魔王の不在
一方魔王の首都にある、ダーク・ソード城では、魔王の将軍達が慌てふためいていた。
誰かを捜す素振りをしたり、狼に乗った偵察部隊が徘徊する。
「また、魔王様が消えた」
「これでは作戦が始めれん」
「早くセイルシュアを制圧し、黒の書を手に入れなければ、来る日に間に合わん」
「あぁ。何と恐ろしい白竜。奴を倒す方法はあの書しかない」
魔族にも議会が存在していた。
議会室にある一番大きな玉座が空いたまま軍議が開かれていた。
「俺がセイルシュアに行く」と椅子から立ち上がったのは頭は雄牛で身体は人間の形をしたミノタウロスであった。
「ノリテス、任せたぞ」
「ブッフフフ。ガッハッハッハ。皆殺しにしてやるわい」と巨大な両手斧を手にした。
ノリテスとは、魔王軍の将軍の一人。
日が落ちた時、ダーク・ソード城から、鐘の音が鳴り響くと黒い門がゆっくりと開く。
ノリテス将軍を戦闘に魔王軍が進撃を開始した。
ザッ。ザッと歩調を合わせて進む魔王の軍勢。
暗闇にうごめくはミノタウロス一族の軍団である。
そんな時にセイルシュアでは見知らぬ男の子がとある場所で倒れてた。
ロザリン関所の門の前で……。
ロザリン守備隊の兵士がそれに気が付いた。
「ん?人……」
たいまつを持った兵士がその男の子に駆け寄る。
「だ、大丈夫か?坊主」と上半身を起こした。
目を開けた男の子が小さく弱々しく口を動かす。
「…リベッタ村…リベッタ村に…帰りたい…」
「ん?こいつ、リベッタ村の住民かなんかか?」
その言葉に後から駆けつけた年老いた兵士が不思議な顔をする。
「リベッタ村?そんな村は…あったかのう」と頭をぽりぽりとかいた。
「魔王軍にでも襲われたんだろう。可哀想に。セイルシュアに連れて行こう」とその男の子を負ぶった。
「おい?他は」
「いや。こいつだけだ」
「そうか。家族は死んだか、はぐれたのだろうな。よし。荷馬車を持って来るわい」
ロザリン守備隊は優しい男達ばかりだった。
皆一人の男の子の為に毛布や移送する荷馬車を持って来たり、大慌てだった。
彼らも、自分の子供がいるからだろう。
フェレン聖騎士団総本部、団長室にて。
「なるほど。これ全てが聖騎士の志願か」
山積みになっている紙はフェレン聖騎士団の入隊願書である。
「ふむふむ。これだけあれば、第三聖騎士団も再編成出来そうだな」とライヤは少し笑みを浮かべた。
願書を手に取り、読み始める。
「ハリエン。職業は農夫。戦闘経験無し。武器の扱い……くわ……?」
ライヤは何も言わずに次の願書を手にする。
「ワトソン。職業は商人。戦闘経験無し。武器の扱い……フォーク…?フォークって何だ」
その問いかけに横からリンが言った。
「恐らく、肉を切って食べる時のあれですね」
「あぁ。なるとほど。……聖騎士を舐めるな!ボケェ!」と願書を丸めて地面に投げた。
丸められた願書をリンが拾いひろげた。
「お嬢様。なりふりかまっている事態ではありません」
「この願書の全て、その類ではないだろうな!?」とライヤは指を差した。
「私も把握出来ていません。何せ、ここには聖騎士が4人しかいませんから」
「はぁ…。残ったのは峡谷の国にいるしなぁ。呼び出す訳にもいかんし……もう時期、ここも放棄すべきだろうな」と団長室を寂しそうに見渡す。
セイルシュアも、闘わずして奪われるのだろうなぁ…。
一矢報いるというわけにはいかない。
帝都奪還が私の目的だ。
こんな…セイルシュアなんて魔王にくれてやる。
そんな時、誰かが、走る音が聞こえて団長室の扉が勢いよく開かれた。
「お嬢様!来てください」とセイルシュア兵士が言った。
「どうした?」
「妙な事を言う者が」
「妙な事とは何だ?」とライヤは立ち上る。
リンはライヤに剣を差し出す。
それを手に取った。
セイルシュア兵士は酷く息切れしている。
「それが、リベッタ村と存在しない村の事を言っていたそうです」
「何だって!?」とリンが一歩前に出て驚くのであった。