司祭の答え その2
突然、セイルシュア国の城門を駆け抜ける伝令兵がいた。
馬に勢いよく鞭を打ち、街路で隊列を組んで歩いている兵士達にぶつかりそうにもなった。
その一人の兵士が、声を枯らしながら叫び続ける。
「伝令!伝令!敵が来たぞ!魔王軍が来たぞ!」と言いながらシャルル邸に向かう。
食事をしていた兵士が皿を手から落し驚く。
監視塔の鐘が鳴り響き、セイルシュアのどこにいてもわかるくらいだった。
伝令兵がシャルルの前に倒れ込み言った。
「申し上げます!魔王の軍勢がセイルシュアに進撃を開始しました」
シャルルが少し動揺を見せたが、両膝を叩き、立ち上がった。
何かの決意をしたのだろうか。
シャルルの愛しき妻の墓の方面を一度振り向くと、集まって来た兵士に言い放った。
「全軍、ロザリン関所に向けて出撃せよ!我らセイルシュアの勇敢さを見せつけるのだ」
「はっ!」と兵士達が敬礼し走り出す。
そんな時、タイミングよく、ライヤとカシダが駆けつけて来た。
「何事ですか!?父上」
「魔王軍が進撃して来た」
「遂に来ましたか……。では、城壁の守りを固めましょう」
「いや。打って出る」
「シャルル殿?!何をお考えか!ここを要塞国という事をお忘れですか」とカシダが一歩前に出て訴えかける。
無理も無いだろう。
セイルシュアは要塞として、堅牢な壁が街を守り続けて来た。
しかし、今となっては、守る街も国民も一人も居ない。
ここに居るのは老いた兵士に死を覚悟し、忠誠を誓った者だけである。
それにシャルルには考えがあった。
「そうです!何故、門を開け戦うのですか?ここは籠城戦が得策です」
シャルルはライヤの肩に手をすっと置き、「強く生きよ。清らかに生きよ。子を作り、母となれ。これは我輩の遺言である。カシダよ。我輩の娘を頼んだぞ」と最後の言葉のような物を語った。
そんな時、魔王の軍勢とは反対側から新しい勢力がセイルシュアに向けて進撃していた。
その軍勢はセイルシュアな国旗を掲げている。
しかし、明らかに正規の国軍では無い。
鎧で完全武装していると思えば、一部しか装備していない者もいた。
手にする武器も闘う為の物とは思えない……。
それは農業用の道具だ。