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【モブ武将】松下嘉兵衛は、木下藤吉郎を手放さない!~おこぼれの小大名で終わりたくないので、三英傑を手玉に取ってビッグになろうと思います!  作者: 冬華
第1章 遠江・旅立ち編

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第41話 島左近は、気賀にて高札を見る

天文24年(1555年)1月上旬 遠江国気賀 島清興


1年前、父の死に乗じて家の乗っ取りを企んだ継母に嵌められて、俺は14歳にして全てを失った。


いや……正確には命だけが残った。だから俺は、生き続けるために、流浪の旅を続けながらも日銭を稼ぐために働いた。時には悪徳商人の用心棒や密輸商人の護衛などといった仕事でさえも厭わずに。もっとも、流石に誘拐とか人身売買とかには加担していないが。


だが、それでもその果てに、俺はしくじった。もっとも、それでも命があるから儲けものなのかもしれないが、尾張で請け負った仕事——土田弥平次という侍の護衛に失敗したのだ。


しかも、この暗殺劇の裏側には織田のうつけが絡んでいたようで、その次の日には土田殺しの下手人として俺や仲間たちが仕立て上げられてしまい、最終的には尾張の外に逃げざるを得なかった。


「ああ、腹減ったな……」


そして、そんな紆余曲折の末に、現在俺は遠江の気賀にいる。ただ、腹は減っても路銀はわずか3文(360円)しか残っておらず、もう3日は水以外の物を口にしていない。


だから、とにかく飯を食べる金が欲しくて仕事を探していると……


『武芸に秀でたる者、集うべし。勝者には10貫を与える』


まさに天祐とも言うべきか、そのような高札が街角に立てられている事に気づいた。さらに読み進めると、希望者は井伊家に召し抱えるともあった。


「なあ……ちょっと教えて欲しいのだが……」


「ん?」


だから、どこに行けば応募できるのかを知りたくて、俺は取りあえず、同じように高札を見ていた男にその事を訊ねた。すると、その男は親切なことに「それなら、この気賀の北にある井伊谷に行けばいい」と教えてくれた。


「ありがとうございます」


「なに、大したことではない。そうだ。貴殿がもし良ければだが、これも何かの縁だ。これから共に参らぬか?」


「よろしいのですか?それは願ったり叶ったりではありますが……」


ただ、そこではっと気がついた。見ず知らずの人を容易く信用してしまった己の未熟さに。前も同じような展開で、あと一歩で人買いに売られそうになったのだ。同じことを繰り返すわけにはいかない。


「あ……すみません。やっぱりいいです」


「そうか。まあ、いずれにしても井伊谷に向かうのであれば、また会う事もあろう。俺は前原弥五郎と申す。貴殿は?」


「島左近と申します」


しかし、そう名乗った瞬間、腹の虫がぐぅっと鳴いた。何だか締まらない。


「もしかして、貴殿……腹を空かせておるのか?」


「お恥ずかしい話ではありますが……実は、もう彼是3日は食べておらず……」


「それはいかぬな。勝負以前の問題だ」


そして、前原殿は懐紙に何やら書き込むと、それを俺に渡してきた。


「これは?」


「紹介状だ。その宛先に書かれている瀬戸屋を訪ねたら、日雇いの仕事を紹介してくれるはずだ。それと、あそこなら先払いという事で飯を食わせてくれる。行ってみるがいい」


「あ、ありがとうございます。しかし、某には貴殿のご厚意にお返しする物は何も持っておらず……」


「気にするな……と申しても、その様子だと気にするのだな?だったら……」


前原殿は、井伊谷における勝負ごとに決着がついたら、その時は飯をおごってくれといった。集合は5日後だから、3日程働けば給金もそれなりに貰えるから、その程度のお返しはできるであろうと。


「重ね重ねのご厚意、感謝いたしまする」


「その分、美味しい物を食わせてくれよ?ここには澄酒もあるらしいしな」


澄酒か。それは楽しみだな。俺も飲みたい。


「それじゃ、俺はそろそろ行く。また会おう」


遠くで手を振る女性と幼子の姿が見える。おそらく、前原殿の家族だろう。だが、手加減をするつもりはない。勝って手に入る賞金は、俺だってこれから生き抜くためには必要なのだから。


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