父は私の才気を盗んで狐仙に食わせ、ただ賭博台の上の一財産と引き換えにした
教えてくれた先生たちは、みんな口をそろえて言った。
私は文曲星の生まれ変わりだと。
今年の大学入試では必ず合格し、一族に栄光をもたらし、家の系譜に名を刻むことになるだろうと。
ところが父は、先祖の墓から煙が立つほどの幸運を、あっさりと拒んだ。
山の中から狐仙を連れ帰り、私の才能をその狐仙に捧げて養い、私が歩むはずだった栄光への道を、自らの手で断ち切ったのだ。
1
劉先生は私の高校の担任だった。大学入試を目前に控えたある日、先生は一度私を実家へ連れて帰った。しかし、私を学校へ連れ戻すことはなかった。
先生は私の成績表を父に渡した。父がきっと喜んでくれると思っていたのだ。
私が大学に進学できれば、家の暮らしは一変する。貧しい境遇から抜け出し、社会的な階層を越えることだってできる。特に一九九〇年代、大学生という肩書には大きな価値があった。
劉先生は期待に胸を膨らませ、私が学校で獲得した数々の栄誉を、ひとつひとつ誇らしげに父へ説明した。
自分の喜びを、父にもわかってほしかったのだろう。
だが父は成績表を眺めると、私を一瞥し、心底ばかにしたような顔をした。
「せっかく帰ってきたんだ。このまま残って結婚しろ。いい相手を見つけておいた」
私は劉先生の背中に隠れ、ひと言も口にできなかった。
先生は信じられないという顔をした。清華大学や北京大学にも合格できるほどの生徒を、父親が田畑で働く男に嫁がせようとしているのだ。
先生は成績表を父の目の前に置き、どうにか考え直させようとした。
しかし、父は先生の期待を無残に踏みにじった。
成績表をつかむと、台所へ持っていき、かまどの火をつけるために燃やしてしまったのだ。
「娘を学校に行かせたのは、結婚のときに少しでも多く結納金を取るためだ。女のくせに、勉強なんかさせてもらえるだけありがたいと思え」
父の愚かな考えに、劉先生はひどく傷ついた。それでも何とか説得を続けようとしたが、最後には父に追い出されてしまった。
私が先生を村の出口まで見送ると、先生は私の手をつかみ、一緒に逃げようとした。
こんな愚かな風習に縛られた土地から、私を連れ出そうとしてくれたのだ。
けれど私は先生の手を振りほどき、何も言わずに背を向け、家へ戻った。
劉先生はその場に立ち尽くした。
高い教育を受けた私が、どうしてこんな古い因習に従うことを受け入れているのか、理解できなかったのだろう。
父が私を見送りに出すことを許したのは、私が逃げ出す勇気などないと確信していたからだ。父が家にいる限り、私はその決定に逆らえない。
劉先生は知らなかった。
私は一度、死んだことがあるのだ。
六歳のとき、父に口答えしただけで、私は息も絶え絶えになるまで殴られた。どうにか命をつなぎとめたものの、あのときの私は、死ぬ一歩手前だった。
それでも、苦しみながら生きるほうが、死んでしまうよりはましだった。
劉先生はひどく失望していた。
村を出て学校へ戻っていく先生の背中は、行きに比べて頼りなく、足取りも重かった。
村の入口にある大きなガジュマルの木を通りかかったとき、葉の間を赤い影がすっと横切った。
山の中には、妖怪や精怪がいても不思議ではない。
私は、父が誰に私を嫁がせようとしているのか知っていた。
村長の息子だ。
彼は蘇家村で最も優秀な青年で、かつては村の娘たちの誰もが、彼の嫁になりたいと願っていた。
ところが今、村長は息子のために、破格の結納金を払ってくれる花嫁を探している。
息子が愚か者になってしまったため、進んで嫁ごうとする娘が一人もいなくなったからだ。
父は平気だった。
娘を一人差し出して手に入る金があれば、しばらくは賭博に興じられる。それだけで十分だったのだ。
蘇家村は、深い山林に囲まれた場所にある。周囲には獰猛な野獣が数多く潜んでいた。
それなのに、蘇家村が野獣に襲われることはなかった。
村長の家の祠に、龍へと化す寸前の蛟蛇が祀られていたからだ。
それは村長一家を守る守護仙だった。長い年月をかけて力を蓄えた蛟蛇のおかげで、村長は蘇家村を思うままに支配していた。
村人なら誰もが知っていることだった。
それでも、誰一人として逆らおうとはしなかった。利益を得ている者たちは、血が流れているのを見ても、知らぬふりをするものだ。
父も村長のように、自分を守ってくれる仙を手に入れ、富と栄華を享受したいと願っていた。
私も、父が守護仙を手に入れればいいと思っていた。
そうすれば、私は蘇家から逃れ、自分自身の人生を生きられるかもしれないからだ。
村長の家の前を通りかかったとき、私は門の内側をちらりと見た。
村長の息子は、大きな体を縮めて塀のそばにしゃがみ込み、蟻の巣に水を注いでいた。少し水を流し込むたびに手を止め、ひとりでにやにやと笑っている。
整った顔立ちは昔のままだった。
けれど、そこには以前の面影はなく、愚かさばかりが浮かんでいた。
かつて彼は、砂地に一画ずつ丁寧に文字を書きながら、私に読み書きを教えてくれた人だった。
私が学校へ通えるようになったのも、彼のおかげだった。
もし私が勉強を知らなかったなら、恩を返すために彼と結婚し、世話をしながら一生を過ごすことにも納得できたかもしれない。
けれど、私は学んでしまった。
だからこそ、諦められなかった。
恨みに対して徳で報いるのなら、善意に対しては何で報いればいいのだろう。
村長の息子は心の優しい人だった。それなのに、彼はこんな目に遭わなければならなかった。
蘇家村の人々は、誰もが知っていた。
村長は自分の息子の知恵と引き換えに、守護仙と富を得たのだ。
それでも、誰も彼をかわいそうだとは思わなかった。
自分を助けてくれた青年に同情するどころか、村人たちの胸に湧き上がったのは羨望だった。
何の苦労もせずに富を手に入れられる。
そんな誘惑が、人の心の奥底に潜む醜さを引き出したのだ。
どの家も、自分たちに富をもたらしてくれる守護仙を欲しがっていた。
そして、父は誰よりも強く、それを望んでいた。
2
父は毎日のように肉を持って山へ入り、修行を積んだ動物をおびき寄せて、家まで連れ帰ろうとしていた。
そして、ある日。
ついに父の願いがかなった。
父が深い山林から持ち帰ったのは、木でできた小さな彫像だった。
火のように赤い狐の姿をしていた。
父がそれを地面に置くと、彫像の体はゆっくりと大きくなり、目玉が動き始めた。
狐は、本当に生きているかのように動き出したのだ。
父が自分のために見つけてきた守護仙だった。
私は驚いた。
守護仙というものが、どうしてこんなに小さいのだろう。
そう思った瞬間、狐は歯をむき出しにして、私を威嚇した。
私に対して、明らかな敵意を抱いていた。
父は供物台をきれいに拭き、狐をその上に座らせた。その下には、私が用意したばかりの供物が所狭しと並べられていた。
父は香炉に一本の線香を立てた。
立ち上る煙を、狐仙は鼻から吸い込んだ。
父はその場にひざまずき、何度も頭を下げ、狐仙に富と繁栄を授けてくれるよう祈った。
狐は線香を一瞥すると、少し不満そうな顔をした。
それから、ふわふわした口元を動かし、たった一言だけ告げた。
「許す」
父は喜びのあまり、我を忘れた。
家を守る仙は、正統な神仙ではない。そのため、三本の線香を受ける資格がなかった。
守護仙たちは皆、この決まりを憎んでいたが、それでも従うしかなかった。
天道には規則がある。
彼らも、その規則を破ることはできなかったのだ。
その日から、父の金運は急激に上向いた。
賭け事をすれば十回賭けて十回勝ち、道を歩いているだけで、なぜか金が落ちているのを見つけることさえあった。
父は拾った金を金の首飾りに加工させ、首にぶら下げて、村の中を得意げに歩き回った。
我が家は少しずつ裕福になっていった。
けれど、私の境遇はほとんど変わらなかった。
父は、村長から提示された結納金を諦めようとはしなかった。
父にとって、私という娘はいてもいなくても変わらない存在だった。売り払って結納金を手に入れられるのなら、それだけで十分に価値があったのだ。
それどころか、家での私の扱いは、以前よりひどくなった。
それまでは父にこき使われるだけだったのに、今度は狐仙の世話まで加わった。
あの日、狐が私に向けた敵意は、気のせいではなかった。
本当に私を嫌っていたのだ。
私も狐が嫌いだった。
あんなに弱そうな生き物なら、どうしてほかの動物に食べられてしまわなかったのだろう。
家に来てから、狐仙はできる限り私に面倒を押しつけた。
飲み水は三度蒸して九度天日干ししたものを用意しろと言う。
鶏肉はできたてでなければならず、狐が一切れ食べるたびに、私は熱い肉を用意し直さなければならなかった。
ひまわりの種を食べるときは、殻をすべて剥き、きれいに並べておくよう命じられた。
私は苦しめられ、身も心も疲れ果てた。
それでも父は、見て見ぬふりをした。
むしろ、守護仙が私を嫌っていることを喜んでいた。
「守護仙は家全体に平安と富をもたらしてくれる。だが、実際に誰を守るかは、仙家自身の意思次第だ」
狐仙が私をからかい、苦しめている。
つまり、この家で守護仙に守られるのは父だけなのだ。
父はそう考えて、ようやく安心したらしかった。
狐仙は山に生える桑の実が好きだった。しかも、朝露がついていなければならない。
そのため、私は毎朝、空が明るくなる前から山へ入り、桑の実を摘まなければならなかった。
山の狼の遠吠えが恐ろしくても、父は容赦なく私を家から追い出した。
山の朝は冷たく、私は何度も体調を崩した。顔色は黄色くくすみ、体も弱っていった。
それなのに狐仙は、私が摘んできた桑の実を食べ終えると、枝を私の頭に投げつけた。
枝が髪に引っかかると、狐はそれを見て、きゃっきゃっと笑った。
なんて性格の悪い仙なのだろう。
神仙というものは、すべての命を憐れみ、慈悲深い存在ではないのだろうか。
どうして守護仙は、こんなにも違うのだろう。
狐仙は私をいじめる一方で、自分のことは何ひとつ我慢しなかった。
私はできる限り丁寧に世話をしていたのに、狐仙は私が殴られるのを喜んでいた。
私はまだ、学校へ戻りたかった。
狐仙に父を説得してもらえないかと頼んだ。父はもう守護仙を手に入れたのだから、私などいなくても困らないはずだと思ったのだ。
ところが狐仙は、私の願いをそのまま父に伝えた。
その結果、私は父にひどく殴られた。
身の程知らずの夢を見るなと、嘲笑われた。
山で折った、とげだらけの荊の枝で、一時間もの間、背中を打たれ続けた。
背中は血だらけになった。
それなのに狐仙は、鋭い爪で私の傷口を何度も突いた。
手のひらを返すような態度は、父とそっくりだった。
なるほど。
父の守護仙になったのも、納得できるというものだ。
3
やがて村人たちも、父が裕福になったことに気づき始めた。
毎日のように、さまざまな人が我が家の前を行き来するようになった。表向きは何気ない様子を装いながら、父が守護仙を迎え入れたのかどうか、探りを入れていたのだ。
私は何も答えられなかった。
もし、家に守護仙がいることを私が外に漏らしたと知られたら、父はきっと私を殺すだろう。
村長はわざわざ尋ねてくる必要もなかった。村で起きることなら、彼の家の守護仙が知らないはずはなかったからだ。
私は一度、村長の家にいる守護仙を見たことがある。
それは供物台の上にとぐろを巻いていた。まるで高層の建物のように巨大で、こちらへ首を伸ばしただけで、人間を丸ごと飲み込んでしまいそうな恐ろしさがあった。
私の家の守護仙が、あれに敵うはずはない。
父は金を手に入れてから、賭場に入り浸るようになった。
賭博と欲望が、父の心をすっかり蝕んでいたのだ。
ほかの人間の金をすべて巻き上げても満足せず、今度は相手に金を貸し、さらに賭けさせた。だが、最後には自分が大負けしてしまった。
賭場で金を借りるということは、運まで借りるようなものだ。
父はそのことを忘れ、賭けに狂っていた。
それから数日も経たないうちに、父は蓄えていた金をすべて失った。
そして再び狐仙の前にひざまずき、富を授けてくれるよう懇願した。
しかし今度は、狐仙はすぐには答えなかった。
桑の実を食べ終えたばかりの手で、父を指さした。
「お前の運気は、すでに使い果たされている」
「人間が生涯で得られる財運には限りがある。私はお前の後半生に訪れるはずだった富を、前半生へ移してやった。だが、お前はそれを大切にしなかった」
「今のお前の財運は空っぽだ。もう一度富を求めるなら、代わりに別のものを差し出さなければならない」
父は、自分自身を犠牲にすることだけは嫌がった。
人を愛せないわけではない。
父が愛しているのは、自分自身だけなのだ。
父は何度も額を地面に打ちつけ、狐仙に慈悲を乞うた。どうにか別の方法を考えてほしいと訴えた。
村長の息子のような愚か者にはなりたくなかったのだろう。
そのとき、父の視線が私に向いた。
父は私を門のそばから引きずり出し、供物台の前に立たせた。
村長が自分の息子を差し出したのなら、父だって私を使える。
「大仙、この娘の分で、私の財運を補えませんか? こいつは勉強が得意なんです。県の先生たちにも褒められているんですよ」
狐仙は供物台から飛び降りた。
二本足で立ち上がると、その体は私と同じくらいの高さまで大きくなった。
黒い瞳が、じっと私の目を見つめる。
まるで、私の魂の奥底まで見透かそうとしているかのようだった。
「文曲星の生まれ変わりか。因果のつながりがない以上、こちらから軽々しくその才気に手を出すわけにはいかない。お前自身の手で、そうなるように仕向けるのだ」
「できますとも、大仙。もう一度、富を授けてくださるのなら何だってします。文曲星が何だというのです。財神様というわけでもないでしょう」
父の言葉を聞いた私は、恐怖に震えた。
もし才能まで失ってしまったら、もう二度と、この山奥から抜け出せない。
私は必死にもがいた。
けれど、父の手は鋼鉄の鎖のように私を締めつけ、どうしても振りほどけなかった。
「お父さん、お願いだから行かせて! 私はいい大学に合格できるの。将来はきちんと親孝行するから!」
「稼いだお金は全部お父さんに渡す。金の山に寝転がって暮らせるようにしてあげるから!」
父は鼻で笑った。
「女のくせに、いくら勉強ができたところで、いずれ他人の家の人間になるだけだ。俺が金持ちになったら、お前の母親とも離婚して、息子を産んでくれる女と再婚する」
涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにしながら、私は父の腕をつかみ、必死にすがりついた。
それでも父は、私の声など聞こえていないかのようだった。
私を供物台の前まで引きずっていき、台の上に置かれていた刀を手に取った。
そして、私に向かって振り下ろした。
――――――――――
私の小指が切り落とされ、水をたたえた碗の中に落ちた。
激痛に襲われ、私は地面に倒れ込んだ。額からは冷や汗が絶え間なく流れ落ちた。
碗の中で血がゆっくりと広がっていく。
やがて血は赤い煙へと変わり、供物台の上にいた狐仙の鼻へ吸い込まれていった。
碗の中から血の色がすべて消えると、狐仙の目つきが妖しく変わった。
先ほどまでの澄んだ眼差しは、もうどこにもなかった。
狐仙は父に向かって、再び短く告げた。
「許す」
その言葉を聞いた父は、喜びに満ちた顔で家を飛び出していった。
私の小指から、まだ血が流れ続けていることなど、まるで気にも留めなかった。
その日の夜、父は帰ってこなかった。
翌日になって戻ってきたときには、百元札の束を山ほど抱えていた。
4
あの日から、私の頭はぼんやりするようになった。
以前なら一目見ただけで答えがわかった問題も、今では天文学の記号のようにしか見えない。
こんな姿を同級生に知られたら、きっと笑われるだろう。
私はかまどの前で、答案用紙に涙を落とした。
紙は握りしめたせいで、くしゃくしゃになっていた。
私に残されていた希望は、すべて消えてしまった。
私がなかなか食事を運ばないのを見て、父は台所までやってくると、私を蹴りつけた。
私は何も言わず、熱したばかりの鶏肉を皿に盛って運んだ。
父は口の周りを油だらけにしながら、うまそうに肉を食べていた。
父が持ち帰る金は、日に日に増えていった。
それでも、村長の家には及ばなかった。
今や私も、村長の息子と同じになってしまった。
私は自分の運命を受け入れた。
村長の家へ行き、息子と一緒に塀の隅にしゃがみ込んだ。
私たちは、どちらも何かを奪われた人間になったのだ。
村長は私の姿を見ると、自分もしゃがみ込んだ。
「蘇落、お前の家にも守護仙がいるんだろう?」
知っているくせに、わざわざ聞いてくる。
けれど、今の私は父に殴り殺されることなど、もう怖くなかった。
「います」
私ははっきりと答えた。
いっそ死んでしまったほうが、楽なのかもしれない。
「それで、うちの守護仙と比べてどうだ?」
なるほど。村長が本当に聞きたかったのは、こちらだったのだ。
村長の家の守護仙が部屋から飛び出してきた。
巨大な黒い影が、私たち三人を覆い尽くす。
蛇の舌が何度も出入りし、その姿は見るだけで恐ろしかった。
「あなたの家の守護仙より、ずっと小さいです」
私は震えながら、どうにか答えた。
山の精怪は、体の大きさで強さが決まる。
大きければ大きいほど、力も強い。
村長の家の守護仙が、私の家の狐仙よりはるかに強いことは明らかだった。
村長は満足そうに笑った。
なぜ笑ったのか、私にはわかっていた。
村長は以前から、自分の守護仙に命じ、村のほかの家にいる守護仙を次々と食べさせていたのだ。
そうでもなければ、わずか数年で、ただの蛇が蛟へと化すはずがない。
蘇家村の周囲には、精怪が数多く潜んでいる。
村長の家だけが守護仙を飼っていたわけではない。
ほかの家にいた守護仙は、すべて村長の守護仙に食べられてしまったのだ。
そのことを知った山の精怪たちは、恐れて山から出てこなくなった。
私の家の狐仙は、十数年ぶりに現れた守護仙だった。
村長の家の蛟蛇は、龍へと化すことを焦っていた。
もし自分が勝てる相手なら、向こうから差し出される肉を食べない理由はない。
翌日、私は父が数人のおじたちと一緒に賭け事をしているのを見た。
彼らは昨日、村長の家にいた人たちだった。
今日は我が家に来ている。
何かを企んでいるに違いなかった。
私は父に知らせなかった。
最初のうち、父は大きく勝っていた。
だが、少しずつ負けが込み、最後には勝った分まで失ってしまった。
父は焦り、狐仙にもっと金運を与えるよう迫った。
守護仙が守る人間と、守護仙自身の運気はつながっている。
守護仙の力を繰り返し使い続ければ、守護仙もまた弱っていくのだ。
狐仙が一日中、供物台の上で眠るようになったのを見て、私は再び村長の家へ向かった。
そして、村長の息子に狐仙の様子を教えた。
村長が自分の愚かな息子を使い、私から情報を聞き出そうとしていることはわかっていた。
なんと皮肉なことだろう。
悪事を働くためなら、誰だって利用するのだ。
翌日から、あのおじたちは我が家に来なくなった。
その夜、私は目を開けたまま、一晩中家で待った。
しかし、村長の家の守護仙が我が家にやってくることはなかった。
意外だった。
村長たちは、せっかく手に入れられるはずの獲物を、諦めるつもりなのだろうか。
5
ここ数日、あのおじたちは父と賭け事をしに来なくなった。
我慢できなくなった父は、村の賭場へ出かけるようになった。
家には私と狐仙しかいなかった。
狐仙の世話をしていると、外から村長が私を呼ぶ声が聞こえてきた。
「お前が息子に嫁ぎたくないことは知っている。俺の頼みを聞いて、あの狐仙に薬を飲ませてくれれば、結婚の話は取り消してやる。それに、学校へ戻れるよう金も出してやろう」
「狐仙はお前の家に富をもたらしてくれるかもしれない。だが、その富がお前のものになるわけではない」
村長は門のところに立ち、私に薬の包みと札束を渡した。
狐仙の水に薬を混ぜろというのだ。
私は手の中の金を見た。
千元以上はある。
高校を卒業し、大学へ進学するまでの費用としては十分だった。
私は心の中で笑った。
なるほど。
諦めたわけではなかったのだ。
勝てる可能性を、もっと確実なものにしようとしているだけだった。
私は金を受け取り、村長の頼みを引き受けた。
父が憎かった。
狐仙も憎かった。
父は私にひどい仕打ちをしてきた。
けれど、狐仙さえいなければ、私は今も大学へ進めるほどの才能を持っていたはずだ。
あいつがきっかけとなり、私の人生は壊された。
憎い。
だから、私もあいつを壊してやる。
薬を杯の水に混ぜるとき、私は恐ろしくてたまらなかった。
狐仙は供物台の上で眠っていた。
気づかれたらどうしよう。
そう思いながら薬を入れた瞬間、狐仙が目を覚ました。
水を持ってくるように命じられ、私は震える手で杯を差し出した。
薬は、もう溶けただろうか。
狐仙は水を飲み干すと、満足そうに笑った。
私は心の中で悪態をついた。
まったく、どうかしている。
薬を飲んだだけで、どうしてそんなにうれしそうなのだろう。
その夜、私は部屋の扉にしっかりと鍵をかけた。
さらに窓に小さな穴を開け、家の前をじっと見つめた。
狐仙がどうなるのか、自分の目で確かめたかったのだ。
やがて、一匹の巨大な蛟蛇が塀を越え、庭へと入り込んできた。
鱗が地面をこする音に、父も目を覚ました。
父が部屋の扉を開けた瞬間、目の前に巨大な蛇がとぐろを巻いているのが見えた。
父が声を上げる間もなかった。
蛇は大きく口を開き、父を丸ごと飲み込んでしまった。
父の体には、まだ使い切られていない財運が残っていた。
それもまた、蛟蛇にとっては格好の滋養となったのだろう。
宿主の死による反動を受けたのか、狐仙が家の中から出てきた。
庭の光景を見るなり、狐仙は家ほどもある巨大な赤狐へと姿を変えた。
その姿を見た村長の守護仙は、思わず後ずさった。
「蘇落の話では、霊力が弱いはずではなかったのか?」
だが、狐仙は逃げる隙を与えなかった。
すぐさま飛びかかり、二匹の獣は激しく争い始めた。
薬の影響もあったのだろう。狐仙は不利な戦いを強いられていた。
蛇の牙が体に食い込み、あちこちに傷が走った。傷口からは黒い煙が立ち上っていた。
もう負けるのではないかと思った、そのとき。
狐仙は蛟蛇の急所である七寸の部分に、がぶりとかみついた。
鋭い爪が蛇の肉に深く食い込む。
そして力任せに引き裂いた。
七寸の部分から尾に至るまで、蛇の皮と肉が一気に剥がされた。
村長の守護仙は、完全に息絶えた。
私は部屋の中から、狐仙がその巨体を丸ごと飲み込んでいくのを見届けた。
食べ終えた狐仙が、こちらを振り返った。
目が合った。
その目には、まだ殺意が残っていた。
爪から血を滴らせながら、狐仙は一歩ずつ私の部屋へ近づいてきた。
自分の正体を村長に知らせたのが私だと、気づいているのだ。
薬を飲ませたのも、私だとわかっている。
狐仙は、私を殺すつもりだった。
だが、山の精怪が天道の規則に背けば、天罰を受ける。
狐仙は本来なら守護仙になるはずのない存在だった。それなのに私の家の守護仙となり、さらに修行を積んだ精怪まで食べてしまった。
天道が、そんな存在を許すはずはない。
空から雷が落ち、狐仙の体を打ち据えた。
雷に打たれるたびに、狐仙の体は少しずつ小さくなっていった。
それでも狐仙は、どこかへ逃げ込もうとはしなかった。
私の部屋へ、一歩ずつ近づいてきた。
私は寝台から降り、扉を開けた。
もう怖くはなかった。
死ぬのなら、それでもいい。
6
狐仙が私にかみついて殺そうとした、その瞬間だった。
狐仙は私に向かって、二つの白い霧を吐き出した。
一つは私の体へと入り込み、もう一つは門の外へ飛んでいった。
その直後、狐仙は私の部屋の前に倒れ込んだ。
私の頭は、少しずつはっきりしてきた。
これまで学んできた知識が、次々と脳裏によみがえってくる。
一方、狐仙の体はどんどん小さくなり、最後には我が家へやってきたときと同じ、木彫りの姿に戻ってしまった。
空にはまだ雷が渦巻いていた。
次の一撃を受ければ、狐仙は跡形もなく消えてしまうだろう。
私は、狐仙の前に立ちはだかった。
天雷は私の存在に気づいたのか、少しためらうように空中で火花を散らした。
やがて、納得がいかない様子で、私のそばの地面へと落ちた。
私は父の部屋に目を向けた。
そこには、庭で起きたことをじっと見つめる目があった。
けれど、最初から最後まで、一度も外へ出てこなかった。
母だとわかっていた。
私は何も言わず、木彫りの狐を拾い、上着のポケットにしまった。
翌朝、私は身分証を持ち、乾燥させた桑の実を袋に詰めて、蘇家村をあとにした。
村の入口に立つ大きなガジュマルは、相変わらず青々と茂っていた。
劉先生が私を連れて村へ帰ってきた、あの日と同じように。
ただ、木々の間を走り抜ける赤い影は、もうどこにもなかった。
私は、劉先生と一緒に蘇家村へ戻ってきた日のことを思い出した。
先生はとても楽しそうだった。
息を切らすほど疲れていたのに、口元の笑みは一度も消えなかった。
「蘇落、私は二十年以上も教師をしてきたが、お前ほど成績のいい生徒に出会ったことはない。大都市の一流高校にいたとしても、間違いなく上位に入れると保証するよ」
私は県内の高校で三年間、高校三年生として学んできた。
その三年間、ほぼ満点に近い成績を維持し、ずっと学年一位の座にいた。
二位だったのは、私の隣の席に座っていた同級生だ。
彼からすれば、私は化け物のような存在だったらしい。頭の構造が普通の人間とは違う、とまで言われていた。
私に勝つことを諦めた彼は、今度は三位の生徒と激しく競い合うようになった。
本人いわく、私と争って恥をかくのは嫌なのだそうだ。
私は県内の高校で三年間を過ごしたが、今年になって初めて家へ戻った。
大学入試の申し込みに身分証が必要でなければ、帰るつもりはなかった。
大学に入れば、自分の力で生活していける。
劉先生は希望に満ちあふれ、足取りも軽かった。
私が北京大学に合格し、校門の前で花火や爆竹が鳴り響く光景を、すでに思い描いていたのだろう。
先生は蘇家村に入るまで、今回の期待が必ず裏切られることになるとは知らなかった。
村の周囲に広がる景色を眺めながら、楽しそうに褒めていた。
樹齢千年を超えるガジュマルの木を通りかかったとき、何匹かのリスが幹を駆け上がっていった。
劉先生は感心したように言った。
「さすが、土地が人を育てる場所だな。だからこそ、お前のような子が生まれたんだろう」
私は先生の後ろで、皮肉な笑みを浮かべた。
蘇家村の土地は確かに素晴らしい。
だが、そこに住む人々まで善良とは限らない。
ほかの場所では、貧しい土地が人を荒ませると言われることもある。
けれど蘇家村は違った。
美しく恵まれた土地が、悪人たちをのさばらせていたのだ。
今、その悪人たちはいなくなった。
私は蘇家村を背にして、前へと歩き出した。
7
父は、自分の運がよかったから狐仙の加護を得られたと思っていた。
けれど、知らなかったのだ。
狐仙を父の前に連れていったのは、私だった。
父と狐仙が出会うよう仕向けたのも、狐仙を父の守護仙にしたのも、すべて私だった。
父はあの存在を狐仙と呼んでいた。
だが、私は本当の名前を知っていた。
胡璃。
初めて胡璃と出会ったのは、山で雷雨が降った直後だった。
私は父に命じられ、キノコを採りに山へ追い出されていた。
あのとき、私はまだ五歳にもなっていなかった。
胡璃もまた、生まれたばかりの天狐の子どもだった。
胡璃は両親の亡骸の上に横たわり、悲しげに鳴いていた。
その体は、手のひらにも満たないほど小さかった。
私は、このままでは死んでしまうと思い、胡璃を抱き上げて家へ連れ帰った。
そして、誰にも知られないよう、自分の部屋でこっそり育てた。
胡璃の両親は、子どもを守るために天雷を受け、命を落としていたのだ。
天狐の血筋は、あまりにも強大な力を持っていた。
その力ゆえに、天地から存在を許されなかった。
本来なら、胡璃も山の中で死ぬ運命だった。
けれど私が救ったことで、私は胡璃の因果に介入することになった。
あの頃の私も、食べるものに困る毎日を送っていた。
それでも、母親のように胡璃を世話した。
サツマイモをすりつぶして食べさせた。
もともと少ない食べ物を、二人で分け合った。
その結果、私たちはどちらも十分に食べられず、頬がこけ、顔色も悪くなっていった。
やがて胡璃が成長し、天狐の血筋が持つ力によって狩りができるようになると、胡璃は自分で獲物を捕まえるようになった。
それから、私たちの暮らしは少しずつ楽になった。
胡璃は山へ戻り、私たちは山の中に自分たちの居場所を作った。
枯れ草を丸めて寝床を作り、安心して横になれるようにした。
その小さな巣は、蘇家の家よりも、ずっと居心地がよかった。
毎日、村長の息子から読み書きを教わったあと、私は山へ走っていき、今度は胡璃に文字を教えた。
胡璃は妖怪だったけれど、知識を持つ妖怪でもあった。
六歳のとき、村長の息子は私に「愛」という字を教えてくれた。
親が子どもを愛するという意味だと説明してくれた。
そのとき私は、胡璃の両親が天雷から子どもを守るために命を落としたことを思い出した。
そして、先生の言葉は正しいのだと思った。
私の両親も、私を愛しているのだと。
父はよく私を殴った。
母は、その様子を黙って見ているだけだった。
けれど、殴るのは親愛のしるしで、叱るのは愛情の表れなのだと、私は自分に言い聞かせた。
両親も、私を愛してくれているのだと。
その考えが、私の命を奪った。
ある日、父が賭博から帰ってきた。
私は床に腹ばいになって、文字を書いていただけだった。
それなのに父は、私が目障りだったらしい。
いきなり私の体をつかみ、頭を敷居に何度も打ちつけた。
母はその光景を見ていた。
それでも、ひと言も口を開かなかった。
私は苦しみながら母を呼んだ。
けれど母は、私の声が聞こえないかのように、振り返りもせず台所へ戻っていった。
頭から血が流れるほど殴られても、母は二度とこちらを見なかった。
結局、私は自分の力で部屋まで這って戻るしかなかった。
その夜、私は部屋の中で息絶えた。
何日もそのまま放置されたが、両親は私が死んだことにすら気づかなかった。
私が何日も山へ文字を教えに来ないことを不思議に思った胡璃は、山を下りてきた。
そして、私が死んでいるのを見つけた。
胡璃は自分の尾を切り落とし、その力を使って私の命をつなぎとめてくれた。
あの日から、私はもう愛というものを信じなくなった。
8
私は一族の墓に立ち上る、幸運を告げる煙のような存在だった。
けれど父は、一度、私を殺した。
もう二度と、私の人生を支配させるつもりはなかった。
劉先生が私を連れて実家へ帰る前、私はすでに一度、蘇家村へ戻っていた。
木々の間を横切った赤い影は、胡璃だった。
胡璃はずっと、私が帰ってくるのを待っていたのだ。
村の入口に着いたときから、私たちの計画は始まっていた。
胡璃が私を嫌っているように振る舞っていたのは、すべて演技だった。
表向きは蘇家の守護仙。
けれど本当は、私の守護仙だったのだ。
私が胡璃を救ったときから、私たちの運命は結びついていた。
私が高校へ通っていた頃、胡璃はすでに天狐としての最高境地に達していた。
天狐は、あらゆる精怪の中でも最も強い存在だ。
私たちは、村長の守護仙が胡璃に勝てないことを知っていた。
たとえ薬を飲ませたとしても、結果は変わらなかっただろう。
それに、あの日、私が水に入れたものは薬ではなかった。
砕いた氷砂糖だった。
村長の息子が私にくれたもので、甘いものが好きな胡璃は、それを飲んでうれしそうに笑ったのだ。
私は、村長の息子が一画ずつ丁寧に文字を教えてくれた姿を忘れられなかった。
あの貧しい幼少期に、彼だけが私に与えてくれた、ほんのわずかな善意だった。
悪人たちが善人の血肉を吸い、何不自由なく暮らしていく。
そんなことを、私はどうしても許せなかった。
だから、すべてを計画したのだ。
あの日、胡璃が吐き出した二つの白い霧。
一つは私の才能だった。
もう一つは、村長の息子の知恵だった。
それらを占めていたものがなくなったのだから、本来の持ち主のところへ戻るのは当然だった。
村長の息子は、再び蘇家村で誰もが認める優秀な青年に戻ることができる。
私は学校へ戻った。
村長から受け取った金は半分だけ持っていき、残りの半分は母のために置いてきた。
それだけあれば、高校を卒業するまでの学費は足りるはずだった。
村を出る直前、母が私を呼んだ。
たった一度だけ。
私は振り返らなかった。
母は私を愛していない。
私たちの縁は、私が六歳だったあの日に、とっくに切れていたのだ。
親子の縁は運次第だという。
私には、その運がなかった。
それでも、私には胡璃がいた。
ポケットに入れた木彫りの狐に触れた。
いつか、必ず目を覚ましてくれるはずだ。
学校へ戻ると、劉先生はとても喜んでくれた。
私が父を説得できたのだと思ったのだろう。
私は微笑んだだけで、何も言わなかった。
同級生はすぐにノートを貸してくれた。
成績では私に勝てなかったけれど、彼はさっぱりした性格の、信頼できる人だった。
ただ、ひとつだけ困った癖があった。
机の上に置いた小さな赤狐の木彫りを、やたらと触りたがるのだ。
胡璃は動けないはずなのに、私はそのたびに恨めしそうな気配を感じた。
どうやら、触られるのが嫌いらしい。
一か月後、私は無事に北京大学に合格した。
同級生も同じ大学に合格し、私たちは二人ともコンピューター科学を専攻した。
当時、中国ではコンピューター産業がちょうど成長し始めたところだった。
私たちはその機会を逃さず、大学三年のときに起業を成功させた。
私たちが製造したコンピューター用の半導体チップは、海外でも使われるようになった。
それでも私は、質素な暮らしを続けていた。
山奥で苦学生として過ごしていた頃、私は食費だけを残し、稼いだ金をすべて寄付していた。
胡璃の名義で。
あの計画によって、胡璃の功徳はすべて使い果たされてしまった。
だから、胡璃は小さな木彫りの姿になってしまったのだ。
もし私が天雷の一撃を防いでいなければ、胡璃は本当に消えてしまっていた。
だから私は、胡璃の名義で善行を積み続けた。
成功を収めたあと、私は一度だけ蘇家村へ戻った。
地震の被災地で救援活動をするためだった。
大規模な地震が発生し、村全体が土石流に飲み込まれていた。
村長は、逃げ遅れて命を落としていた。
これもまた、因果応報というものなのだろう。
自分にないものを無理に手に入れようとすれば、いつか別の形で、その代償を払うことになる。
私は村長の息子にも再会した。
彼は、昔と変わらず優秀で、端正な顔立ちをしていた。
私に同行していた秘書が教えてくれた。
彼は今、教師として働いており、県内の中学校で多くの人々から慕われているという。
そばには妻と子どもたちがいて、幸せそうに暮らしていた。
それを見て、私はようやく安心した。
彼が本来歩むべき人生を取り戻してくれたことが、何よりもうれしかった。
心優しい人には、明るい未来が待っているべきなのだ。
救援物資を配っていたとき、私は人混みの中に母を見つけた。
母は小さな女の子をしっかりと抱きしめていた。その後ろには、日に焼けた肌の男が立ち、二人を守るようにしていた。
母は私を見て驚いた様子だった。
何かを言いかけたものの、結局、言葉にはならなかった。
私は少しだけ笑い、物資を差し出した。
「おばさん、どうぞ」
9
三十歳になった頃、私の会社は全国でもトップ十に入る企業へと成長していた。
長年の同級生が、私に告白してくれた。
けれど、私は断った。
これほど長く友人として過ごしてきたのに、一度も恋愛感情を抱いたことがない。
それなら、これ以上相手を振り回さないほうがいい。
ちょうどその年、胡璃も目を覚ました。
しかも、人間の姿に変化できるようになっていた。
それでも、私たちが恋人になることはなかった。
幼い頃から一緒に育ってきた私たちは、もう家族のようなものだったからだ。
人間は年を取り、やがて死ぬ。
けれど妖怪は、そうではない。
私は胡璃に、本当の神仙になってほしかった。
天道の制約を受けず、自由に生きられる存在になってほしかった。
そうすれば、安心してこの世を去ることができる。
胡璃は、本当に愚かなところがある。
私が高校入試ならぬ大学入試を控えていた頃、私のために守護仙になることが、自分の修行の妨げになるとわかっていたはずなのに、それでも引き受けてくれた。
私は死ぬ前に、すべての財産を寄付した。
生涯を通じて善行を重ね、橋を架け、道路を整備した。
そのすべてを、胡璃の名義で行った。
死が近づいた頃、私は揺り椅子に横たわり、ようやく胡璃の体に、重厚な功徳が満ちているのを目にした。
私が死に、人間界に残された彼のしがらみがなくなれば、胡璃は神仙になれるだろう。
そう思うと、何の未練もなく、私は静かに目を閉じた。
私は一生、結婚もせず、子どもも持たなかった。
けれど、後悔はしていない。
幼い頃に愛を知らずに育った人間は、大人になっても、誰かを愛する方法がわからないことがある。
自分と同じ思いを、子どもたちにさせたくなかった。
だから、これでよかったのだ。
番外編
蘇落が亡くなった日、私はついに道を成し遂げ、神仙となった。
山林の精怪が修行を積んで神仙になるのは、とても難しいことだ。
それなのに、私は大した苦労もせず、神仙になることができた。
蘇落は一生をかけて善行を積み、功徳を重ねた。
神仙になったのは私のほうだった。
彼女はいつも私を愚かだと言っていたが、本当に愚かだったのは、彼女自身だったのかもしれない。
自分が私を救い、すべてを与えてくれたというのに、彼女はずっと、私が大学入試の前に彼女のためにしたことを気にかけていた。
その埋め合わせをしようと、最後まで尽くし続けたのだ。
私が道を成したとき、天道は尋ねた。
どこを自分の道場にしたいのか、と。
天地は広大で、どこを選んでもよかった。
けれど私は、どこも選ばなかった。
自分が積み重ねた功徳を使い、蘇落の次の人生へと戻ることにした。
蘇落は本当に運の悪い子だった。
親との縁に恵まれず、私が今世で初めて彼女に出会ったとき、彼女は顔を汚しながら、ごみ箱の中をあさっていた。
小さな体を丸ごとごみ箱に突っ込み、むちむちした足だけを外に出して、必死に何かを探していた。
その姿を見て、私は胸が痛くなった。
同時に、かわいらしくて、思わず笑ってしまった。
私の笑い声を聞いた彼女は、ぷりぷり怒りながら、ごみ箱から這い出してきた。
六歳になる前の彼女に、そっくりだった。
私はハンバーガーとフライドポテトを買ってあげた。
ようやく機嫌を直した彼女は、花壇に腰かけ、小さな足を揺らしながら、夢中で食べ始めた。
私は隣に座り、彼女の体についた汚れを、そっと拭き取ってあげた。
口の周りはケチャップだらけだった。
その姿があまりにもかわいらしくて、胸がいっぱいになった。
私は尋ねた。
私が彼女のお父さんになってもいいか、と。
彼女は迷うことなく、すぐにうなずいた。
私の心は、ますます柔らかくなった。
後になって、あのとき人さらいではないかと怖くなかったのか、聞いてみた。
彼女は、私を見た瞬間から親しみを感じ、一緒にいたいと思ったのだと言った。
私は普通の親が子どもに接するように、蘇落を育てた。
初めて幼稚園へ行った日。
初めて小学校へ通った日。
その一瞬一瞬を、私はすべて記録に残した。
大学生になった蘇落は、恋人を連れて帰ってきた。
私は一目見ただけで、その男が前世で私にあれこれと手を出してきた、あの生意気な小僧だとわかった。
今世でも、結局あいつにしてやられたらしい。
私がこの世を去るとき、蘇落は何かを思い出したようだった。
そして、こう言った。
「胡璃、来世は私がお母さんになって、あなたの面倒を見てあげるね」
本当に愚かな子だ。
二度の人生を送っても、まだ親子の縁にこだわっている。
それでも、今世では彼女も幸せになれた。
彼女にとって最高のものを、私にも与えようとしてくれたのだ。
番外編 2
私が自分の本来の立場へ戻り、試練を終えたとき、ようやく胡璃が私のためにしてくれたすべてを知った。
やはり、あの人は愚かだった。
せっかく神仙になったというのに、自分の功徳を手放してまで、私の次の人生に付き添ってくれたのだ。
彼がいなければ、私は試練を乗り越えられなかっただろう。
私は星辰の力を使った。
そして、私が存在しなかった世界へ向かった。
そこでは、胡璃はまだ生まれたばかりの小さな天狐だった。
両親の亡骸のそばに横たわっていた彼を、私は抱き上げた。
そして、天上へ連れ帰った。
これから先、私たちが離れ離れになることは、もうない。
それ以来、文曲星のそばには、いつも一つの天狐星が寄り添うようになった。
二つの星は、これからもずっと、天空でともに輝き続ける。




