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【モブ武将】松下嘉兵衛は、木下藤吉郎を手放さない!~おこぼれの小大名で終わりたくないので、三英傑を手玉に取ってビッグになろうと思います!  作者: 冬華
第1章 遠江・旅立ち編

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第18話 嘉兵衛は、和尚との約束を履行する

天文23年(1554年)9月下旬 遠江国井伊谷 松下嘉兵衛


今日は朝から藤吉郎と共に城下へ出る。目的は、和尚との約束通りに椎茸栽培と硝石づくりの技術を領民に教えるためだ。


「それにしても澄酒の事といい、よくもまあ色々な事を御存じなのですね。流石は嘉兵衛様ですな!」


「ま、まあな……」


純粋に尊敬のまなざしを向けてくる藤吉郎には申し訳ないが、実のところ頭蛇寺城で経験済みだった澄酒造りとは違って、椎茸栽培も硝石づくりも上手く行く自信はそれほどない。


なにせ、これらの技術は前世で読んでいた小説に書いてあったから知っている程度なのだ。もちろん、興味を持ったからネットに落ちていた動画とか文献資料とかには目を通しているけど、本当に再現できるかはやってみなければわからない……。


「それで、どちらから始めますか?」


「先に椎茸栽培、それから硝石製造の話をしたいと思う。ただ、どちらも完成するまでには時間が掛かるからな。今日は現場に足を運びながら、あくまで作業内容と今後の段取りの説明となるだろう」


じゃあ、なんで和尚にあのような事を言ったのかということだが、椎茸栽培も硝石づくりも結果が出るまでには時間が掛かるという点を今回は利用したのだ。


「椎茸は1年半から2年、硝石は5年もかかるのですか……」


「そうだ。それもあくまで上手く行っての話だ。失敗すれば、さらに時間はかかるだろう」


そして、それだけの時間があれば、但馬守殿を中心とした我ら小野一派の体制をもう一度強固なものに整え直すことはできるはずだ。そうなれば、例えこの試みが失敗に終わったとしても、さして問題は生じないと思う。澄酒による利益は確定しているわけだし。


「そういえば……最近、姫様はめっきり来られなくなりましたね?」


「いきなりなんだ?急に話題を変えて……」


「だって、前はこういう楽しそうな事には、必ず参加されていたではありませんか」


「そうだな……」


くそ……意識してその事を考えない様にしていたというのに、藤吉郎め……。


「何かやっちゃったんですか?例えば……つい、ムラムラしちゃっておっぱい触っちゃたとか……ま、まさか、その先までしようと草むらに連れ込んで押し倒したとか!?」


「あのな!俺がそんな事をする男だと思っているのか!?」


「あ……いえ、思っていません。これは失言でした。そんな度胸があったら、今頃他国に駆け落ちしてましたね」


「あ゛!?」


「もう、そんなにガチで怒らないで下さいよ。ですが……本当に何もなかったのですか?」


「当たり前だ!大体、俺は姫様の事など好きでも何も……」


そう言いながら、胸がチクリと痛んだ。ふと、脳裏に最後に見たおとわの寂しそうな顔が浮かぶ。そして、自分の心に問う。本当に好きでも何でもないのか……と。


「嘉兵衛様?」


「……もうじき亀之丞様が帰って来るそうだし、そうなれば年明けにも祝言だからな。顔を見せないのは、きっと忙しいんだろうさ……」


ただ、それを正直に告げることはできずに、俺はそう言って誤魔化す。すると、藤吉郎は「何かそれは寂しいですね……」と言った。


「何を言っているんだ、藤吉郎。そもそもの話、お姫様が家臣とはいえ、独身男性の家に入り浸っていた今までがおかしかったとは思わぬか?」


「でも、なんかお屋敷の華やかさ、温もりが失われたというか……覗こうと思っても風呂場には誰もいないから空しいし……」


ああ、本当にその通りだ。何だかんだと言い訳を並べて、我が家に入り浸るおとわが居なくなって……何だか面白くない。しかも、あんな別れ方をしたままだし、どうしても気になるというか、もう一度話をしたいというか……って、今、藤吉郎は何を言った!?


「……おい、もしかしておまえ、まさかとは思うが……姫様の湯浴みを覗いていたのか?」


「え……あ、ははは……な、何を言っているんですか、嘉兵衛様。い、いくら何でも流石にそんな事をするわけが……」


「ちゃんと俺の目を見て答えろ。覗いたのだな?」


「……はい。覗いちゃいました」


はぁ……一体何をやっているんだ、藤吉郎は。バレたら、打ち首……いや、士分に取り立てたから切腹か。危ない橋を渡るなと言いたい。


「でも、おかげでこれができちゃいました。嘉兵衛様の分も用意しましたので、どうぞお納めください」


「何だこの巻物は……」


しかし、紐を解いて中身を改めてみると……そこには、裸のままで色っぽい格好をしているおとわの絵が描かれていた。しかも、かなり精巧な物であって、色までついているとなれば……何とも言えない気分が心を支配した。


「ちなみに、胸が日頃のお姿とは比べようもなく小さいのは、身につけられている肌襦袢に詰め物が縫い付けられており……」


「誰もそんな事は聞いていないぞ?」


とはいうものの、あの膨らみの中身は胸パットだったというわけか。見栄を張らなくてもいいというのに……まあ、そこが可愛らしいと言えばそうでもあるが。


「ちなみに訊くが……これはおまえだけの企てではあるまい?」


「はい。最近、嘉兵衛様が落ち込まれているので、小野様と方久殿と共同で、嘉兵衛様に元気になって頂きたいと思って作成しました。ただ、小野様は仕上がりを見て、何だかとてもがっかりされたようでしたが……」


何をやっているんだ、あの二人は……と思いつつ、折角なのでこの巻物はそのまま懐に仕舞った。もちろん、そのお心遣いに感謝の念を抱きながら。


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