臆病アモーレ(11/8編集)
本番はありませんが、性的行為を匂わせる表現が出てきますので注意。
大智は夜空と交わる時、酷く臆病になる。
もう幾度となく肌を合わせているというのに、触れてくる手付きは本当にたどたどしく、ぎこちない。まるで壊れ物を扱うかのように恐る恐る夜空の反応を伺うように触れてくるのだ。
最愛の男は、自分に触れるのを畏れているようにすら思えた。いやいや、畏れているというよりも、夜空という存在を持て余しているのだろうか。
別に被虐趣味はないので荒々しく蹂躙されるのを望んでいるというわけではないけれど、どうしてここまで臆病になるのかが理解しがたい。
例え多少手荒く扱われたとしても、夜空はそんな簡単には壊れやしないのに。繊細な砂糖菓子や硝子細工ではないのだ。柳の木のように大智の激情を受け流す事だって出来るというのに、この男はそれを一向に理解しない。
障子越しに差し込んでくる月明かりに、薄っすらと照らされる大智の表情は硬い。
夜空にじっと据えられた瞳には、何か色色な感情がごちゃ混ぜになって、上手く消化できないようなそんな色を湛えていた。
不器用な男だと夜空は心の中で嘆息し、そっと身を起こすと冷えた掌で大智の頬に触れた。びくりと彼は身を竦ませる。
顔を覗き込み、夜空は彼の紺青色の瞳から決して視線を外さずゆっくりと言葉を紡ぐ。
「大智くん、何でもおとろしがる事ないんよ」
「…………」
「うちはそんなに簡単にもじけへんさけ」
言い聞かせるように宥めるように、そして懇願するように告げた言葉の意味を、大智はとりあえず理解したのだろうか。
何も言わずに背に回された、長い腕と縋りつくように肩に乗せられた額の重みが、この男の精一杯なのだ――。
夜空は障子越しにぼんやりと浮かぶ月を見上げ、そっと笑った。