雑草への雑想の話
畑を持つなら、どれだけむしってもむしっても生えてくる草とは死ぬまで戦うことになる。この文章に全く誇張は入っていない。文字通り、畑の所有者の命の尽きるその瞬間まで、畑仕事とはすなわち雑草との戦いである。
そして所有者が死した後は、それを相続した人間が畑の雑草とりに、終生磔にされるわけだ。誰かは呪いと言うし、誰かは宿命と言うし、また誰かは日常という。雑草とは百姓にとってはそういうもんである。
私、暇庭宅男もまた、今年も春になると同時に草取りに追われている。
サヤエンドウが絶好調で、ニンニクもタマネギも素晴らしく元気な今、それを妨げるものを排除するのは私の役目でもあって、雑草とりには本気を出さねばならない。そうして草取りしていると、さぼっていても割と困らないおとなしい草と、性質が極悪で視界に入ると血圧が上がってくるような草がだんだん身体に経験として刷り込まれてくる。今回はそういう雑草の種類について話そうと思う。
まず、おとなしい性質であまり困らない雑草からいこう。
カヤツリグサ、スズメノテッポウ、メヒシバ。
これらはインターネットで調べると、非常に害の大きな庭の天敵として扱われる事がある。うーんまあ、わからないではない。根が強いからなぁ。アスファルトをブチ抜く力のあるカヤツリグサは都市部なら困りものだろうなとも思う。むしろうと思うと尋常じゃなく根が強く張っていて、引っこ抜くのが大変だし、かといって薬に頼るとカヤツリグサは代ごとにどんどん除草剤耐性が高くなる厄介なヤツではある。
まあただ、暇庭はコイツらは雑草の中では嫌いではないし、躍起になって根絶しようとも思わない。
なぜか?それは、コイツらは完全に成長しきっても草丈が低く、草刈りでは強敵だが畑なら生えている場所ごと耕してしまえばいいというごくシンプルな解決法があるからだ。
スズメノテッポウなんか、完全に成長しきっても草丈は15センチにも届かない。同じく背の低いキャベツあたりと並んで生えていてもちっとも太陽光を遮らない。まあ隣り合っていれば多少肥料を吸われるが……別に構うことはない。許容範囲内だし、敵意むき出しで構っているほうが体力と精神を削られてろくなことがない。イラッとしたら野菜の収穫後にトラクターの耕運クローで切り刻んでしまえばいいのだ。それで土に還ってくれるのだから。背丈が低い雑草は構うな。これが暇庭の出した結論である。
そしてここからやや面倒な連中。アカザ、イヌムギ、エノコログサなど。エノコログサが馴染みがないなら猫じゃらしという名前を出せば大体の方が分かるだろう。これらは背が高い上に根が強い。背が高いと野菜に光が当たるのを邪魔して品質を落としてしまう。イヌムギとエノコログサは草刈り機の刈り払いにも強くあとからあとからビュンビュン穂が出てしんどい思いをする。アカザはトラクターの耕運クローでも切れない複雑で強靭な繊維が多く、大きく育ったものを強引にすき込もうとして機械を壊す人は意外といる。これらはもし畑で見つけたらなるべく早めに取るに限る。放置は推奨されない。群生していない場合は除草剤より人力で取り除こう。丸スコップがあると根っこごと掘り上げられるので幾分楽だ。
そして、畑仕事をしていると出会う最悪の敵が次の連中だ。
アレチウリ、アレチノギク、ヤブガラシ。
単語を書いているだけで鳥肌が立ってくる。コイツらはだめだ。畑での共存不可。視界に入り次第排除する。そういう連中。アレチウリは、カラスウリとも近縁の雑草で、しかし、蔓のはびこり方が尋常でなく、トマトやナスに絡みついて登ってきて、密に茂る葉っぱで光を遮りそれらを枯らしてしまう。そしてそれだけではない。植物にも、植物にのみ感染し様々な不具合をもたらすウイルス病というのが存在する。アレチウリはモザイク病という植物ウイルスのキャリアーであり、アブラムシによってスイカやメロン、かぼちゃなどに媒介されると壊滅的な打撃を受ける。
アレチノギクはトゲまみれの葉っぱと背丈の高さで共存不可。野菜に必要な太陽光を遮るし、作業中にトゲトゲが刺さるといちいち痛い。厚手の軍手すら貫通してくるあたりが個人的に実に悪質。ナスビやらキュウリと違って嬉しくねえんだよそのトゲはよ。
さらに、アレチノギクはタンポポのように綿毛を飛ばして天井知らずにどんどん増える。自分が困るだけではなく、他人の家の畑に侵入するのだ。他の人から、あそこの畑のあるじはあの草放っておいたな?となって農村で顰蹙を買ったら挽回する方法がない。草の一つで人間関係が壊れかねないのだ。だから私はアレチノギクに関しては見つけ次第排除せよだ。例外はない。花は結構綺麗だけどね。ごめんね、こっちの生活の都合で勝手に。
ヤブガラシもまあ厄介極まりない奴だ。有名どころで言えばビールに欠かせぬホップの遠縁の種類にあたるらしい。ホントかよ。コイツの厄介さは切り刻まれた根っこからでもすぐに再生できる点。蔓がよく伸びるので野菜に登られるとやはり枯らされる。日差しを遮る力は条件次第では葛にも匹敵し、さらに特定の植物の成長を阻害するアレロパシーという力もある。一度根付いた地を長年自分だけのものにできると言えば、その極悪さがよくわかるだろう。
百姓はいつでもこやつらと戦っている。所によってはこのメンバーにプラスしてスベリヒユやらスギナやらになる。両者共に暇庭は敵だと思わない。スベリヒユはごま油と醤油の炒め物にして美味しく食べられる食料だし、スギナが生えるのは土地に有機物が少なく酸性度が強いせいなので、金があれば腐葉土を、金がなければ精米機で無料で回収できる米糠などを春と秋に根気よく振りかけているとそのうち勢いを失っていく。とはいえ増える速さは目を見張るものがあり、違うでしょアレは敵でしょうよと言われればそれはそう。
野生化した洋麻や同じく野生化したセイタカアワダチソウも、外来種としての脅威を取り沙汰されるが、耕地に生えるものではないので暇庭は全く気にしない。
土手や野っ原にはびこったとして、数年すると不思議なもので少しずつ落ち着いて、外来種コミコミでのバランスが回復してくるのだ。嘘だと思われるかもしれないがほんとうだ。自然とはヒトの思う以上にうまくできている。
脱線した。話をもどそう。
畑にはつきものの雑草。憎たらしくもあり親しみもあり、たぶんこれからも暇庭の畑仕事には、草取りがドカッとのしかかっていくのだろう。はーあ。
お読みになった通りで普通に愚痴である。愚痴なら愚痴で面白みのあるものにしたいなと思った。書くにあたってネタにならないものなどない。見えるすべて聞こえるすべて触れるすべては作品のネタだ。




