第184話 嘉兵衛は、藤吉郎の未来を憂うも……
永禄3年(1560年)5月下旬 尾張国那古屋城 松下嘉兵衛
「ちょっと、お待ちを。大蔵殿……まさか、今の話をまともに信じてはおられませぬよね?」
「いや、理に適っていると思うが……」
「はぁ……本当に相変わらず人が良いというか、何というか。第一、そんな間抜けな話がありますか?毒キノコ入りの味噌汁を皆で飲んで城を奪われるなど……」
寧々殿の言葉を信じた朝比奈様は、呆れたように俺に人の好さをここで持ち出したが、その態度に俺も反論する。そう思うならば、この城の台所に瀬名姫様を呼ぶから、その味噌汁を飲んで実体験してみてはどうかと。
「せ、瀬名姫様の……味噌汁?」
「言っておくが、キノコが入っているとはわからないように細かく切るし、いつ入っているかも教えない。それでもまだ、この話を間抜けな話だというのであれば、試してみるが……どうする?」
「……すみません。某も信じることにしましたので、それだけはどうか勘弁してください。そんな事をしたら、ヤバいのはよくわかりましたから……」
まあ、わかってくれたなら、それでよい。俺だって、むやみに死人を出したいわけではないし。
「それで、話を戻しますが……寧々殿はなぜ、そのようなキノコをお持ちに?」
「決まっているでしょう!お味噌汁には隠し味が必要なのです!!」
あ……やっぱりそうだ。この娘は瀬名姫様と同類で、料理をさせては絶対ダメな人だ。別に料理に隠し味は必要ないと思うのだが……まあ、それは言うまい。言ってもきっと無駄だろうから。
あれ?寧々って、そういえば……
「ちなみに、寧々殿」
「何でしょうか?」
「もしかして、『くま』とかいうお姉さんがあなたにはいませんか?」
「えっ!?なんで姉上の事をあなたが知っているの!!」
知っているも何も、誘拐してうちの家に置いているからで……だけど、そんな事を流石に言えるわけがないから、とりあえず誤魔化すことにした。
「実は、三河で人買い組織を討伐して、その時にお姉さんを保護したのだ。尾張出身で、寧々という妹がいると聞いていたから、もしかしてと……」
「まあ!本当ですかぁ!!」
……後で、くまには口裏を合わせてもらうように頼んでおかなければならないが、一先ずこの場はそういう事にして乗り切ることにした。幸いな事に寧々殿は特に疑う様子を見せずに、いずれ会わせるからと伝えると、「ありがとうございます」と俺に頭を下げた。
ただ……くまのことはこれでよいが、問題はこの娘を藤吉郎に会わせても大丈夫かという事だ。次郎三郎の苦労を知っているから、この際、予定は変わるけど、くまとくっつけた方が良いような気がする。あの子は妹とは違い、料理は上手だし……。
「畏れながら、松下様」
「なんだ?」
「只今、木下藤吉郎殿がお戻りになられて、お目通りを願い出ておりますが……」
しかし、間が悪いというかなんというか。いや、これも運命なのかもしれないが……藤吉郎はこの未来の花嫁がいる那古屋城に姿を現せた。ならば、俺としては腹を括って受け入れるしかない。
「すまないが、ここに通してくれ」
そう答えて、あとは運命のままに全てを任せることにした。
「木下藤吉郎、只今帰って参りました!」
「ご苦労であったな」
「あの……殿?」
「なんだ」
「ちなみに、その奥におられる女の子はどなたで?」
ああ、やはり食いついてしまったか。でも、こうなったら仕方がないと覚悟を決めて、俺は紹介することにした。この子はくまの妹で、寧々殿と……。
「ほう!寧々殿と申されるか!!」
そして、ターゲットをついに見つけた藤吉郎の動きは速い。まあ、前の千代女の時もそうだったけど……あっという間に寧々殿の側に駆け寄って、その手を取っていきなり求婚した。
「えっ!?」
「ずっと前から、たぶん前世から愛していました。なので、どうか……某にあなたのお味噌汁を飲ませてください!!」
しかも、何というか……とっても命知らずなセリフを吐いて。




