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【モブ武将】松下嘉兵衛は、木下藤吉郎を手放さない!~おこぼれの小大名で終わりたくないので、三英傑を手玉に取ってビッグになろうと思います!  作者: 冬華
第2章 駿河・立身編

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第72話 嘉兵衛は、瀬名姫の料理教室に付き合う

天文24年(1555年)7月中旬 駿河国駿府 松下嘉兵衛


寿が俺の妹になってから、もうひと月余りが過ぎた。元婚約者だけに、おとわがもしかして嫌な思いをする、あるいはいじめるのではと心配していたのだが、意外とそんな事はなく……


「ちょっと、瀬名様!なんでまたキノコをいれるんですか!!」


今日はどうやら、お料理教室の日だが……ご覧の通り、瀬名様を交えて皆で楽しくやっているようだ。


「だって、入れた方が色合いは綺麗になるじゃない。わたし、前から思っていたのよ。お味噌汁って何で茶色なのかって。赤色でも青色でも紫色でも良くないかしら?」


「よくありません!味噌汁は茶色じゃないとおいしくなりません!!」


「寿ちゃん……また、まな板割れちゃった……」


「おとわお姉様!だから、ネギを切るだけなのに何でそんなことになるのですか!!」


「え……だって、力入れないと切れないんじゃ……」


うん、うん、仲良きことは良い事だ。こうして、寿が二人に受け入れられて、兄として嬉しく思うぞ。


「だから、次郎三郎。忙しい俺に代わって、できた味噌汁は全部飲み干すのだぞ」


「え……兄貴、まさか逃げるおつもりで?」


「いやな……俺は何かと忙しくてだな……」


まあ、忙しいという話は嘘ではない。この松平邸に建設中の茶室が仕上げの段階に差し掛かっているそうで、藤吉郎から完成確認を頼まれているのだ。


「だったら、俺も……」


「次郎三郎……それでは瀬名様が悲しまれるとは思わぬか?それがきっかけで松平家が改易となったらどうする」


「そんな馬鹿な話があるわけないでしょう」


まあ、確かにないな。そもそもの話、騒ぎ立てて困るのは関口家の方だ。大げさに言ったが、次郎三郎の言う通り、そんな馬鹿な話はあり得ない。


「だが……女というのは執念深いからな。きっと今日逃げたら、その事を結婚した後も延々と言い続けるだろう。場合によっては、子や孫にも語り継いでな……」


「そ、そうなのですか……?」


前世で独身だった俺の実体験ではないが、大学時代の友人が同窓会でそうぼやいていたのを聞いた覚えがある。だから、俺には縁がない話だろうが、気をつけろよと。うるさい、大きなお世話だ!


「兄貴?」


「ま、まぁ……そういう事だから、俺は行くな」


しかし、こうして不毛な譲り合いに決着がついたところだった。門の方で何やら小競り合いのような声が聞こえてきたのは。


「なんだ?」


次郎三郎と共に何が起きているのかと思ってその騒ぎの発生元へと向かったが……


「おいこら、三河の家なき子!」


次郎三郎の顔を見るやそう怒鳴り上げてきたのは、我が怨敵でもある孕石主水であった。


「あの……一体何の御用でしょうか?」


「何の御用じゃないんだよ!さっきから何だ!?この異臭は!!」


ああ、なるほど。瀬名様の作った味噌汁の臭いにこの糞が反応したというわけか。同じ下水の臭いをしているのだから、問題ないと俺は思うのだが……確かに、俺も逃げたいと思っていたところだったから、同情しないわけでもない。


「し、しかし……実はですな……」


「しかしもかかしもないんだよ!俺が今すぐ中止しろと命じているんだ。すぐにやめさせろよ。さもなくば、三浦様にお願いして、お情けで与えられているこの狸小屋も取り上げてもらうぞ!!」


はぁ……やれるものならやってみろと思うが、次郎三郎の表情を見ると何やら面白いことを思いついたようだ。脇に控えていた石川殿に何やら耳打ちした。


「それで返事は!」


「そうですね……今、責任者を呼んでいますのでちょっとお待ちを」


「責任者ぁ?」


まあ、孕石が怪訝な顔をするのは不思議ではない。何せ、この屋敷の主は次郎三郎なのだ。 だから、責任者と言えば普通は他にはいないと思うだろう。しかし……


「あら?わたしたちのお料理教室に何かお話があると聞いたのですが、孕石殿でしたか……」


そこに現れたのは瀬名様となれば、話は変わってくる。孕石は「何で姫様がここに……」と青ざめているが、俺としては逆に、「おまえ、三浦様から何も聞いていないのかよ」と言いたくなる。


何しろ、次郎三郎と瀬名様の縁談話は、雪斎禅師がすでに根回しを終えて、今川家の重臣方はすでにご存じのはずなのだから。


「それで、孕石殿。お話とは……」


「あ……い、いや、とても良いにおいが我が家に漂ってきましてな。どなたか高貴なお方が来られているのではと思い、ご挨拶にと……」


「まあ!それは良き心がけですね。そうだ。丁度、お味噌汁ができましたので……孕石殿にも飲んでいただきましょう」


「え……!?」


「ささ、遠慮せず。寿さん、大きなどんぶりにわたしが作ったお味噌汁をよそって、持ってきていただけませんか?」


「畏まりました。直ちに……」


「あ……そ、それには及ばず……」


しかし、関口家と孕石家の家格の差を考えたら、拒むわけにはいかない。あとで改易、あるいは切腹を覚悟するなら別だが……。


「さあ、遠慮なく召し上がれ!」


それは、なぜか銀色に輝く味噌汁。まさか、水銀でも入れたのかとびっくりしたが……哀れ、孕石はそれを一口飲んで、即座に昇天したのだった。


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