第146話 嘉兵衛は、弾正と腹を割って話す
永禄元年(1558年)7月中旬 大和国平嶋城 松下嘉兵衛
結局、柳生新左衛門は、俺に仕える形でこの領地の代官となった。
「言っておきますが、松永家に仕えるわけではなくて、松下家に仕えるのですからな!」
「わかっている、わかっている。だから、もしそなたの力が必要な時は、必ず大蔵殿の承諾を得ることにする。その時は手伝ってくれよな?」
……ちなみに、何となくではあるが、俺の筆跡を解析して偽の命令書を出すのだろうなという事は察している。なにせ、左近の継母の書状も偽造できたのだ。その程度の事など、松永様の手に掛かれば造作もない事だろう。
だけど、大和は遠い。俺にとって実害が出ない限りは松永様に任せておく方が吉だと考える。それゆえにこの件については口を挟まない。新左衛門を騙すようで悪いけど。
「ところで大蔵殿。少し良いか?」
「構いませぬが……なにか?」
「どうやらあの継母……いや、左近の父親かもしれぬが、茶の湯を嗜んでいたらしい」
「ほう……」
「それで、茶室があるのだが……どうだ?」
「ご相伴に預かりましょう」
松永様の茶の湯は、かなりのものであると聞いている。同じ茶の湯を嗜むものとして、この機会を逃すまいと共に茶室へと踏み込んだのだが……
「ところで、大蔵殿……」
そう前置きしてから切り出された質問「そなたは未来からの転生者なのか?」という言葉に、俺は思いっきり動揺してしまった。もし、茶碗を持っていたら、ゴトリと落としていたと思えるほどに。
「……あはは、一体何を申されるので」
「警戒せずともよい。そなたも薄々察しておろうが、儂も未来からやって来た転生者だ。女子高生の制服にメイド服にバニーガール……他にもあるが、儂も好きだったからな。これはとすぐに気が付いたぞ」
ああ、やっぱりそうだったのか。サンタコスを手に入れたと聞いて、そうではないかと疑っていたけど……やはり、松永様も転生者であったのか。
「ちなみに、いつの時代から来た?」
「俺は令和の時代からですが……」
「令和?なんだそれは……」
「あれ?もしかして昭和か平成から来られたとか……」
「昭和?平成?何それは……」
本当に話がかみ合わない。大正や明治にバニーガールのコスプレなんてないと思うし、これは一体……。
「ちなみに松永様はいつの時代から?」
「儂か?儂は光文だ」
「光文?」
そんな元号はないぞと思っていると、松永様は言い直された。西暦でいうところの1985年からやってきたと。俺は2025年なので、40年のズレはあるが……やっぱりおかしい。
だから、お互いの知っているこの先の歴史についてすり合わせをすることにした。ところがその初手から食い違うところがあった。それはこの戦国の世の覇者の名前だ。
「それでは、松永様が来たという未来では、細川管領家が天下を獲ったと?」
これは嘘だと思った。今の細川家は、三好家に下克上されて見る影もないのだ。全くもってあり得ないと。
「それがな、大蔵。儂のいた未来では、細川晴元が管領に相応しき権力を手に入れて力を発揮して、足利幕府を立て直したのよ。ちょうど今の頃合いにな……」
「しかし……いや、まあいいでしょう。それで、現状を考えると、松永様はその細川家の天下取りを阻止したと?」
「ああ、そうだ。晴元が天下を獲って世は一時的に平和にはなったが、今度は南蛮人の脅威に晒されることになってな……」
松永様は続けてお話になられた。晴元はそれに対して上手く対処できずに、挙句スペイン、その後はアメリカの植民地とされて……20世紀半ばに何とか独立を回復したが、俺の知るほどまでには日本は発展しなかったようだ。
もっとも、大国の植民地となった事で、日清・日露の戦争も太平洋戦争は起こらなかったようだけど。
「だから、儂は本来であれば潰されていたはずの我が殿を援けて、細川家が天下を獲る未来を潰した。しかし、その結果がそなたのいた未来か……」
そう……俺の知る歴史は、松永様が改変した歴史の先にどうやらあるらしい。
「ところで……前世では、どのようなお仕事を?やはり、ヤクザで……?」
「違うわ!善良なコックさんだよ。三ツ星ホテルの料理長を務めていてな……」
「それで、パワハラかセクハラ三昧で、後ろからブスリと刺されたと?」
「それも違うな。いや、多少のパワハラもセクハラもやったけど、勤めていたホテルに首相が泊まっていてな。要は爆破テロに巻き込まれて吹っ飛んだのよ!ホント、ひでえ話だろ?」
確かに、酷い話だが……この世界でも最後は爆死するはずなので、やはり余計な事は言わない方がいいみたいだ。




