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【モブ武将】松下嘉兵衛は、木下藤吉郎を手放さない!~おこぼれの小大名で終わりたくないので、三英傑を手玉に取ってビッグになろうと思います!  作者: 冬華
第1章 遠江・旅立ち編

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第48話 嘉兵衛は、誓約を迫られる

天文24年(1555年)1月中旬 遠江国井伊谷城 松下嘉兵衛


無事に左近を家臣に加えた俺は、急ぎ備中守様の元へと戻った。左京様の許しを得て離れたとはいえ、世話係の任務を解かれたわけではないのだ。用事が終わった以上は、呼び出しに備えて控えておかなければならない。


「松下殿、お戻りになられましたか」


しかし、待機部屋に向かう途中で、俺は左京様に呼び止められて、そのまま備中守様の御前へと向かうことになった。聞けば、一刀斎殿を交えて話がしたいという事らしい。


「えぇ……と、仕官のお話はまとまらなかったのですか?」


「そのお話なら、松下殿のおかげで無事にまとまりました。一刀斎殿は、客として今川家に逗留されることに……」


実のところ、一刀斎殿がこの井伊谷に立ち寄って剣術大会に参加したのは、単なる腕試し的な意味合いでしかなかったらしい。だけど、俺がどうしてもと弟子入りをせがんだことで、「客ならば」という話になったとか。


「しかし、客ならいずれまたどこかへ……」


「それについては、約束を交わしました。これより3年間は駿府に留まっていただき、主に馬廻衆への指南をお願いすると」


「馬廻衆の指南という事は、某もそこに……ということなのですね?」


「そうですね。詳しい話はこれより父からあると思いますが、その認識で間違いないかと」


つまり、どうやら就職試験は無事にクリアーできたという事らしい。だから、つい嬉しく思って、心弾む気持ちで備中守様の待つ部屋へ足を踏み入れた。


「松下嘉兵衛です。お召しにより参上しました」


「うむ」


ただ……しかめっ面の備中守様のお顔を見る限り、機嫌はあまり良いとは言えない様子だった。だから、もう一山あるなと緩んだ気持ちをもう一度引き締め直して、話を伺うことにしたのだが……冒頭に飛び出して来たのは、1枚の誓約書だった。


「これは……?」


「……そなたの考えは左京から聞いた。聞いた上で約束してもらいたい。そなたの考えは、時が来るまで駿府の誰にも話してはならぬと」


それは言うまでもない。今川は天下を目指さなければならないと言った発言の事だろう……。


「時が来るまでとは、いつまででしょうか?」


「そうだな。そなたが今川で出世して、評定衆に加わるまでは決して口にしてはならぬ」


「もし、お約束したら……?」


「そなたの馬廻衆入りはもちろん、その後の処遇についてもこの儂が後ろ盾になる。どうだ、そう悪い話ではあるまい?」


確かに悪い話ではない。ただ、それならなぜそんなに不機嫌そうなのか。そう思っていると、 今度は一刀斎殿から1枚の紙が渡された。そこには、『馬廻衆指南役補佐』と書かれてあった。


「朝比奈殿と話し合った結果、嘉兵衛殿には駿府で某の補佐をお願いしようと思っております。ですので、ここは備中守様の言われる通りに……」


指南役補佐という事は、単なる隊員ではないということであり、これは普通に馬廻衆に加えられるよりもずっと破格の待遇とも言えた。しかも、それに伴って家禄の方も1,500石に増やしてくれるとかで、俺としては何と言っていいか……。


「なるほど……ご機嫌が悪いのは、これが原因でしたか」


「そうだ。どうしても呑まなければ、今川に来てくれぬというし……ホント、あとで雪斎の小言をくらう儂の身になってもらいたいものだ……」


その物言いが可笑しくて、思わず吹き出してしまったが……次の瞬間、備中守様は真面目な顔をされてもう一つ言われた。それは、この誓約書に俺が署名をしなかった場合の事についてだ。


「わかっています。その場合は、今の話も馬廻衆に加えてもらう話もなしというわけなのですね?」


「いや、馬廻衆には加わってもらう」


「え……?」


ただし、訝しく思っている俺に備中守様は言った。野放しにして、特に「三河を本拠地にする」などとあちらこちらで吹聴されたら迷惑だから……と。


「いや、誰にも言いませんよ?」


「その言葉を信じろと?いや、本当に言わぬやもしれぬが……それでも、目の届く所に繋いでおいた方が安全だと思わぬか?」


そして、備中守様は続ける。馬廻衆に加えるが、その場合は徹底して末端の隊士扱いをして飼殺すと。


「なるほど……末端の隊士の言葉など、誰も耳を傾けませんか」


「もちろん、儂としてはそのような選択を選びたいとは思わぬ。そなたの才能を活かせば、必ずや今川家の御為になると信じているからな。それゆえに、ここは儂を信じて……その誓約書に署名をして貰えぬだろうか?」


ならば、迷う必要はない。俺は差し出された誓約書に署名したのだった。


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