挿入編 黒の書
これは100年前の話です。
物語が進んで行くと、重要になります。
ここを読めば、なるほどってなると思います。
あまり言ったらネタバレしますのでここまでにします。
ーあれは遥遠い昔の出来事である…。
魔王は100年前、英雄王が率いる連合国軍(エルフ・ドワーフを含む)に十万の兵士で猛攻撃され、没落した。
魔王が死んでから数年後の事、平和を取り戻したとある村で奇怪な事件が起きた。
見習い魔導師であるクライン・アスラは賢者の石を作り出す為に、日々実験を重ねていた。
しかし、トール魔法大学院では賢者の石の研究・実験は全面禁止していた。
賢者の石…永遠の命を与えるとして古来より求められてきた。
アスラの母親は病で苦しんでいた。
医者に見放された為、藁にもすがる思いで賢者の石を生み出す錬金術を探していた。
そんなある日、アスラが薬草を探しに森の中わ、歩いていた時、廃墟になった古城を見つけた。
アスラは錬金術が記された書があるかと思い書庫を探し始める。
狙い通り、数多くの古文書や魔術本があった。
薄暗く、埃っぽい書庫は怪しい空気を漂わせていた。
そして、導かれるようにアスラは黒の書を見つけた…。
「246ページ…錬金術…目次…賢者の石と魔王…これだ」
黒の書に記されているその呪文を口にした。
「我が肉体…我の者にあらず。この器と紅の血を差し出さん」
書かれていた通り、手首を切り血を三滴地面に落す。
しかし、アスラはページを間違えていた。
それは魔王の召喚魔法だった。
突然、書庫が揺れ始めるが地震ではない。
「えっ?私は、何をしたの…。どうして、三滴の血で賢者の石が形成されるんじゃあないの」
「フハハハ。アッハハハ。愉快愉快。これは傑作だ。まさか、やられてから直ぐに生き返れるとは」
若い少年の声がした。
書庫に不気味な声が響き渡る。
「いや。誰…?誰なの…。どこにいるの」
「ここだよ」と背後から声がした。
アスラは声がした方へ振り返った。
そこには、美しく優しい顔をした少年が立っていた。
その少年がゆっくりとアスラに歩み寄る。
「僕を呼んでくれたのは君だね。フフフ」
「きゃっ!つ、角が生えてる……」
「当たり前だろ。魔王なんだから」
「えっ?」
アスラは固まってしまう。
目の前にいるのが、あの冷血で数十万の魔王軍を率いれるようには見えなかった。
どちらかと言うと人間に近い。
「どうやら困っているようだね……。そうだ。君の名前を教えてくれたら、母親を助けてあげよう」
「ほ、本当!?名前だけでいいの」
少年が微笑む。
「そうだよ。名前だけでいいんだ」
「私の名前はクライン・アスラ」と目を輝かして言った。
母親の病を治せると聞いたアスラは我を忘れる。
これは愚かな行為……。
自ら名を明かす事は魔族との契約とみなされる。
その後、アスラは数日の間、村に帰らなかった。
村人が心配し始めた頃、アスラ帰ってきた。
「助けて……」とアスラは泣いて言った。
アスラは魔王に取り憑かれたのである。
村人にはアスラとは気が付かず、魔族と思い逃げ出す。
そしてある場所に助けを求めた。
それはフェレン聖騎士団だった。
聖騎士とは魔族を討伐する為だけに結成された組織であった。
フェレン騎士団は直ちに聖騎士を集めその魔族を討伐をする為、動き出す。
アスラの居た村に火が放たれ、アスラの母親も家ごと焼かれた。
「いゃああああ!」と無人になったはずの家から声がし、あまりにも悍ましい声が響き渡る。
「やはり、住み着いていたか。悪魔め!」
「いたぞ!邪悪な魔族に裁きの鉄槌を」
フェレン聖騎士団がアスラを追い回す。
アスラは走った。生きる為に…。
そして、辿り着いた。
魔王の居城、ダーク・ソードへ。
フェレン聖騎士団はさすがに追撃を断念する。
「許さない。母さんを…。僕は許さない。フェレン聖騎士団を皆殺しにしてやる。人間も皆殺しに」