??「老女の手紙」
実験作です、とりあえず。
教暦 1746年9月28日
ユリアナ・フォン・エーデルシュタイン様
先日のお手紙と沢山のお見舞いの品々、本当にありがとうございます。
頂いた物の中にあったフィーリアス地方の甜瓜はこれまでの人生で見た事が無い程に大きく、とても良い味でした。
(でも、さすがに一人では食べ切れなくて同室やお医者様にもお分けしてしまいましたが)
緊急の入院、手術という事で大変なご心配をお掛けしてしまったようですが、術後の経過は順調であり、健やかな日々を過ごせておりますのでご安心下さい。
お医者様の言葉を信じるならば、これから二ヶ月の間に何事も無ければ家に帰れるとの事です。
さて、ここからは貴女にだからこそ言える事ですが、倒れてから目覚めるまでに懐かしい、本当に懐かしい夢を見ておりました。
血と汗と硝煙の香りを香水として身に纏わせ、銃や弾丸を装身具にして着飾り、『あの方』の背中を追い続けていた頃の夢です。
手も足も自由に動き、腰も曲がっていなかった頃の私が駆け抜けた、無数の栄光と悲劇が入り混じったあの時代。
そしてその夢の最後には、かつてのあの時のようにまた私だけが取り残されてしまったのです。
今、思うと恥ずかしく申し訳無いですが、目が覚めた時には私を救おうと懸命に頑張って下さったお医者様や倒れた私を運んだのであろう人達に対して恨みを覚えてしまった程に現実味がある夢でした。
このまま、目覚める事が無ければ夢の中で私もあの最後の時に置いていかれる事はなく連れていって貰えたのではないかと思ってしまう程だったのです。
無論、あの方が私を置いていった理由を考えると、そんような事を思う事自体が許されないのは分かっております。
でも、だからこそなんでしょうか、このような気持ちに至ったのは。
あの方の真実を全て胸に秘めたまま会う事に私は戸惑いを覚えならないのです。
ですから、今こそ貴女が私と友誼を結ぶきっかけであった、あの時の質問に答えようと思います。
古き価値観に新しき技術に魔術、そして思想が混ざり合った混沌と激動に満ちたあの時代。
神話の時代にあったとされる大洪水の如く、我々人類の古き慣習と常識という物を夥しい程の血と鉄と硝煙の臭いでもって洗い流していったあの時代に産声を上げた私達の祖国、ヴァイゼンラント帝国。
――それを自らの血と肉でもって支えた、帝国の白蛇たる『あの方』の本当の真実の姿を。
世間一般でいわれるあの方の姿がどれ程の無知と無恥で出来ているか、どうか最後まで真実の探求者たろうとしていた貴女だけは知っておいて下さい。
それをどう使うかは平和に満ちた新しきこの時代を生きる貴女にお任せします。
『あの方』の本当の始まりは今のような季節でした。
この病室から見える雲一つ無い、何処までも続くような群青の空と繋がっている黄金色に輝く草原「ランマリオ」。
私がまだ、血と硝煙の臭いを知らない小便臭い(下品な表現ですいません、あの方がよく私に向かって使っていた言葉なのです)小娘であった時に見上げた同じ空の下、あの方はその全てを背負い金色に輝く草原を紅色へと染め上げて、歩き始めていました。
プロローグを終了。
次にようやく戦争シーンを入れます。