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英雄亡き世界  作者: 飯塚ヒロアキ
第一章 ゴブリンは弱い
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魔導士

 ライヤら三人は歩き続けてから数時間が経っていた。ようやく峡谷の外を出て、魔王軍が出没していると報告があった小さな村に着いた。村の中を歩いていると、地面に何かで線が引かれているのが見えた。その線は星の形をしている。真ん中に炎と書いてあった。


「何だ? この白線は……」


 ライヤはその白線に近づき、しゃがんで人差し指で触れようとする。


「おい?それ何か危なくなーー」

「 あー! 触ったらダメなんですけど」

「えっ?」

 

 その声の方に振り返ったが既に遅かった。ライヤは突然、触れた手から炎上する。


「いやーー! 死ぬぅうううう、死ぬぅううううッ!!!」

「ぬぁーー!」


 カシダとアルミカが慌てふためく。


「カ、カシダさん! 水を早く」


 カシダが急いで腰に吊るしていた水袋を取り出し水をかけようとしたが、うまくベルトから外れず、慌てているとライヤの頭上から水の塊が現れ、勢いよく落ちる。


 勢いよく水の塊を頭上から浴びたライヤは思わず、尻餅をついてしまい、声が漏れた。


「し、死ぬかと思った……」


 そして、自分の炎上した手を視線を送る。ちゃんとついていた。黒焦げにもなっていない。


「よ、よし。大丈夫。しっかり手の感覚もある」


 炎上した手を開いたり、閉じたりした。そう言えば、不思議な事に痛みが無かったような気した。


「その魔法陣、どうやら未完成だったみたいだね。アハハハ。おっかしいなー。どこで間違えたのかな。うん……」


 黒い帽子を被った少女が持っていた分厚い書物を開き、読み始める。


「未完成だったみたいだね~って、おい! 貴様。こんな危なかしいものをこんな所に書くなッ!!!」


 水浸しになったライヤは立ち上がり、剣を鞘から抜く。剣先をその黒い帽子を被った少女に向けた。


「まぁ、まぁ、落ち着け。そもそもライヤが悪い。」


今にも斬り殺しそうになったので、カシダは羽交い締めにして抑え込んだ。それでも剣を振り回すので、少し後ろへと下がる。


「何を! この! 離せ。あんな奴は、私が斬り捨ててやる。悪魔め!」


アルミカはタイミングを見計らって、ライヤが振り回す剣を奪い取った。


「もぉ。危ないなぁ」

「ぷっ。悪魔と魔導士の見分けもつかないなんて、あんな、素人?」

 

 黒い帽子を被った少女はライラの行動に思わず、口元を手で抑えて笑ってしまう。


「コンチクショウ!」

「はい、はい。落ち着いて、カシダさん? 姉さんを彼女に近づけないようにお願いします」

「おう。わかった」


 そして、カシダはライヤに何かを耳打ちして、指差した。そこをアミルカが目で見ると酒場があった。すると、ライヤの表情が変わり、ニヤニヤした。


 また、酒でライヤを釣ったと察したアルミカは少し嫌だったが、この場が収まるのならいいか。と妥協する。


 ブーブーと文句を言いながらも体が酒場に向かっていくライヤを見るともう呆れてしまう。


 カシダがやったぞ、とグーサインを出してアルミカに笑いかける。アミルカは苦笑いした。


 気持ちを切り替えて黒い帽子の少女に話し掛けた。


「どうも、すいませんでした。あれは一応、僕の姉さんなんです」

「へ~。剣士バカってあれを言うんだね」


 書物を読むのに集中していた。


「いや。そんな事、一言もいってませんけど?」


 それには聞こえていなかったようだ。 


「あのー貴方は魔導士ですか?」


それを聞いた瞬間、読んでいた少女が視線を上げて、上目遣いでアルミカを見た。


「何か、文句ある?」

「いや、文句はないです」

「じゃあ、いいじゃん。あたし、忙しいの。わかる?」

「あ、すいませんでした。あの、峡谷からやっていたんですが、」


魔導師の候補をスカウトしろって言われたので……」

その言葉に黒い帽子の少女は書物を手から落として、アミルカに詰め寄る。

「今、何て言ったの?」

「スカウト…です……」

すると、徐々に肩を震わせ、いきなり、黒い帽子の少女が飛び跳ねる。

それに驚くアミルカは一歩下がった。

「やった!やった。遂にトール魔法大学院にスカウトが来たー!」

あれ、トール魔法大学院って言うんだ…。

知らなかった。



その頃、ライヤとカシダは酒場にいた。

ライヤは既に酔って睡眠中。

「魔王が消えた?」

「えぇこの前、森へ狩に行ってた時に偶然出くわしたゴブリン共が話してたんですよ」

カシダは考え込んだ。

魔王が消えた?どういう意味だ。

続けて店主が話す。

「旦那?他にもあるんですよ。聞いた噂なんですがね。南山脈のドワーフの連中が白竜を見たって言うんですよ」

その白竜の言葉を聞いたライヤの眉毛が動く。

何かを知ってそうな反応だったが…。

「白竜か。聞いた事がある様な、ない様な…」と小さくつぶやく。

調査する必要がありそうだな。

だが、今は任務遂行を優先しないと…。

財布の中身が悲鳴を上げてる。

「店主、ありがとな」

ライヤを担いで酒場を出た。

外ではアルミカが待っていた。

「姉さん?また酔い潰れるまで飲んだんですか」

「これが私の命の水だと」

アルミカは呆れてしまった。

「それより、あの魔導師的な少女は?」

「何か、準備があるとか何とかで、家に帰りました。直ぐに来るって言ってましたが…。あっ名前については、マクシリンだそうです」

「これで、第一目標完了だな」

「そうですね。それで酒場では何か得られましたか?」

カシダが深くうなづく。

「あぁ近くの森に何体か潜んでいるらしい。だが、今日はやめておこう」

目標達成に支障を出しては、いけないからな白竜の事はまだ、言わない方がいいな。

「英雄王!万歳…。フハハハ」と寝言を言った。

二人は深くため息をついた。

「宿を探そう」

「それなら、既に話して来ました。向こうにありますよ」

なかなか、アルミカは用意がいいな。

それに比べて、ライヤと来たら…。

心配で仕方がないよ。俺は。

カシダはライヤをさり気なく見た。

ん?もしかして、泣いているのか?

珍しいな…。ライヤが泣くとは…。

カシダは気づかれない様にその涙を拭いたのであった。

それから宿屋に着き、カシダとアルミカがライヤをベッドで寝かした。

深夜、ライヤは夢を見ていた。

それは、カシダが意味不明な事を言う夢。

草原にライヤは立っていた。

風が顔を横切る。

何て清々しい気分だろう。

こんな美しい草原は見た事がない。

私はいつも戦場の中、見るのは味方と敵の死体、赤く染まった大地…それ以外見た事がない…。

そして遠くに見られた背中があった。

「カシダ」とライヤが呼ぶ。

しかし、振り返ってくれないのだ。

「おい!今度は無視して私をいじめたいのか?」と走って近寄り、肩に手を置く。

「ライヤ……お別れだ」

「はぁ?何言ってんだ」と覗き込むが目を合わせず、遠い所を見ているようだった。

「俺は死んだ…。お前を庇って死んだんだ。最後に…ライヤに伝えたい事がある」

「何言ってるか理解出来ないぞ」

ようやくカシダがライヤの目を見た。

思わず、下を向く。

そして、いきなり、抱きしめられ、耳元で囁く。

「◯◯◯……」

「えっ?」

今、何か変な事言わなかったか?

「それも、ずっと前から……」

ライヤは顔を赤らめて、ドギマギして離してと言った。

しかし離してくれない。

思わず、思いっきり言った。

「離せって言ってんだろうがこの馬鹿野郎!」

宿屋にライヤの声が響き渡った。

「んな!何だ!?」とアルミカとカシダが飛び起きて、辺りをキョロキョロし始める。

「あっすまん。寝言だ。」

あれは夢だったのか。

それにしても、妙な夢だったな。

「ビックリした…。もぉ敵襲かと思ったよ。」

「俺も久しぶりに、冷や汗かいたぞ。ライヤ…何かあったのか?」

カシダが真剣な眼差しでライヤを見た。

ライヤはまた顔を赤らめて、目線をずらし、布団を覆い被る。

あんな事、口が裂けても言えん。

「何なんだ?」

「いつもの寝言ですよ。さぁ。明日は早いですし寝ましょう」

「そうだな」

そして、二人も自分の布団に入った。


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