教団の奇襲
ライヤは納得がいかず、父親に再度、籠城戦が妥当だと言ったが聞き入れてくれなかった。
シャルルはもう死ぬつもりだった。
セイルシュア国軍が隊列を組み、歩調を合わせ出撃をしていた頃、ライヤはフェレン聖騎士団総本部にある団長室に篭っていた。
その横にカシダとアルミカの姿があった。
お馴染みの3人だ。
しかし、今日いつもとは違い、重々しい空気だった。
ライヤはここから離れなれない理由があった。
それはあの謎の少女がここにいるからだ。
どうやら、気になって仕方が無いらしい。
そわそわとして、団長室の中を歩き回る。
「姉さん。心配し過ぎだよ。僕達も父上と合流しようよ」
「出来ない……」とアルミカの問いかけを即答する。
「なぁどうする。俺が聖騎士を呼びに行こうか?」とカシダが壁にもたれながら言った。
「もぁ遅い」
そんな時、団長室の扉をノックして、入ってくる人物がいた。
それはクエンハイムだった。
彼は地下牢に居たが、敵襲の報せを聞き、いろいろと情報収集していたようだ。
流石は伝説の将軍と言われるだけある。
動揺を見せず、常に勝利を信じて軍略を考えていた。
「ここに居ましたか」
ライヤが足を止めてクエンハイムに振り返る。
ライヤはずっと考えていた。
この不利な状況を打開する戦略を。
「クエンハイム殿。何か良い案はありませんか?」
クエンハイムはそれを聞くと団長の事務机に歩き置いてある地図を指差した。
「シャルル殿下はここで闘うと我輩は考えております」
指を置いたのはロザリン関所だった。
つまり、ここで闘うという事になる。
ロザリン関所は、自然の地形を利用し道幅が狭くなった所に城壁が築かれていた。
部隊を展開は困難だろう。
しかし敵も同じく、行軍に隊形から横一面に充分な部隊を展開は出来ない。
その為、少ない兵士でも戦闘が可能となる。
「これでは時間稼ぎに過ぎない」とカシダがあっさりと言った。
敵が少なければ、良い戦略かもしれないが、魔王軍の軍勢は1万と報告が入ったばかりだった。
「先程、我輩の部下300人がセイルシュアに着きましたが……役に立ちませんなぁ」
「いえいえ。昔、マリティアという国が武装兵士300人で敵の大軍を追い返したと書かれた書物を前に読んだ事があります。つまり、数では無く、1人の強さで戦局が変わるという訳です。ですから、無価値ではありません」
「なるほどのう。我輩はいかに勝つかとしか考えておらんかった。流石はライヤ殿だ」
「僕には戦術なんてわからないよ」とカシダの耳元でライヤに聞こえないようにささやいた。
「アルミカ。お前の姉の背中をしっかりと見つめておくんだ。そしたらいずれ戦術のなんたるかがわかるさ。今は焦るな」
カシダが小声で言うとアルミカの頭を撫でた。
まるでアルミカが子供のような扱いをしたのであった。
「将軍!敵襲です」とクエンハイムの部下が知らせて来た。
「ぬぅあに!?ロザリンにか?」
クエンハイムも流石に新手の事は予想していなかったようだ。
しかし、ライヤは新手が何なのかがわかっていた。
「いえ。ここに!しかも内部から」
ライヤが普段着のままで鞘から剣を抜いた。
彼女は戦うつもりだ。
「クエンハイム殿。ここに居て下さい。私が外の様子を見て参ります」と足速に団長室から出て行った。
「全く、鎧も、盾も持たずに外に出るなよな。アルミカはクエンハイム殿のお側に」
カシダがそう言うとライヤのあとを追って行った。