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お望み通り、悪妻になりましょう  作者: おのまとぺ
第一章 ジャンヌ・クレモルンの結婚
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24 晩餐会



 騎士団の仲間がヘルゼンの屋敷に来るという話はイーサンから聞いていた。しかし、土曜の朝になって判明したのは、来客の数が二十人余りでかつ晩餐会を開催するということだった。


 つまり、二十人分の食事を私たちは夜までに用意する必要がある。よりによってペチュニアは昨日から泊まり掛けで友人たちと旅行に出ており、屋敷には私とメイドたちしか居なかった。当主であるバッカスも一応居るには居るものの、頼れるはずもない。


 不幸中の幸いで今日は副メイド長が休みの日だったため、私はメイド長とともに頭を抱えていた。そして悩みに悩んだ結果、一口サイズのサンドイッチや果物などを盛り付ける立食パーティーのような形式で食事を提供することになった。フルコースで大人数分を用意するよりは、まだ望みがある。



「担当を決めましょう。フルーツの盛り付けは若い子たちに任せて、私はメインの鶏肉料理を仕込みます。申し訳ありませんが……ジャンヌ様にはサンドイッチをお願いしても?」


 本当に申し訳なさそうに眉を下げながらそう言うメイド長リュシー・メルトンに私は一度頷いて、すぐさま準備に取り掛かった。サンドイッチなら得意な方だ。


 無心で材料を切って重ねてパンに挟んでいった。甘いものも必要かと思い立って、いちごやクリームを挟んだ仕様も作ってみる。ペチュニアが居たら「夕食に甘いサンドイッチを?」と言い出すだろう。


 必死の思いで手を動かしながら時計を確認する。胸の内ではある可能性が静かに揺れていた。


(あの女が来るかもしれない……)


 二十五歳の私が死んだ日、宿舎のイーサンの部屋には女が居た。それまで注視していなかったけれど、彼の女性関係は一通り知っておく必要がある。それぞれとの距離感や関わり方なんかを、自分の目でしっかりと確かめないと。




 ◇◇◇




「おいおい、イーサン!金持ちだって噂は本当だったのかよ!まさかヘルゼン商会の一人息子だったなんて……!」


 驚いたように目を丸くする男に続いて、続々と食堂に若い男女が姿を見せた。


 時刻は六時半。

 私はメイド長のそばで笑顔を浮かべながら、一人一人の来客を観察する。夫であるイーサンはというと、得意げな顔で酒を注いでいた。


「みんな、紹介するよ。妻のジャンヌだ」

「はじめまして」


 イーサンに肩を抱かれて私は微笑む。


 テーブルに並んだ料理の説明はリュシーの方からしてもらい、各自に皿が配膳された。立食パーティーのような形式とはいっても、客人を何時間もたたせっぱなしにするわけにはいかないので、長テーブルの他に各々が好きに着席できる丸テーブルと椅子を設けている。


 わいわいと賑わいを見せる騎士団のメンバーに紛れて、イーサンも上機嫌のようだった。いつもの週末よりも楽しそうだし、彼の社交性だけは本物だ。


 諸々の準備が無事に間に合ったことにホッとしながら息を吐いていたら、トトトッと走って来た小柄な女が私の前に立った。



「あの……!」


 顔を上げると赤い髪をカラフルなリボンで縛った女が目を輝かせてこちらを見ている。


「えっと……どうしましたか?」

「いえ、伝えたくて!この感動を!」

「感動?」


 女は興奮を鎮めるかのように右手に持った水を一気飲みする。私は呆然とその様子を見つめつつ、いったい何の話が始まるのかと身構えた。


「クリームとフルーツのサンドイッチが最高です!」


 女の動きに合わせて、赤毛がぴょんと跳ねる。


「食パンにクリームが合うなんて知りませんでした!クロワッサンにクリームを付けたことはありますけど……食パンにも合うんですね!」

「え……えぇ、そうですね」

「加えてこの断面!お花になってます!失礼ですけど、どのメイドが作られたのですか?うちの家でも作ってみたいので、レシピを……」

「作ったのは私です。特別なレシピはないので、」

「奥様が、こちらの料理を……?」


 びっくりしたような反応に私は申し訳なくなる。ただ薄切りの食パンにクリームとフルーツを挟んだだけのものなのだ。見た目はパーティー仕様に多少工夫したものの、難しいものではない。


 前回の人生で何度も経験したイーサンの食事会で身に付けた知識が今世で活きるとは。変な話、死に戻った甲斐はあったのだろうか。


 尚も感動する女に頼まれてフルーツサンドの覚書を渡した後、私は化粧室に向かった。あまり褒められる経験は多くないから、こんな時どんな顔をすれば良いのか分からない。強張った顔の筋肉をどうにかしないと。


 しかし、化粧室には先客が居た。



「あら、こんばんは」

「………?」


 扉の向こうで鏡に向かって化粧を直す派手な女がこちらを振り返る。短い髪の下でイヤリングが輝くのが見えた。私はとりあえず頭を下げてそのまま中へと入り、蛇口を捻ってひとまず手を洗う。


「よく頭が良さそうって言われませんか?」

「え?」


 女は口紅を塗り終わった後で小さな香水の瓶を片手に私に尋ねた。鏡越しに視線が合ったので、思わず瞬きをする。


「いえ。あまり言われたことはありません……」

「まぁ、残念。私の第一印象って当たるんですよ」

「第一印象……ですか?」

「ええ。イーサンの奥さんは真面目で誠実なタイプ。きっと良妻賢母なんでしょうねぇ」

「…………」


 何が言いたいのか分からないが、良い気はしなかった。私は緊張を覚えて目だけで女を見る。挑戦的なヘーゼルの瞳が、ゆっくりと細められた。


「平日の夜も家に居ないなんて寂しくないですか?」

「………夫の仕事ですから」

「本当に?私だったら耐えられないです」


 言葉に詰まって推し黙る私の前で身を屈めて、女は内緒話をするみたいに口元に手を当てた。


「何してるんだろうって、心配で」



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