13 ありのまま
アマンダがヘルゼン邸を訪れたのは、私が騎士団の宿舎を訪問した五日後のことだった。翌日にはイーサンが帰ってくるということで身構えていた私は、一週間ぶりに会う家族との再会を素直に喜んだ。
もともと綺麗だったアマンダは、成人してますます大人の女性らしい可憐さを身に付けたと思う。たくさんの男の子たちが彼女を食事に誘う気持ちも分かるし、同性からしても見習いたいものがある。
「なかなか来れなくてごめんなさい。学校の入学準備で時間が取れなかったの」
「まぁ、例の医療学校の?」
「ええ。貴女のおかげよ!自分より若い子たちに混じって勉強するのはちょっと恥ずかしいけれど、立派な看護師になりたいわ」
「なれるわよ、アマンダなら……」
ありがとう、とはにかみながらアマンダは笑う。
明るくて社交的で何事も器用にこなすこの従姉妹のようになりたいと、願っていた。私は勉強こそ好きだったものの、あまり人付き合いが上手い部類ではなかったから、いつも誰かに囲まれているアマンダに憧れていた。
(貴女はどうか、幸せになってね………)
アマンダの母マルジェラは、私の母キャサリンとともに子爵家の令嬢として生まれて、平民の男と駆け落ちしたと聞いている。母もアマンダもあまり昔のことは話さないから、詳しくは知らない。
だけど、同い年の少女が突然両親を失ってクレモルン伯爵家に来た日の衝撃は今でも覚えている。アマンダは丸ひと月ほど誰とも口を効かなかった。部屋に篭りっぱなしだった彼女とドア越しに会話をして、徐々に距離を縮めていったのだ。
幸せになってほしいと心から思う。
それが、母の願いでもあるから。
「新婚生活はどう?」
突然振られた質問に、私は返答に困った。
「うーん、そうね……なんとかなると思うわ。平日イーサンが居ないのは残念だけど、メイドたちは優しそうだし」
「そういえばイーサン様は宿舎なのよね?」
「うん。明日には戻るんだけど」
「ふぅん」
しばらく私の顔を見つめていたアマンダが、どういうわけか微笑んでいるので首を傾げた。
「どうしたの?」
「何でもないの、ただ、嬉しくって」
「………?」
アマンダは視線を落として、垂れてきた髪を耳に掛ける。柔らかなプラチナブロンドの髪が太陽の光を反射していた。
ぼんやりと幼い頃の記憶が蘇る。
自分の真っ黒な髪を嘆いて、アマンダの美しいブロンドを羨んだことがあった。あのとき彼女はなんと言ってくれたんだっけ。
ポチャン、と砂糖がティーカップに落ちる音で我に帰る。
「普段のジャンヌを見て安心したの。結婚式の日は派手な化粧をしていたでしょう?」
「え?あぁ、あれは係の人が……」
「うん。だけど、ジャンヌはやっぱり今みたいな格好が似合ってる。変わらないでほしいの。覚えてるかしら、小母様も言ってた」
机の向こうから伸びて来た手が私の手に重なった。白い柔らかな手のひらが、私の手の甲を撫でる。どうしてか、心がザワザワした。
「ありのままの貴女を愛する人を探せって、ね」
「アマンダ………」
「ここだけの話、小父様も嫌がってたの。娼婦みたいだって悲しんでいたわ。あれはちょっと、担当の人が悪かったのね」
「お父様が……?」
驚いて私は硬直する。
結婚式の後でゆっくり話す時間はなかったから、まさか父親がそんな感想を抱いていたなんて夢にも思わなかった。
確かに普段の私は化粧が薄い。学生の頃からほとんど変わらないと言っても過言ではない。だけど流石にそんな化粧ではドレスが浮いてしまうし、結婚式ともなれば多少の華やかさは必要というもの。
父親には分からないのだろうか?
それとも、周りの目には本当に品のない姿に映っていたのだろうか。他者からの評価なので、なんとも言いがたい。
「あんまり気にしないで。大したことじゃないわ。あくまでも素の貴女が素敵って言いたいだけ」
「ありがとう。大丈夫よ、変わるつもりはないし……」
「それが聞けて良かった。きっと天国の小母様も今頃胸を撫で下ろしてるでしょうね!」
冗談めいた言葉に、私は曖昧に笑った。
アマンダに悪気はないのだが、彼女の口から母の話が出るたびに私はドキッとしてしまう。母の最期を知っているのは、他でもないアマンダだけだから。
「アマンダ……もうすぐお母様の命日なの。今年もお父様とご挨拶に行くつもりよ。貴女は……」
「もちろん私も行くわ」
「良かった、ありがとう。イーサン様も予定を空けておいてくれるそうだから、みんなで向かいましょう。天気が晴れることを祈ってるわ」
「そうね」
私はアマンダと詳しい日取りを決めて別れた。




