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【モブ武将】松下嘉兵衛は、木下藤吉郎を手放さない!~おこぼれの小大名で終わりたくないので、三英傑を手玉に取ってビッグになろうと思います!  作者: 冬華
第1章 遠江・旅立ち編

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第31話 雪斎は、今川の将来にため息を吐く

天文23年(1554年)12月中旬 駿河国駿府・臨済寺 太原雪斎


先程、関口殿が来られた。何でも、今度井伊家からこの駿府に移って来る松下嘉兵衛なる者をお屋形様の馬廻衆に推挙したいという事。


『銭計算に明るく、加えて珍しい物を発明する文官という話ではなかったのか?』


『それが、井伊殿曰く、剣術、武術の腕前も中々なようでして、娘婿の出世を願う上で叶うのであれば、推挙して貰いたいと……』


ふむ……思い出しただけでも、妙な話になったものだと笑いそうになるが、ただ関口殿には別のお願いをしている手前、そう無下に断るわけにもいかない。


「さて、どうしたものか。竹千代、そなたはどう思う?」


「別に推薦しても良いのでは?」


「その根拠は何処にありや?」


「そもそもの話、馬廻衆が役に立たなければならなくなった時点で、いくさは負け。よって、誰が務めたところで大して変わらないのですから、関口様との関係を良好にする事の利を取るべきかと」


「だが、不届きな心を持つ者ならばどうする?お屋形様の身が危うくなるのではないか?」


「そ、それは……」


「50点じゃな。裏切られる可能性以外にも、馬廻衆が果たすべき役割がまだ理解できていないようだ。今宵の宿題とするゆえ、よく考えて明日もう一度答えを申すように」


「はい……」


竹千代の言うように、馬廻衆が戦うような状況になれば、そのいくさ自体は負けだろう。しかし、だからこそ重要な任務が残っているのだ。身を盾にしてお屋形様を安全な場所に落ち延びさせるという非常に重要なお役目が……。


つまり、馬廻衆を務める者は誰でも良いというわけにはいかない。儂の中でも結論が出た。まずは実力を確かめる事。関口殿への回答は一旦保留だ。


「おい、雪斎。何だったら、俺が見極めて来ようか?今の話……」


だが、そのように竹千代に指導をしていたところに、今川家で宿老を務める朝比奈備中守(泰能)殿が姿を現した。


「これはこれは、朝比奈殿。立ち聞きとは、無作法ではございませぬか?」


「はん!堅苦しい事を言うなよ、雪斎。……それより、何とかならんのか」


「何がですかな?」


「三浦の上野介だよ。あの野郎……やたらと若い連中をけしかけて、お屋形様に上洛をと煩いんだわ。武田と北条と手を結んだ今こそ好機だと言ってな!」


その言葉を聞いた儂は、思わずため息を零した。


「また騒いでいるのですか……前にあれほど徹底的に論破したというのに……」


「そうだよ。しかも、今回は武田の舅殿(信虎)を仲間に引き込んでだから質が悪い!」


三浦家は、朝比奈家と並ぶ譜代の名門だ。上野介自身も、まだ30を少し超えたばかりなのに、評定衆に名を連ねている。いずれ、齢を重ねて様々な経験を積めば、自ずと宿老にもなるだろう。


だが、本人としてはどうやらその時を待つ気はないようだ。名門三浦家を背負う意地なのか、我らと肩を並べようとし、その思考、行動に焦りが現れている。


きっと、尾張を平定して、その後は上洛して、天下人となったお屋形様の下で執政として権を振るうことを夢想しているのだろうが……今川を背負うべき次世代の宿老がこれでは先が思いやられるというものだ。


「今は儂やおまえがいるから、お屋形様も血迷われる事はないと思うが……」


「そうは言っても、儂らも齢50をとうに越えましたからな……」


今のところお互い元気で過ごしてはいるが、儂が59歳で朝比奈殿は58歳だ。そろそろお迎えが来てもおかしくはない年頃ではある。それゆえに、今の我らの為すべきことは、死んだ後の備えだ。


「つまり、朝比奈様はこの先、その松下殿が役に立つならば、今のうちに唾を付けておきたい……そういう事なのでしょうか?」


「おっ!竹坊、流石は雪斎の弟子だな。そうよ、よくぞ見抜いた。そうだ……褒美として、これをやろう」


「これは、干し柿!朝比奈様、ありがとうございます!!」


その一つとして、儂には竹千代の養育がある。ゆえに、あまり甘やかさないでもらいたいと思うのだが……何か言われると察したのか、すでに竹千代の姿はここにはない。その逃げ足の速さに、儂はこれもひとつの才能と認めつつ又ため息を一つ吐いた。


「まあ、そう不機嫌な顔をするなよ。……それで、どうだ。今、竹坊がいったように、有能な男であれば、こちらの味方に引き込んでおきたいと思う。例の使者……儂に任せてもらえぬか?」


そこまで頼まれたら、儂としても否とは言えない。このようなお使いに名門今川家の宿老が出向くなど異例中の異例ではあるが……その任を委ねる事にしたのだった。


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