愛しき故郷の空
ライヤはそれから、街から離れた丘に居た。
ここはとても見晴らしが良くて、お気に入りの場所だった。
私はここが好きだった。
たくさんの人々の動きが見えて、皆必死に楽しく生きているんだといつも感銘を受けるんだよなぁ。
まぁ今は誰も居ない。
闘う為に武装した兵士しか居ない。
寂しいなぁ……。
「やっぱり、ここにいた」と背後から話しかけてきたのは、カシダだった。
少し前にマクシリンに魔法で完全復活をし、ライヤを捜していた。
「まだ、生きてたか、残念」とカシダの方へ振り返ると落胆した顔をする。
「おい、おい本気で殺すつもりだったのかよ?」
「どうだかなぁ……」と怪しい笑みを見せた。
「こわっ。ライヤから殺意を感じるよ……。あーそれより、クエンハイム殿が司祭を連れて来たぞ。見に行くか?」
「いや。少し、もう少しだけ、この街並みを眺めさせて欲しい……」と街並みを見つめた。
「どうかしたのか?そんなお前を見るのは、初めてだ」
カシダが話ながらライヤの隣に並ぶ。
「ここも、消えてしまうのだろうか……」とライヤは悲しい表情で嘆いた。
カシダはそんなライヤの悲しい表情を見たくなかった。
ここに帰ってから、ずっと悲しんでいる。
俺が何とかして、守ってやらねばライヤは立ち上がれなくなるような気がする。
せめて、ここだけは死守せねば……。
「お前の故郷は無くなったりはしない。必ず、俺が守る」
カシダがそう言って、手を拳にした。
「死守かぁ。その言葉の響きは良い。英雄王様がいつも使っていたセリフだよ。最後の一兵たりとも、恐れず、立ち向かえ!ってな。最悪な状況に陥っても彼の方は余裕の表情だった。負ける事を恐れていなかった。でも私は恐い。目の前にいる仲間が、知り合いが殺されるのが……私には出来ない」
寒さを凌ぐような、格好をすると肩を少しだけ震わせた。
凍り付くような風が頬に当たる。
そして、そのタイミングで白い雪が降り始めた。
カシダが上着を脱いでライヤの震えた肩にそっと置いた。
「そんな格好だと風を引く」
「すまん。あーもぉ寒いぞ」とカシダに肩を寄せた。
全く、こいつは心はか弱い女の子のままだ。
母を無くして泣きじゃくるあの時と変わっていない。
「雪か。また春が来る事を祈ろう。皆で」
「あぁ祈ろう」とライヤは空を見上げる。
「さぁ司祭からあの少女の正体を聞かないとな」
ライヤが深くうなずく。
私の勘が外れている事を願う……。
そんな春が来る事を願うライヤ達の思いは裏切られる形となる。
行軍を続ける黒の軍団。
鎧も武器もバラバラで、正規とは思えないほど。
しかし、恐怖心を煽るにはちょうど良いかもしれない。
ザッザッザッと重々しい足音を鳴らしてセィルシュアを目指していた。
時に、不気味な獣の声を発しながら……。