第143話 柳生は、援軍に駆けつける
永禄元年(1558年)7月中旬 大和国生駒郡 柳生新左衛門
松永の軍勢が大和に入った。兵は5千で、平嶋城の島家をどうやら攻めるということらしい。
「松永弾正は、島家の嫡男を本来あるべき立場に戻すためだと言っているが……」
救援に向かう我ら将兵を前にして、筒井の陣代様(筒井順政)の演説は続いているが、要は松永としては、家督争いに乗じてこの大和に足場を作りたいということだろう。そして、その後は……この大和を征服する魂胆だと。
もちろん、そんな事はこのようにクドクド言われなくてもわかっている。それよりもこの高台から見下ろす先で、その平嶋城に松永勢が襲い掛かっているのに早くいかなくてもいいのだろうか?あまりモタモタしていると間に合わないのでは……と。
「では、諸君らの健闘を祈る!」
あ、やっと話が終わった……って、あれ?何で引き上げていく?おまえは行かないんかい!
「……なあ、井戸殿。このいくさって重要ないくさだよな?」
「そうだな……」
「それなのに、なんであのバカ……失礼、筒井の陣代殿は自ら出陣なされないので?」
「今、柳生殿が言われたそのままだよ。その答えは……」
なるほど、やはり馬鹿だから状況が理解できていないという事か。興福寺の言いなりだった前の陣代も酷かったが、今度の陣代も負けず劣らず、どうやら酷いようだ。
「まあまあ、柳生殿。馬鹿は放っておいて、我らは我らのやるべきことを」
「そうですな。あのバ力陣代は気に食わないが、我らの故郷をよそ者に荒らされるわけには参りませぬし……あ、ところで作戦などの指示ってありましたっけ?」
「とにかく松永勢を追い返せ……これだけのようですな」
「「「…………」」」
苦笑いを浮かべつつそう教えてくれた井戸殿の言葉に、俺だけではなく十市殿も万歳殿も言葉を失った。
冗談だろうと思いたいが、眠たいのを我慢して最後まで聞いていたから間違いないと言われたら返す言葉が見つからなかった。何しろ、途中ウトウトしていたし……そして、それはどうやらほかの方々も同じだったようだ。
「……こりゃあ、ダメだな」
「十市殿、お気持ちはわかりますが、ダメだからといってこのまま帰れますか?そうなれば、この生駒郡を足掛かりに松永勢は……」
「わかっている。そんな事はわかっている。だけど、勝てるのか?城内にいるのは数百で、我らは3千弱。数でも負けているし……勝てなければ、戦ったって意味なんか生まれないぞ?」
全くもってその通りだ。だから、この劣勢をひっくり返して勝つためにはやはり作戦を用意しなければならない。そうしなければ、ただの犬死だ。
「柳生殿……何か良き作戦はありませぬか?」
「そうですな……」
良き作戦か。何か良き作戦は……。
「では、こういう作戦は如何でしょうか。取り敢えずひとり当たり3人斬ることを将兵たちに義務付ける。そうすれば、我らの兵力は今の三倍に……」
「「それだぁ!!」」
「……なるほど、それは妙案ですな。流石は柳生殿。見事な作戦だ」
ふふふ、そうだ。悩む必要なんかなかったな。とにかく、前後左右の敵を斬って斬って斬りまくればよいだけの事だ。我ら柳生の者ならば、ひとり3人どころか、10人だろうと朝飯前だ。
「それでは、話がまとまったという事で始めるといたしましょうか」
「「「おう!!」」」
平嶋城はそれほど大きい城ではない。今はまだそれでも門を固く閉ざして城内への進入は食い止めているようだが、あまり長くはもたないはずだ。
それゆえに、我らは急いでこの場から兵を進めた。大和を……我らの故郷を踏みにじられないために、まっすぐに城を目指して突き進んだ。しかし……。
「なっ……!これはまさか、伏兵かぁ!!」
左を進んでいた万歳勢の方からそのような声が聞こえて、気が付けば我ら柳生の軍勢も右側面の茂みから飛び出した敵兵によって奇襲をかけられていた。
「ひるむな、いつものように戦え!ひとり、百人だ!百人斬れば、何の問題もないぞ!!」
「「「おう!!」」」
だけど、威勢はよいが劣勢は覆らない。しかも、我らは奮戦するが、井戸殿も十市殿も万歳殿もどうやら敗走したらしく、勝負はついた。
「くそ……こうなったら、せめて柳生の名を後世に残すために爪痕を……」
すると、その時だった。視界の先に『愛』の前立ての兜をかぶり、金色の甲冑をまとった騎馬武者が立っていて、俺と戦いたくてうずうずしているように見えたのは。




