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【モブ武将】松下嘉兵衛は、木下藤吉郎を手放さない!~おこぼれの小大名で終わりたくないので、三英傑を手玉に取ってビッグになろうと思います!  作者: 冬華
第1章 遠江・旅立ち編

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第37話 嘉兵衛は、クリスマスに臨む(前編)

天文23年(1554年)12月下旬 遠江国井伊谷 松下嘉兵衛


今日は待ちに待った12月24日だ。


もっとも、それは旧暦の話であるから、本当のクリスマスとは正確に言えば違うのだが、それでもおとわと恋人になってから迎える初めてのイベントごとだ。そのような事は敢えて気にせずに、今日は城に出仕せずに家で準備を進めた。


幸いな事に引継ぎは完了したし、クリーニング屋の方も昨日から営業を開始したと藤吉郎から聞いている。だから、そう……何も問題など起きるはずがなかった。あとは、夜にお城からこっそり抜け出してきたおとわをこの屋敷に迎えたら、と。しかし……


「なに?藤吉郎が派手に振られたって……」


昼過ぎに但馬守殿よりその話を聞かされて、雲行きが怪しくなる。


「待て待て待て、藤吉郎は確か……花束を用意して……」


「そうだな、確かにそれをお光さんに渡そうとした。だが……」


但馬守殿曰く、お光さんには親が決めた許嫁がいたらしい、と。


「え……それは初耳だけど?」


「そう、俺も初耳だ」


そして、但馬守殿が苦笑いを浮かべられているところを見ると、藤吉郎を振るためにそういう事にしたらしく、おそらくはお光さんなりに傷つけないようにと思ったのかもしれないが……つまり、どう取り繕っても、全く脈はなかったという結果は変わらないようだった。


「それは……悲しいな」


「ああ、哀れだ」


昨夜、そういえば……「おとわ様も侍女の一人や二人、連れて行かれた方がよろしいのでは?」といきなり訊ねてきたが……きっと振られていなければ、連れて行こうと考えていたのだろう。


それだけに不憫だなと思っていると、「おーん、おーん」……と、大きな泣き声が次第に近づいてきた。だから俺は、思いっきり大きなため息を吐きつつも、こうなったら仕方ないと、やけ酒を用意する事にしたのだった。





夜——。


「わしゃあ!もう女はこりごりですわ!もう恋なんてしない、絶対にしないぞ!!」


精一杯の勇気を出して行った告白が、見事失敗に終わった『藤吉郎を励ます会』は、未だに続いている。そう、俺の屋敷で。参加者は俺と但馬守殿と三人だ。


「わかった!俺も藤吉郎と一緒よ。恋なんてしないぞ!」


「但馬守様!おお、心の友よ!!」


しかし、何なのだろうか。俺の屋敷のはずなのに、どうしてこんなに居辛いのだろう?空気は完全にアウェイになっているし……。


「おい、嘉兵衛!」


「なんでしょう、但馬守殿……」


「言っておくが、姫様を落したと言ってもだな、調子に乗るんじゃねえぞ!?やつは井伊谷四天王の中でも最弱……勝ったと思うなよ!」


「そうだ、そうだ!あんな真っ平なんか、数に入れちゃ男が廃るってもんっすよ!!」


はぁ……しかも、酔っ払い過ぎて、全然意味が分からない事を言い出すし。井伊谷四天王って何だ?あと3人は誰と誰だ?


それに、そもそも今ので何度目だ?同じセリフを吐いたのは……。


「お……やはり、荒れていたか……」


「これは、亀之丞様」


「俺も加わっていいか?」


「構いませんが……よろしいので?」


はっきり言って、こいつら酔っぱらいの相手は面倒臭い。ゆえに、何も態々首を突っ込まなくてもいいと思うが、亀之丞様は「これも主君の務めだ」と笑って席につかれた。俺は「物好きな……」と思いつつも盃を持って行き、そこに酒を注いだ。


「しかし、よかったのか?」


「何がですか?」


「今夜はクリスマスとかいう南蛮のお祭りをおとわと祝うと聞いていたが……?」


う……それは、言わないで貰いたい。


「亀之丞様、それはもう諦めました。藤吉郎が振られているのに、俺だけが恋人とはしゃぐわけには……と」


「そうだな。その心意気は素晴らしいと思うが……だけど、この失恋組にその気持ちは伝わるのかな?何だったら、ここは俺が受け持つから、お主はおとわと……」


「お気遣いいただきありがとうございます。しかし、こうして辛いときは付き合う事も……友としての務め。おとわならば、きっとわかってくれるでしょう」


まあ、わかってくれなかったら、誠心誠意土下座してでも謝るしかないが、だからといって亀之丞様の勧めに乗るわけにはいかない。


しかし、そう思っていると亀之丞様は笑った。酒の席でクサい事を言うな……と。


「クサかったですか?」


「ああ、クサい。だけど、そのクサさがまたいいな。俺も力になりたいと思ってしまうから……」


そして、亀之丞様は手を叩かれた。すると、部屋に恥ずかしそうに入ってきたのはおとわだった。


「どう?似合っているかしら……」


「うん……とっても」


その返答に……真っ赤なサンタ服を身にまとったおとわは、「うれしい」と言って微笑んでくれたのだった。


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