団長の強さ
峡谷の国では戦争の準備を始めていた。
続々と集まる各国の軍隊。
峡谷の街には城に入りきれなかったエルフとドワーフの野営地が複数見る事ができた。
物騒な世の中になったものだ。
帝都が陥落した瞬間、平和という形が崩壊したのだから。
ライヤも戦いに備えて、フェレン聖騎士団と帝国軍残存部隊を演習場に呼びつけていた。
舞台の上にライヤとカシダの姿がある。
帝国軍残存部隊の隊列に並んだアルミカの姿も見えた。
マクシリンは大学院で研究中。
「諸君!我々は魔王の首都まで攻め込んだ。しかし、結果はこれだ。我々の不在中に帝都を奪われ、名誉も誇りも全てを失った。諸君らを責めるつもりはない。だが、今度逃げたら許さん。私が許さないという意味ではない。英雄王様に示しがつかないからである。それだけは肝に銘ずるように」
演習場に集まった兵士達は息を飲んだ。
彼らの指揮官はかなり、怒っている。
「貴様ら!返事は」
「はっ!」
兵士と騎士はおどおどしながら一斉に敬礼した。
全く情けない。
私は指揮官としてまとめられていない……。
カシダは呆れてしまった。
「ライヤ……びびらせてどうするんだ」
「何を言うカシダ。あいつらは逃げ出した腰抜けだぞ!」
うわっ。やっぱり怒ってる!
「まぁとりあえず、訓練を始めないか」
「そうだな。では今回、諸君らに新兵器である石弓を扱えるように訓練する」
「石弓?」と兵士と騎士が顔を見合わせてひそひそと話し出した。
ライヤが帝国軍将校に合図すると木箱を列をなして持って来た。
それを順番に開け、兵士に配給係りが石弓を配る。
「おぉこれが新型の石弓?」
「これは、また凄い」と驚きの声が上がる。
ライヤも石弓を手にしてた。
「この石弓は矢に細工があるらしいが……」
大丈夫かな。
実は私はまだ石弓自体を射った事がまだ無い…。
ましてや魔導師の武器となると不安になる。
てか、どうやるんだ?これ…。
悩んでいた時、カシダが助けた。
「ライヤ。先ずは弦を引くんだ」
「ん。これか?うぬぉぁああ。あれ……動かない……」
「バカだな。これはハンドル式だよ」
「お前?やり方わかるのか」
「あぁ昔使った事があるんだ。貸してくれ」とライヤの石弓を手に取り右側に付いていたハンドルを回した。
キリキリと音を出して弦が引かれた。
「これでよし。あとは矢を装填してと」
カシダは矢を装填し、近くにあった的に向け構える。
「なるほど!それで引き金とやらを引くんだな」
「その通り」と言うと引き金を引く。
勢いよく飛んだ矢が的の中央にあった。
「何だよ。普通の弓とー」
的が爆散!
ドーンと響く。
ライヤとカシダは目が点になった。
ぬあああ!声には出さなかったが心の中でライヤは叫んだ。
演習場に設置された的の一つが消失……。
カシダは矢の先を見つめる。
「な、なぁライヤ?もしかして、この矢じりはダイセン石とか……かな……」
カシダがそう言った為、ライヤも矢じりを見つめた。
その矢じりは少しだけ赤く光っている。
間違えない。
これはダイセン石だな……。
一本の矢であれだからなぁ……演習場が……。
「こ、これは野戦演習で使う事にする。今回は通常の矢に。カシダは帝国兵士に石弓を訓練してくれ」
ライヤは身軽に舞台から飛び降りた。
「ライヤは?」
前髪をかきあげてカシダを見上げる。
「私は石弓など使わない。聖騎士と剣の稽古だ」と微笑む。
可愛い…。
戦場の女神とはライヤの事を言うのだろうか。
「わかった。怪我はするなよ」
「はぁ?私を誰だと思っている」
「すまん。忘れてたよ。ライヤ聖騎士団長殿」
久々に言われたな……。
聖騎士団長か。
英雄王様がフェレン聖騎士団団長に私を任命して下さった。
その期待に応えなければならない。
例え、この身の一部が無くなろうとも、戦場に散ろうとも……。
私は戦い抜く。