魔導師 その2
次の日、朝早くライヤが目を覚ました。
髪の毛がボサボサだったので整えると外されていた剣を腰に付け、それから宿屋を出た。
ライヤは英雄王のラインライト帝国がある方向を悲しい顔で見つめた。
「英雄王様…私は…貴方の騎士。必ず貴方の帝都を取り戻してみせます」
剣を鞘から抜き、地面に突き立て騎士の誓いのポーズをした。
すると、背後から声がした。
「ライヤ?もう起きていたのか」
「あぁおはよう」
カシダが横に並ぶとライヤは立ち上がった。
「おはよう」
「もう少し、日が昇ったら討伐に行こう」と腰に手を置く。
カシダは深くうなずいた。
「わかった。アルミカを起こして来るよ。朝飯はどうする?」
「私はいらない」
別の場所で声が飛んで来た。
「じゃあその分を私が貰うわ」
ライヤとカシダがそこに向いた。
それは魔導師マクシリンだった。
昨日は持っていなかった杖を手に持っていて、服装も歩きやすい格好をしていた。
ライヤはマクシリンに微笑む。
そして、しゃがんで何かを手に取る。
カシダはその行動が不自然に見えた。
ライヤはゆっくりと立ち上がるとマクシリンに向けて、拾った石を投げつける。
カシダは思った。
まだ、根に持ってる!?
「おっと。危ないなぁ」
投げつけられた石はマクシリンを囲む結界に弾き返された。
「ちっ。結界張れのか……」
「そんぐらいできますよ」
「もしかして、試したのか」
カシダは少し冷静になり、ライヤに話しかける。
ライヤは突き刺していた剣を手に取り、鞘に納めた。
「まぁ。そうゆう事だ」
「それじゃあ私を認めてくれたって事かな?」
自分に指差して、微笑みんでライヤに聞く。
ライヤはそっぽを向き、言い返した。
「ふん。誰が貴様を認めたと言った。私は任務を優先するだけだ」
「手厳しい〜」と半分呆れた素振りをした。
ライヤが嫌な顔をして、マクシリンに歩み寄る。
マクシリンは身構えた。
また何かをするのかと思ったのであろう。
しかし今回は違った。
ライヤはマクシリンに右手を差し出す。
か今後は魔王軍との闘いで魔導師が必要となる。以前に苦い思いをしたからだ。その時は利用させてもらうぞ」
「何か回りくどいなぁ。まぁ〜いいけど。アルも昨日同じ事を言ってたし、協力したあげる」
アルってアルミカの事か?
あいつ何をどこまで話したんだ。
もしかしてゴリアテに闘わずして逃げたてか言ってないだろうな。
マクシリンはその差し出された手を取り、二人は握手した。
ライヤは直ぐに手を離して言った。
「これで、正規ではないが契約成立だ」と手を腰に置いた。
「姉さん?また喧嘩ですか。仲良くして下さいよ!」
アルミカが起きて宿屋の二階窓から話しかける。
「あっ!アルだ。おはよう」
「おはよう。マクシリン!」と手を大きく振る。
アルミカはいつの間に距離を縮めたんだ?
カシダは不思議に思った。
実はこの二人、話をしている内に同じ歳である事がわかり、趣味も同じで意気投合。
そして、アルミカはマクシリンにカシダとライヤの力になって欲しいと事前にお願いをしていて魔導師を嫌うライヤの事も説明済み。
かさて、そろそろ出発の準備をするか?」
カシダに向いて言うと、深くうなずく。
数分後、準備を整えて、ライヤ達は魔王軍が潜んでいる森に入ろうとしていた。
道はしっかりと造られており、歩きやすかった。
川に架かった石橋の真ん中辺りでマクシリンが何かに気がついて鼻で何回か嗅ぎ始めた。
ライヤがそれにツッコミを入れた。
「お前は犬か!」
「皆、ゴブリンの臭いがする!気をつけて。待ち伏せしてるかも」と杖を構える。
「何?わかった。マクシリン。アルミカを頼む」
魔導師は嫌いだが、確実に守れるのは、マクシリンしか居ない。
私とカシダは接近戦が得意だ。
それ故、闘っている内にアルミカと離れてしまう。
いざって時に守れない…。
「りょ〜かいです。アル。近くに居てね」とアルミカの前に立つと手を前に出して結界を張る。
「別に僕の事を気にしないで良いのに……」
アルミカがそう下を向いて時、近くの雑草が揺れていた。
ライヤはカシダに目で合図すると、深くうなずき、警戒しながらゆっくりとそこに歩み寄った。
すると突然そこからゴブリンの集団が飛び出して来た。
カシダは飛びかかって来た一匹を斬り払う。
「うぎゃ」と変な声で倒れた。
「いきなりかよ!」
だが、二匹がカシダの背後に回り込み攻撃しようとする。
瞬時にカシダは振り返り盾で防御した。
それを見たライヤはカシダの所まで走り込み、二匹を軽がると切り裂く。
そしてライヤはまだ息があったゴブリンに止めを刺す。
ゴブリンの鎧を確認すると、鎧の中心に魔王の眼が描かれていた。
それに気が付いたライヤがカシダに言った。
「ん?こいつら、斥候だ!」
「斥候が三匹という事は、部隊数は約、30という事か」
森から何かが、飛んでくる音がした。
「カシダ!弓だ!盾で防御しろ。」
「何?了解」
二人は盾の後ろに隠れた。
しかし、二人の盾は軽装歩兵用だった。
長くは持たない。
一回の攻撃しか避けられない。
森から矢の雨が降って来たが、この二人に向けられた弓ではなかった。
「しまった!狙いはあっちか」とカシダがアルミカとマクシリンの方を向いた。
マクシリンの結界に矢が当たるが、全てが弾き返したのであった。
「余裕、余裕」とマクシリンは笑う。
「ハリネズミになるかと思った…。」
アルミカの方は尻餅をついていた。
深く息を吐いたカシダはライヤを向いた。
ライヤも焦ったのだろうと思って見たが、いつも通りだった。
そうか。ライヤはこういう事があるから、魔導師を連れて来たのか。
という事は朝の石投げ事件はマクシリンの結界が強固かを確かめたのか?
前から思っていたんだが、予知能力でもあるかもな。ってそんなわけないか…。
ライヤは普通の騎士なんだから。
ライヤの方は表情には現れて無かったが、じゃ感焦っていた。
「あっぶねぇ。魔導師連れて来て正解だったわ」
「俺も焦ったぜ」
ゴブリン共は弱い奴から狙うからな。
アルミカを早い事、鍛えないと駄目かもしれない。
そして、今度は獣道からゴブリンの集団が現れた。
頭数15と言った所か。他は?どこにいった。
「カシダ!一旦、アルミカの所まで下がるぞ」
「おう。わかったって危ねえだろ!クソゴブリンが」
「げゃあ!」
カシダに振りかざされた肉切りナイフが顔をかすめたのだった。
そのゴブリンを思いっきり蹴飛ばし、アルミカ達が居る所まで走る。
ライヤ達は石橋の真ん中辺で前と後ろで囲まれてしまった。
「見通しは良好。どうする?ライヤ」
「そうだな。アルミカとマクシリンは15匹を倒してくれ。私とカシダは目の前に居る14匹をぶっ潰す」
「了解!」とアルミカ、カシダ、マクシリンが声を合わせて言った。
さて、暇つぶしと行きましょうかね。
ライヤが剣を構え、踏み込んだ。
「やぁぁぁ!」
二匹同時に切り裂き、目の前のゴブリンの首元に剣を突き刺す。
カシダも負けずに奮闘中。
マクシリンはアルミカに言った。
「アル。少しだけ、時間稼ぎして」
「うん。わかった」
アルミカもライヤのように踏み込んが、剣を適当に振り逃げ回るだけだった。
「やっぱり、無理!ゴブリンが多過ぎるよ。ひぃ」
ゴブリンが飛び掛かる。
アルミカはそれに驚き、後ろに転けた。
ゴブリンはアルミカの上に乗り、突き刺そうとするが盾で防御していた。
「仕方ないなぁ。ファイア・ボール」と杖の先から火の玉が出来ると、それを投げつけた。
「ブギャア!」とアルミカの上に乗っていたゴブリンが蒸発する。
アルミカの盾も炎上中…。
「うわぁ!」
「ごめん。加減間違えた。アハハハ」と笑で誤魔化す。
「何やってんだ!マクシリン。アルミカを死なせたら火炙りの刑にするぞ」
遠くでライヤが闘いながら、マクシリンに言った。
「火炙り!?それはダメだよ。だ、大丈夫、アルは絶対に死なせたたりしないよ。大地に生きる自然の力よ。我の求めに答えよ。我に力を。穢れた者に裁きの雷を与えたまえ。バグル・ロライジン・ランス」
目をつむり両手を前に出して呪文のようなものを唱えると、ゴブリン達の頭上から稲妻が落ち始める。
ドン・ドンとゴブリンに当たり、消えていく。
一方、ライヤとカシダはマクシリンの穢れた者しか当たらない稲妻を自然のものだと勘違いし、必死で回避中。
「ひっ!死ぬ!うわぁ」
「うっ!やばいって」と二人はダンスしているように回避していた。
アルミカは立ち上がり、両手を頭に置いてマクシリンの方に駆け寄る。
アルミカはマクシリンの魔法だとわかっていた為、少し驚いただけだった。
「マクシリンって凄い!こんな大魔法が使えるなんて」とアルミカはマクシリンを褒めた。
マクシリンはアルミカを見つめると顔を赤らめる。
「こ、こんぐらい誰だって出来るんだから」
照れ隠し、長い髪の毛をいじりだした。
ゴブリンの集団は跡形も無く消え去った。
ライヤとカシダが近づいて来た。
ライヤの方はマクシリンの魔法である事に気付いたのか、不機嫌な顔をしていた。
「聞いてくれよ。さっきな神の加護があったんだぜ。いきなり稲妻がー」
カシダは相変わらず、天然なのか、そうでは無いのかわからないような言葉を言っていたがその話を遮るようにライヤがカシダの後頭部を殴った。
「この、バカ。どう考えたって魔法だろ」
「あっ痛い!」と後頭部を抑えた。
「マクシリン…お前…私に気付かれない内に消してしまおうという魂胆か。やはり悪魔だったんだな」
両手を震わせるライヤの後ろに黒いオーラが出ているようにマクシリンには見えた。
「うわっ。黒いオーラが見える。違うわよ。アルを助けたかっただけ。それに前にも言ったけど、悪魔と魔導師の見分けがつかないなんて、それでも聖騎士かい?あっかんべーだ」
マクシリンは舌を出して挑発し、逃げ出した。
ライヤの目が光り、剣を振りかざして追いかける。
「火炙りにしてやる!このクソ悪魔め」
カシダは前みたいに止めようと思ったが諦めたようだった。
「これは、一生仲良くはなれんな」
「そうですね……アハアハハハ……」とカシダとアルミカは呆れて眺めていた。