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【モブ武将】松下嘉兵衛は、木下藤吉郎を手放さない!~おこぼれの小大名で終わりたくないので、三英傑を手玉に取ってビッグになろうと思います!  作者: 冬華
第2章 駿河・立身編

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第58話 嘉兵衛は、毒饅頭を検証する

天文24年(1555年)5月上旬 駿河国駿府 松下嘉兵衛


関口家の瀬名姫——。


その名はもちろん知っている。関口刑部少輔様の長女で、とてもおっとりとしたお姫様らしいお姫様だ。加えて……偽物ではない立派なモノをお持ちの美少女でもあらせられる。


……つい、見惚れていたら、おとわに殴られたけど。


「それで、饅頭の出処がその瀬名姫というのは……」


「ここに来る前に禅師から使いを頼まれて立ち寄ったところ、頂いたのですよ。どうぞ、小腹がすいたら食べてくださいと言われて……」


そういえば……家康の正室・築山殿は、関口家の娘だったな。もしかしたら、このエピソードは二人の馴れ初めだったのかもしれない。


「しかし、次郎三郎様。10日も前の物でもなければ、お墓にお供えしていた物でもないのに、なぜ、それを食べたおとわ様はお腹を壊されたので?」


「藤吉郎、それはわからないな。そうだ……そなた、試しに食べてみてはどうだ?」


「儂が……ですか!?」


「食べたら、どうしてとわ姉がお腹を壊したのか……わかるんじゃないかな?」


次郎三郎はそう言いながら、残っている饅頭を藤吉郎に差し出そうとした。しかし、俺はこれを許さない。


「次郎三郎……折角、瀬名姫様から頂いたのに、それを藤吉郎に与えては関口家に対して非礼ではないか?」


「え……?」


「食べるならそなただろう。それとも、何か?食べられない理由でも……」


「そ、それは……」


まあ、気持ちはわかる。おとわがお腹を壊して駆け込んだ時点で、これが非常にマズい物だというのは誰だって気づいている話なのだ。俺もそうだが……いくら原因追求のためとはいえ、食べたいとは思わない。


すると、そこに……お腹を押さえながら、青白い顔をしたおとわが現れた。次郎三郎に「よくも……」と恨みがましく言ったが、どうやらそれ以上争う力は残っていないようだ。


「大丈夫か、おとわ。食べたという饅頭は、次郎三郎が瀬名姫から貰った物という事らしいが……」


「ど……どおりで、朝から臭っていたはずだわ……」


朝から臭っていた?それがこの饅頭とどう関係あるのかわからずにいると、おとわは言った。十中八九、それは瀬名姫の手作りだと。


「それって、つまり……瀬名姫様は料理下手?」


「下手なんていう物じゃないわよ!あれは、料理とは違う何か別の物を作っているのよ!!」


聞けば、おとわも関口家に入ってから幾度か、その調理現場に立ち会ったらしい。だけど、真面な物ができた試しは一度もなかったそうで……


「その話、刑部少輔様は……奥方様は……」


「もちろん、ご存じよ!だけど、お二人とも瀬名様に激甘だから、苦笑いを浮かべられるだけで何も言わないわ……って、いたた!興奮したら……」


お腹を押さえながら、再び厠に向かうおとわの背中を見送り、俺はため息を吐くが……これで原因ははっきりした。


そして、次郎三郎の肩をポンポンと励ますように叩いた。


「兄貴?」


「強く生きろよ、次郎三郎。毎日の飯が本当に死ぬほどマズくてヤバくても、我慢して食べるのだ。全ては松平家再興のために」


「え、えぇ……と?」


今ひとつまだ事情が呑み込めていないのか、次郎三郎は首をかしげて不思議そうな顔をしているが、雪斎禅師がこうしてお膳立てを始めている以上は、瀬名姫との結婚は秒読み段階と見るべきだろう。逃げる術は見当たらない。松平家を捨てて出奔するなら話は別だが……。


「しかし、殿」


「なんだ、左近」


「5日後に予定されている関口家の訪問ですが……もしかしたら、そこで瀬名姫の手料理が振舞われるという事は……?」


「あ……」


前に挨拶のために訪問した時は出されなかったけど……確かに、その可能性は否定できない。まずい……次郎三郎を励ます余裕など、どうやらなかったようだ。


「な、なにか、良き方法はないか?藤吉郎……」


いつもの事だが……困った時に胃薬よりも頼りになるのは、その知恵である。


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