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【モブ武将】松下嘉兵衛は、木下藤吉郎を手放さない!~おこぼれの小大名で終わりたくないので、三英傑を手玉に取ってビッグになろうと思います!  作者: 冬華
第2章 駿河・立身編

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第56話 雪斎は、嘉兵衛を観察する

天文24年(1555年)4月中旬 駿河国駿府・臨済寺 太原雪斎


「あ……言っておくけど、俺にその……衆道の趣味はないぞ?」


「へ?」


噛み合わない二人の会話に、思わず怒りを忘れて儂は吹き出してしまった。


「おいおい、大蔵殿。ここは今川家の菩提寺。そこで衆道はちょっと……儂としては困るのだが……」


「禅師、からかっておいででしょう。ここが寺だろうが待合茶屋だろうが、俺は男を抱くつもりはない」


「し、しかし……それならなぜ、某から岡崎城を取り上げるという話に……」


まあ、確かに竹千代からすれば、いきなり自らの居城が取り上げられる話を耳にしたのだから、それだけ穏やかならざるものがあったのであろう。慌てて誤解をした気持ちは儂もわからぬわけではない。


「禅師……」


「構わぬ。大蔵殿、説明してやってくれ……」


それゆえに、盗み聞きした事に対するお仕置きはこの後必ず執行するけれども、この場に留まり、大蔵殿の話を聞くことを認める事にした。


「よろしいのですか?また人が良いというおつもりでは……」


「御仏に誓って、今度は言わぬ。だから、是非貴殿の考えを竹千代にも……」


無論、竹千代には「ここで聞いた話は他言無用」と釘を刺すことも忘れない。もし、その口から漏れた場合は、儂が責任を持ってその首を落して松平家を取り潰すとも告げた……。


そして、竹千代が顔を青くしながら、うん、うんと頷くのを見て、大蔵殿は竹千代にもわかるように最初から話し始めた。まず、織田を従わせて尾張を平定した段階で、拠点を駿府から三河・岡崎城に移す……これは、先程話していた事だ。


「竹千代殿にとっては不本意な事だろうが、今川家がそこから大きくなるためには、いつまでも駿府を本拠地にしていてはダメなんだ」


大蔵殿は広げている地図を指し示しながら、竹千代にそう語った。加えて、三河の中でも岡崎を選んだのは、傍に東海道が通っていて、東西の移動が容易であるからだ……と。


「あの……すみません。岡崎の話を伺う前にお聞きしたいのですが……」


「なんだ?」


「織田を従わせるとは、滅ぼさないという事で?」


「そうだ。織田三郎は潰すよりも従わせて使った方が今川のためになると俺は考えている」


儂の考えは、後腐れなく織田一族は潰しておいた方がいいと思うのだが……大蔵殿の考えはどうやら違うようだ。


「しかし、そのような事が可能ですか?三郎殿は中々の御仁にて、あまり甘く考えていると……」


そうそう、儂もそれは思う。あれは虎の子だ。尾張の虎が選んだ後継者なのだ。世間で噂されているようなうつけであるはずがない。


「わかっている。織田三郎が舐めていい相手じゃない事はな。だが……」


大蔵殿は広げられている地図に書き込みを加える。最初に美濃の『斎藤道三』に✕を入れて、合わせて『織田信長』と結んでいた線にも✕……と。


「これは……」


「斎藤道三だが……そう遠くない将来に、息子に殺されるだろう」


「え……?」


うむうむ、竹千代は驚いているが、美濃に関しては儂もその予測に同意見だ。


昨年、実権を握った息子・高政は守護だった土岐殿の落胤という噂もこの駿府にまで届いているし、真偽は不明ながらも、そのうち親子で争う筈。その上で勝つのは、国人たちの多くを味方につけている息子の方で……。


「そうなれば、織田三郎は後背の美濃に敵を抱える事になるわけで、そちらに少なくない兵を割かなければならなくなる……」


なるほど。その一方で、我が今川家は武田、北条と盟約を結んだため、後背を気にすることなく全軍で尾張に攻め込むことが可能だ。ここで、お屋形様がおん自ら出陣でもなされない限り、万に一つも負ける要素はない。


そこで大蔵殿は『織田信長』の名を囲むように丸を入れた。例え抵抗があったとしても、真綿で首を締めるようにゆっくりと圧をかければ、やがて両手を上げるしかないから……と。


「で、ですが、三郎殿の事は大蔵殿の言われる通りになるやもしれませぬが……そこで我が岡崎にお屋形様が移られるというのであれば、我らはどうなりますか?」


「代替えの城地を与えられることになる。場所は三河の何処か、もしくは尾張に……」


「尾張に?」


「従わせた後、織田三郎の領地をそのままにしておくわけにはいかないだろ?削った場所に松平を移して、更なる領地拡大の一翼を担わせるかな?俺が差配するのであれば……」


そして、尾張を加えた四か国の領国をしっかり固めた後は、美濃と伊勢を攻め取り、上洛の機会を窺がうというのが大蔵殿の考えだ。その時の石高は、およそ250万石にも達する事から、三好が相手でもいい勝負ができるだろうと。


「し、しかし……本当にそのような事が……」


「まあ、俺は可能だと思っている。なにせ、この今川には竹千代殿……貴殿がいるのだ。あとは、織田三郎さえ従えたなら、立ちはだかる事ができる相手が果たしているだろうか?」


「え……?」


いや、それは流石に言い過ぎなような気がするが……どうやら、竹千代は意気に感じたらしい。「わかりました!この松平竹千代、これより大蔵様を兄貴と呼ぶことにします!」……などと、意味の分からぬことを言っているし……。


ただ、このやり取りを含めて儂は思う。この松下大蔵少輔は、お人好しが過ぎるものの……只者ではないと。


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