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【モブ武将】松下嘉兵衛は、木下藤吉郎を手放さない!~おこぼれの小大名で終わりたくないので、三英傑を手玉に取ってビッグになろうと思います!  作者: 冬華
第2章 駿河・立身編

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第69話 寿は、脅されて無人斎の協力者となる

天文24年(1555年)6月上旬 駿河国駿府 寿


「ふふふ、上手く行ったわね」


眠りの世界へと旅立たれて、畳に崩れ落ちた嘉兵衛様のお姿を見て、わたしは着物を脱ぎながら勝利を確信した。あとは、このまま強引に既成事実を作って、目覚めた嘉兵衛様に責任を取って貰うつもりだ。


ああ、もちろんそうなっても立場は弁えるつもりだ。井伊のお姫様をご正室様と崇めて、わたしは側室として一歩下がって、嘉兵衛様に尽くす。それなら、文句は言われないはずだ。


でも、子供は欲しいかな……。


「はぁ……やはり、こんな事になっていたか……」


しかし、その時だった。突然襖が開かれて、僧形のお爺ちゃんが現れてはそのように呆れて呟かれたのは。そして、わたしを押しのけて、嘉兵衛様の頬をパシパシと叩いた。


「おい、旦那様。帰るぞ……って、ダメだこりゃ。返事がない、ただの屍のようだ」


「いや……別に殺していないんだけどって、誰なのよ!いきなり入って来て!人を呼ぶわよ!!」


「ほう……この状況で呼ばれて困るのはそなたじゃと思うが、よいのかの?役人でも駆けつければ、一服盛った事などすぐわかると思うが?」


「くっ!」


な、なに、このお爺ちゃん!?一体何が目的なのよ!!


「なあ、お嬢ちゃん」


「なによ……」


「この際だ。悪いようにしないから、儂に協力しないか?」


「協力?」


何をさせるつもりかと警戒していると、お爺ちゃんは言った。側室ではなく、嘉兵衛様の妹という形で松下家に入り、情報を流してもらえないかと。


「ま、待って!情報を流してって……お爺ちゃん、嘉兵衛様の味方じゃないの!?」


「そうだのう……味方になるかどうかは、お嬢ちゃんから教えてもらった情報で考える事になるかの」


「でも、それって嘉兵衛様を裏切るってことよね!?流石にそれはできないというか……」


「一服盛って既成事実を作って側室に……と企んだ時点で、信頼を裏切っていると思うが?」


う……た、確かにその通りだ。痛い所を突くわね、このお爺ちゃん……。


「まあ、どうしても嫌なら儂は構わぬぞ。ただし、その場合はそなたを奉行所に突き出して裁きを受けさせることになるが……」


「さ、裁き!?」


「そうじゃのう……今川家の宿老たる朝比奈備中守の秘蔵っ子を美人局で嵌めようとしたのだ。そなたは打ち首獄門、実家は改易といったところかの?」


ま、まずい……それは流石にまずい。父や弟たちはどうでもいいけど、わたしはまだ死にたくない。つまり、ここはこのお爺ちゃんに協力せざるを得ないという事か……。


「わかったわ……協力する」


「そうか。物分かりが良くて儂も無益な血が流れずにホッとしたわい」


「でも、一つ聞かせて」


「なにかな?」


「なぜ、妹なの?情報収集の面で協力するなら、側室の方がなにかと都合が良いように思えるけど……」


「そうじゃな、その理由は二つある」


二つ?それは一体何かと思っていると、お爺ちゃんは言った。一つは、この状況では目を覚ました嘉兵衛様がわたしに対して敵愾心を抱くという事だ。


「それでは、仮に側室となっても警戒されて良き情報を得る事ができぬからな。ここは、ここでの出来事そのものを大蔵の夢と誤魔化そうと思うのじゃ」


そんな事ができるのかと思っていると、このまま連れ帰って部屋に眠らせておいて……あとはお爺ちゃんがそのように仕向けると言った。今日は皆出払っているから、左程難しい話ではないと言って。


「それでじゃ、そなたは速やかにこの宿を引き払って、明後日に初めて駿府に到着した態で松下家を訪ねよ」


「それはいいけど……その間、わたしはどこに居れば……」


「それについては心配ない。あとで儂の手の者をこの宿によこす故、従えばよい」


「わ、わかったわ。それで……側室になる事を望んじゃいけないもう一つの理由って……何?」


「おお、そうじゃったな。齢を取ると物忘れが激しくなっていかぬわ!」


そして、お爺ちゃんは照れ笑いを浮かべながら、その残る一つの理由を教えてくれた。それは……嘉兵衛様の婚約者が非常に恐ろしいお方だという事だ。


「そんなに恐ろしいお方なのですか?」


「ああ……あれはヤバい。動物に例えるならまさに虎だ……」


「虎?」


「此間などは、この嘉兵衛を風呂で押し倒して、チョメチョメしているところを覗いたとかで藤吉郎が惨たらしく半殺しにされてな……。あれに逆らうのはやめておいた方が良いと儂は思う……」


どれだけ恐ろしいのかはよくわからないが、この強かなお爺ちゃんが恐れるのだから余程の事なのだろう。そう判断して、わたしは全てを承知したのだった。


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