第145話 嘉兵衛は、弾正に騙されていたことを知る
永禄元年(1558年)7月中旬 大和国平嶋城 松下嘉兵衛
柳生新左衛門他、降参した十市兵部少輔を伴って落城した平嶋城の広間に松永様と共に入った俺は、縄で縛られて庭に座らされている女子供を見ることになった。左近の継母と腹違いの弟や妹たちということだった。
「では、此度の戦後処理を始める」
そして、総大将である松永様よりまず、島家の当主は左近であることが宣言された。
「これは、畏れ多くも御所様が直々にお認めになられている。異論は一切認めぬゆえ、左様心得よ」
お蔦とかいった継母であったが、流石に今の自分の立場を理解しているのであろう。猿轡とかはされていなかったが、異論をはさむような真似はしなかった。
「続いて、島家の家督を横領した不届き者につき、処罰を与える。左近殿……」
「はっ!では、島家の当主として、貴様らに処分を言い渡す」
当主を名乗っていた左近の弟は切腹、継母はその他の子らと引き離されて、四国の尼寺に送られるということになった。また、残る子らも京にある数多の寺に分散させて、僧や尼にさせるという。
「畏れながら!この企ては全てわたしの一存でやったことです!次郎は何も……罰を与えるのなら全てこのわたくしに!!」
「見苦しゅうござるな。これでも結構甘々な判決だと某は思うが……」
それでも「どうする?」と松永様は左近に訊ねられた。いくさの前にこの処分の内容については皆で話し合ったのだが、本音を言えばどうでもよいのだ。松永様も今後の統治に邪魔とならなければよいし、俺や左近にしてもここに住むわけではないので、関わってくれなければそれでと。
だから、左近は恩を着せるように言った。次郎という弟も、他の弟と同じように寺に入れて僧にすると。
「ありがとうございます!」
「……ただし、次は容赦しないことと、互いの文の往来は全面的に禁止します。各々が縁を断ち切って、ただ一人の人間として、残りの人生を静かに過ごされることを某は望みます」
そして、これで島家のお家騒動は決着を見た。なお、お蔦殿に協力した家臣たちは、すでに討ち死にしているか、先程謀反人として首を刎ねられている。
「さて、十市殿と柳生殿。次は貴殿たちの処遇についてだが……」
「降伏する!いえ、降伏させてください!何でも協力するから、どうか……命ばかりはお助けを!!」
「……十市殿。そのように怯えずとも大丈夫ですよ。我らに従うというのであれば、今の領地も安堵しましょう」
「ありがとうございます!!」
「ただ、次はないと心得られよ。もし、儂の命に背けば……今度こそ容赦はしない。だから、筒井に寝返ろうとは考えるなよ?」
「しょ、承知しました!この十市兵部少輔 今後は殿の御為力を尽くすことを誓いまする!!」
はっきり言って見苦しいが、これも戦国の世を生きる者の処世術と言えばそうなのだろう。もっとも、松永様は使い捨てにするつもりのようだから、いずれにしても先はないと思うけど。
「それで、柳生新左衛門殿。貴殿は如何する。降伏するか?」
「ふん……俺は貴様を信じる事はできん。誰が降伏など……」
「であれば、この男に仕えるというのはどうだ?」
いきなり俺を指差してきて、一体どうゆうつもりなのかと思っていると松永様は言われた。「この男は今川治部大輔の家臣で、大和に縁もゆかりもない男だ」……と。
「……今川と言えば、駿河の今川だよな?」
「そうだ。他にいるのか?」
「いや……だが、なぜその駿河のお方が大和のいくさに関わっているので?」
俺もまさにその通りだと思う。なんで、巻き込まれてしまったのだろうとつくづく思う。しかし、松永様は悪びれずに言った。騙して連れて来たのだと。ん!?
「あの……騙したとは?」
「大蔵殿。前に果心から聞いたと思うが、先程の継母が左近の妻子を狙ったという話。あれは真っ赤な嘘だ」
「真っ赤な嘘!?それは一体どういうわけで……」
まあ、おかしいとは少しだけ思っていたのだ。わざわざ大和から遠い駿河に刺客を放つほどの余裕が国人領主に過ぎない島家にあるのかと。
「もちろん、大蔵殿。その埋め合わせは必ずさせてもらうが、その前に改めて新左衛門……」
「なんだ?」
「今の話の通り、この大蔵は騙されただけだ。だから、どうだろうか。その家臣となり、この島家の領地の代官をやってみないか?」
さて、新左衛門殿の答えは……。




