魔導師 その3
それから数分後…。
ライヤとマクシリンの間に深い溝が出来てしまったのであった。
騎士と魔導師はどうやら、永遠にわかり合えないのだろうか。
とりあえず、現在休戦中。
「ライヤ?任務成功したんだから、そろそろ峡谷の国に帰ろう」
「私も早く、大学院を覗いて見たいよ」と喜ぶマクシリンだった。
「任務完遂した時の酒は美味いからなぁ〜。あぁ。想像しただけでよだれが……」
ライヤはそのよだれを拭った。
「姉さん!?もぉ。また品が無いと思われますよ。そんなんだからお嫁に行けないんだ」
アルミカは目をしかめて怒り出したのを見たライヤはアルミカの肩に手を置き、引き寄せて、耳元で囁き始める。
「いいじゃあないか。バルグ首長は器が大きいから、宴を用意してくれるぞ。何せ、厄介な魔王軍の小隊を三人で討伐したんだからなぁ。ニヒヒヒ。鳥の丸焼きに、牛肉のステーキ。高級食材であるシェールチーズ、あとあと……」
アルミカの口が上に向き、ニヤつく。
「姉さん?今、シェールチーズって言いましたよね。シェール国の食材が海を渡ってここにあるんですか…フフフ。一度食べてみたかったですよ」
血は争えないな。
笑い方も同じだぞ。
ツッコミしたくなるカシダだった。
「てか、三人って誰か抜けてるぞ!?」
「そりゃあ決まってるだろ……」とマクシリンを睨んだ。
「酷い!私も頑張ったのに」
「そうだ。マクシリンは一生懸命頑張ったんだぞ」
カシダがマクシリンを庇う。
そんな時、ライヤが小さい声でつぶやいた。
いかにもわざとらしく。
「そう言えば、シェール国特産の白豚もあるかもなぁ〜。あれ?誰か死ぬ前に食べたいって言ってた人が居たようなー」
話を遮るようにカシダは目をかっ開いて言った。
「し、白豚!?幻のホワイト・ピッグだとぉ〜」
カシダが地面を踏み込み、峡谷の国に走り出した。
うわぁ。重いからって装備を捨てた。
アルミカは驚いた。
どれだけ、白豚に執着があるんだ?
このカシダの行動は無理もなかった。
カシダの家は貧しくいつもライヤの家には行ってパンなどを分けてもらっていた。
つまり、高級食材など、ましてや外交国の特産品など見た事も無い。
ライヤとカシダとの身分は大きく差があった。
ライヤの家は100年もの間、代々騎士の名家
サルベート一族のご令嬢だったのである。
ライヤは他の騎士や貴族のように胸を張り上げて威張り散らす人ではなかった。
少し品は無いが、誰に対しても接し方を変えない。
貧民であるカシダはずっと、貴族や民衆に差別されていたが、彼女だけはそうではなかった。
カシダはそんな強気で品の無いライヤがずっと気になっていた。
「おい!?バカ、装備一式を投げ捨てる騎士がいるか」
ライヤが呼び止めると、走りながら振り返る。
「すまん。これだけは誰にも渡さない」
「だからって…いや。待てよ。シェール国と言えばラムがあるじゃあないか!」
思い出したように目の色を変えてカシダの後を追う。
「えっ。ちょっと、カシダさんの装備は?」
アルミカはほっとけないだろと言わんばかりの顔をして指差した。
「マクシリンに任せた」
「何!?何で魔導師が荷物持ちなんだよ」
「うるさい!魔法で瞬間移動でもすればいいだろ」
「そんなに便利な魔法あるかって話を聞けよ!」
ライヤはマクシリンに手を振って走り去るのであった。
「くそ。最低な奴だ」
そう嘆くと、律義にカシダの盾・剣・バックなどを拾おうとした。
しかしそれをアルミカ拾いあげる。
そしてマクシリンに顔を向けた。
「恨んだりしないでね。姉さんとカシダさん悪気は無いと思うから。それに、これは僕が持つよ。よっと」
「……アルって本当に優しいね。姉とは大違いだわ」
「まぁまぁ。さぁ。僕達も帰ろうか」
「うん」
マクシリンがアルミカに微笑んだ。
ライヤ達は峡谷の国に急ぐ。
白豚とラムを求めて全力疾走中。
ちょうどその頃、峡谷の国で三つの種族が集まっていた。
議会が開かれるのである。
峡谷の国、バルグ首長はラインライト帝国が崩壊後、独自で各地の代表者である首長らを集めて臨時議会を帝国の代わりに開いていた。
中心となるのが北の森林国エルフ・南山脈国ドワーフ・そして西の峡谷国人間であった。
議題はラインライト帝国を奪還するか否か。
また奪還する為にはどれぐらいの兵力が必要かである。