こっちも脳波を操るお札を使えば簡単に操作できるはずだって閃いたの。見事に作戦勝ちだね」


 しかし、煙が無くなったその場所にはキサラギがピンピンした姿で立っていた。

 

「やられましたよ。すごい能力を持っていますね、あなた達。私は好きですよ。アナログな人達も」

「貴様、あれを食らって無傷なのか!」


 ユルゲンがそう言うと、キサラギは白衣の袖から左手にある腕時計のようなものを見せた。

 

「バリアか!」

「そうです。最先端の技術では、すでにこの細い腕輪から全身にバリアを作り出す事も可能。ですが、これ以上はバリアが持ちませんね。退避させて頂くとしましょう。またどこかで」


 そう言うと、キサラギはもう片方の腕輪をかざし、どこかにワープしてしまった。

 

「何だったんだあいつは……」

「それはともかく急ぎましょう」

「NK39はどうするんだ?」

「私が乗って行くよ」


 戦闘マシンと化したNK39の後ろに乗るマドカ。端から見るとすごい組み合わせだった。


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