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英雄亡き世界  作者: 飯塚ヒロアキ
序章 失われた帝国
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女騎士 その2

 あれから3年も経った。


 王都が魔王軍によって陥落後、行き場を失った我々は散りじりになり、故郷を棄て海を渡って行った。


 そんな絶望の中、ここ西の果てある峡谷アルダスにあの時の三人がいた。


 幸いその地にはフェレン聖騎士団の支部があった。


 新たに、ここを総本部として、騎士を募りラインライトの王都奪還を目指すことを目標にしている。


 魔王の軍勢はあれから3年が経っていたが、ここへは一度も攻めては来なかった。


 この峡谷は古くから魔導士の大学院があり、並みの兵士より強力な力を持っている者が集まっている。


 それだけでは魔族は恐れたりはしないだろう。


 むしろ、喜んで魔導士の魔力を帯びた肉を喰う為に飛びかかってくるだろう。


 しかも、峡谷が防衛線と敷くのは高々に築かれた城壁や砦では存在せず穏やかな山脈と樹々が広がる。


 その代わり、峡谷全域に魔族が少し触れるだけでも一瞬にして、焼き尽くすほどの威力を持つ結界が魔導士らによって張り巡らせているのである。


 その為、攻撃はしてこない。


 滅びゆく世界の中、取り残されたかのように、今はただ静けさがけが続く。




―――――峡谷アルダスにどこにでもある年季の入った酒場にて。


 朝から晩まで賑やかな酒場に一人だけ深く落ち込む者がいた。


 その彼女の頭の中である言葉が浮かんだ。


 ”騎士達よ!今度は我らフェレン聖騎士団の場である。全軍、我が旗の元に続け。そして誓いを果たせ。”


「……あの演説、今でも耳から離れない」

「お前を頼りにしている、だって。あの英雄王様に言われたんだ。あの英雄王様だぞ? はぁ……愛しき我が英雄王様……なぜ、貴方様は死なれたのか……? 私は貴方様に忠誠を誓い一生尽くそうとしたのに――――」


 店主が悲しい表情をするその女性を哀れんだような目で見つめる。ただそっとしておこうと視線をそらした。


「――――王都が魔王軍に蹂躙じゅうりんされた。私が王都を離れたせいだ。そうに違いない……」


 今度は木のテーブルを叩いた。


「こんな最果ての峡谷で、うずくまっているなんて……。私はもう……顔向け出来ません。どうか私に罪の償いを……。この命を………」


 カウンターに座って酒に酔い嘆いている。


「おい。ライヤ変な事を考えるなよ?」


 そんなライヤにあの時の若い聖騎士が言った。


 反対側にはまだ幼い帝国兵が同じく座っていた。


 ライヤを両脇で挟む形となっている。


「姉さん。飲み過ぎだよ」


 心配する幼い顔の王国兵士はライヤの実の弟でアルミカと言う。年齢は16歳で、正義感が強いが、非力で自分の意思をあまり前では主張できない性格だ。


 アルミカは元々は聖なる騎士になりたかったのだがまだ幼いとされ、王国兵士として回された。危険な目に合わせたくないと秘密裏に騎士から外させたのはライヤだった。


 王国軍に入隊しても、危険のない雑務で、戦死の可能性を極限にまで減らしてきた。アルミカの上官はライヤの戦友(酒仲間)で顔見知りなので、危険な任務を避けるよう依頼していた。


 ライヤが新たに酒瓶を手に取ろうとした。それを若い聖騎士の若い男が取り上げる。


「ライヤ……。もう金が足りないぞ」


「うぅるさいぞぉー。カシダぁー」


 この若い聖騎士はカシダ・ローグ。ライヤの幼馴染でいかなる戦場でもずっと一緒にいた親友である。


「………にゅ~う。何でいつもお前は私を邪魔するんだ」


 口を尖らせる。


「ダメなものは、ダメだ」


 ライヤは視線を落とし深刻な顔をした。


「そうか……お前は、私をイジメたいのだな。………何て下劣な男だ。私が聖騎士になった時、お前は追うようにこの騎士団に入ってきたし。………嫌がらせにも程がある……」


 ライヤが家の跡取りとして聖なる騎士になった時、カシダはそれを追うように密かに聖騎士となる。ライヤはカシダを睨みつけた。ギラリと目が光る。


「ち、違う! お前の事が心配なだけだ……。俺はその………」


 そこにアルミカが笑いながら姉に耳元に口元を近づけて耳打ちする。


「実はね、カシダさんは姉さんの事が好きなんだよ」


 それに驚いたカシダは顔を赤らめ思わず、テーブルから立ち上がった。


「アルミカ! で、でたらめを言うなっ!」

「真に受けるって事は好きなんだね?」


 ニヤッとするとしてやったという顔をした。カシダは図星だったのか言葉を失い口をパクパクさせるとライヤに助けを求めた。


「お、おい! ライヤからも何か言ってくれよ………ってあれ?」


 しかし、ライヤは酒に酔い潰れて居心地良さそうに酒瓶を抱いて寝ていた。


「英雄王……万歳……! 王国の為に……魔物を駆逐するまで……我らは戦わん……ムニャ。ムニャ……」


 小さく拳を掲げると寝言を言う。


 二人は呆れてしまった。凛々しい姿で戦場を駆け抜け、戦列の前に自ら立っては、剣を振るう戦乙女の騎士と呼ばれた者がこんな性格だとは誰も予想出来ないだろう。


 聖なる騎士は純血で、高貴で、品のある者であれと、誓いを立てせられる。


(ライヤも確かに優秀な騎士と言えるんだがな……酒を飲ませると………これだ)


 当本人は気が付いていないのが不幸中の幸い。


 いつも、この二人がそれを見て困り果てる。


「はぁ……これが誇り高き聖騎士団を率いる団長か……まぁ仕方ないか。店主、酒代は置とくぞ」


「へい!毎度っ」


「さぁ姉さん。帰るよ」


 アルミカとカシダが担いで店を後にした。

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