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【モブ武将】松下嘉兵衛は、木下藤吉郎を手放さない!~おこぼれの小大名で終わりたくないので、三英傑を手玉に取ってビッグになろうと思います!  作者: 冬華
第2章 駿河・立身編

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第81話 嘉兵衛は、無人斎の正体を知る

天文24年(1555年)7月下旬 駿河国駿府 松下嘉兵衛


氏真公をおもてなしした宴から一夜明けて、寿の事を考えていると藤吉郎が無人斎を連れて現れた。


「どうしたのだ、二人して朝早くから……」


まだ朝餉の時刻までも間がある頃合い。急ぎの用件でなければ、もう少し頭の中を整理したいから、後で来てほしいと言おうとしたところ……


「実は、ご報告したいことがございまして」


真顔で藤吉郎が言うものだから、口にしようとしていた言葉を飲み込んで何だろうとその答えを待つ。すると、口を開いたのは藤吉郎ではなく無人斎であった。


「済まぬな、大蔵。これまで騙していて……」


「騙していて?」


「儂は……武田陸奥守信虎じゃ」


「はい?」


これはいけない。何かあったのか、もしかしたらどこかで頭を打ったのかもしれないが、どうやら無人斎はボケてしまったようだ。


「藤吉郎……これはつまり、医者を呼べということだな?」


なるほど、これは確かに急を要する話だ。信虎公と言えば、お屋形様の舅様で……こんな一介の家臣の屋敷で、間違っても下人の仕事なんかしたりしないはずだ。そんな水戸黄門や暴れん坊将軍じゃあるまいし……。


しかし、そんな事を思っていると、藤吉郎は首を左右に振った。


「殿のお気持ちはよくわかりますが……このお方は間違いなく武田信虎公にございますれば……」


もう一度、嘘だろと思うも……藤吉郎の顔に冗談を言っている様子は窺えない。俺はマズいと思って、あわてて上座を開けて信虎公に譲る。その立場は俺よりもはるかに雲の上のお人なのだからと。


「知らぬこととはいえ、これまでの無礼の数々、平にご容赦の程を!」


そして、この屋敷に来られてから此の方、下人の仕事をさせてしまったことを誠心誠意土下座して謝罪した。許されなければ、お怒りを買っていれば、間違いなく俺は打ち首だ。


「まぁ……こちらもそなたを騙したのだ。その事は気にせずとも好い」


「ははあ!ありがたき幸せに存しまする!!」


どうやら許されたようだ。信虎公の表情も穏やかで、笑みさえ少しこぼれておられる。それゆえに、俺はほっと胸をなでおろしたが……


「それで、藤吉郎から聞いたが、そなた……義元を天下人に、そのために尾張を平定した後に、三河に本拠地を移すべきだと主張しているそうだな?」


その口から本来秘造しておかなければならない言葉が飛び出して、俺は固まってしまった。


どうして、藤吉郎が漏らしたのか……もしかして裏切られたのかと思って、視線を藤吉郎に向けたが、その藤吉郎は平然と言う。「これも殿の御為にございます」と。


「まあ、そなたが戸惑うのはわかるが、儂はこの藤吉郎に嵌められ……いや、説得されてだな。そなたの後押しをすることにしたのだ」


「いや、今……嵌められたと、さらっと言われましたよね?」


「こほん……それは何かの聞き間違えであろう。忘れてくれ」


そのどこか苦笑いを浮かべる表情から、水面下で藤吉郎が何かをやったのは察したが、おそらくこれ以上それを突いても仕方がないだろう。俺は気持ちを切り替えて、何をどう後押ししてくれるつもりなのかを信虎公に訊ねた。


「そうじゃのう……朝比奈や雪斎も、それに寿を側室に差し出せば、氏真もするであろうが、 儂もそなたができるだけ早く今川家の政策決定に関われるように後押ししたいと思っておる」


「もちろん、その見返りに……はあるのですよね?」


「当たり前だ。今はこの通り坊主ではあるが、欲を捨てたわけではないからのう。ズバリ……儂が求めるのは、義元が天下人となった時に、儂を甲斐の国主に戻してもらう後押しをすることだ」


それは一体いつの話になるのか。俺の中では、少なくとも15年や20年くらい先の話のつもりで考えている。そして、その頃に信虎公が生きているのかを考えると、無責任な返事はできなかった。


だけど、そんな逡巡する俺を見て、信虎公は笑い出した。


「あの……」


「どうせ、儂の歳を考えて、無責任なことは言えないと思ったのであろう?まこと、噂では聞いていたが、そなたは人が良いな」


「は、はぁ……」


褒められているのか、それともけなされているのか。判断が付かずに戸惑っている俺に、今度は藤吉郎が言った。「そもそもの話、策がまだ実現するかどうかもわからないのだから、そんなに難しく考える必要はないのでは?」と。


確かにその通りかもしれないが……と、どこか釈然としない思いを抱いていると、信虎公は言った。


「では、もし儂が死んでいたら、息子・六郎を後押ししてくれ。それならできるであろう?」


その条件ならば、断る理由はない。俺はその申し出を受け入れることにしたのだった。


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