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【モブ武将】松下嘉兵衛は、木下藤吉郎を手放さない!~おこぼれの小大名で終わりたくないので、三英傑を手玉に取ってビッグになろうと思います!  作者: 冬華
第3章 駿河・出世編

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【幕間話-10】松永の娘は、嫁ぐにあたって

永禄元年(1558年)8月下旬 京・二条法華堂 綾


わたしの夫となった松下大蔵少輔様は、明朝この京を出立されて駿河へ帰国なされるそうだ。当たり前だけど、わたしもついて行く。側室とはいえ、妻なのだから。


「だから、父上。ここまで育てて頂きありがとうございました」


「あのな、心が全然籠っていないぞ?」


「そうですか?」


「普通、そういうのは三つ指をついて、涙を流しながら頭を下げるよな?少なくとも、そのように部屋の入口に立ったままするような事ではないと思うぞ?」


う~ん、流石は父上だ。わたしが全然感謝していないことを見抜くとは……。


「まあ、よい。此度の一件、儂もそなたに迷惑をかけたわけだしな」


初め、あのような如何わしい姿になって、大蔵様に抱かれろと言われた時は、その頬を思いっきり張り倒したくらいだ。婚約者がいるのに、一体何を考えているのかと。


「ちなみに、元・婚約者のあいつは、別の女と恋仲のようであったからな。そちらと縁を結べるように手を回しておいたぞ。まあ、碌な末路は辿らぬだろうがな」


「それはそれは、ご丁寧な事で。しかし、わたしの耳に敢えてその情報を入れますか?ホント、酷い父親だことで……」


浮気しているのは知らなかったな。まあ、それも今更だけど。


「それにしても、父上の目論見は最後の最後で外れましたね?」


「そうよな……大蔵がそなたを駿府に連れて行くとは思わなかったな。嫁が地獄の鬼が逃げ出すほどに凶暴な虎だと聞いていたから、てっきり命惜しさにここに残すというのではないかと予測していたのだがなあ……」


従わなければ、わたしの存在を嫁にばらすぞと、脅迫の手札にするか……あるいは、側室であるわたしを人質とするか。いずれにしても、父上ならば、そんな事をもくろんでいたはずだ。


それゆえに、鬼嫁の恐怖を振り払って、こうしてわたしが駿河に向かう事は、父上にとっては誤算であったのだろう。もっとも、いい気味ではある。


「ところで、本当に大丈夫なのか?」


「何がですか?」


「大蔵の鬼嫁の事だ。果心の話だと、独占欲が非常に強く、浮気なんて絶対許すような女ではないという事だが……」


「しかし、知恵は乏しいのでしょう?お菓子で買収が容易なほどに」


「ああ、そうだ。ちなみに、生八つ橋の作り方は覚えているよな?」


「もちろん。駿府に入る前の晩に宿で作る事にしますよ」


「そうしてくれ。さもなければ、そなたも大蔵同様に酷い目に合わせられかねないからな」


酷い目ってどんな……と思わないでもないが、だからといってこの身体を痛めつけられるのは御免だ。わたしの存在について色々思われるだろうが、甘い物でどうか仲良くして貰いたいものだ。


「あと、言い忘れるところであったが、果心を時折向かわせる。儂と大蔵の間で連絡役を務めてもらうが、何かあれば、そなたも文などを預けてくれると助かる」


「それは、大蔵様の動き、あるいは今川家の動きを知らせよという事ですね?」


「無理する必要はないが、出来たらでよい。頼みたい」


「お任せを」


なお、文のやり取りは暗号を使って行う。父上から習って習得済みだ。


「真田源五郎は、武田の密偵だ。くれぐれも探られないように気を付けるのだぞ。特に儂や大蔵の前世の話などは……」


「わかっていますって。そんなにクドクド言わなくても」


父上が遠い未来からやってきたと初めて聞いた時には、全くもって信じられなかったけど、それよりも信じられないのは、父上の前世が犯罪者ではなく、ただの料理人だったということだ。絶対に違うよねと言いたかったけど、確かに変わった料理は作るし、味も抜群だ。


「それと……」


「まだあるのですか!」


「これが本当に最後だ。嫁ぐにあたってこれを渡しておく」


「これは……父上が大切にしていた包丁。まさか……父上を裏切ろうとしたその時は、大蔵様をこれで刺せと?」


「違うわ!この包丁は、儂の料理の技を身に着けたそなたへの餞よ。まあ、免許皆伝の証というか……そなたに持っておいてもらいたい」


免許皆伝の証か。料理に関しては厳しくて、滅多に褒められたことがなかったというのに……なんだか、うれしいな。


「でも、父上」


「なんだ?」


「本当に大蔵様を殺さなくてもよかったので?」


これまで父上は、前世の世界——つまり、未来の世界で得た知識を元にのし上がってきたのだ。同じように未来の事を知る人間が居たら、邪魔なような気がするのだが……父上は首を左右に振った。「その必要はない」と言って。


「どうして?」


「そうだな……未来に関する歴史の知識は、実はそれほど役には立たぬのだ」


「役に立たない?」


本当にそうなのかしら?わたしだったら……


「未来を変える事ができる。不幸な未来も知っていれば、確かに回避できよう。あるいは、人に先んじて動くことで、莫大な利益を得るかもしれぬ。おまえが思っているのはそんな所だろう?」


「はい、そんな所です」


「だが、一度動けば、未来は変わる。未来が変われば、それは最早儂の知る未来にはつながらない。実際に、儂が細川晴元を追い落として未来を変えたおかげで、この先にあるはずの大蔵の知る未来は、儂の知る未来とは全く異なっていたわけだしな……」


なるほど。つまり、父上の知識はすでに役立たずになっているというわけか。だから、大蔵様を殺す必要はないと。それに、そういう事ならば、大蔵様の知識ももしかしたら、すでに役に立たなくなっている可能性もあるわけで……。


「……とは言っても、儂の敵になるようなら殺すけどな」


「では、やっぱりこの包丁はその時に?」


最後に父上は苦笑いを浮かべつつ、否定はしなかった。


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