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【モブ武将】松下嘉兵衛は、木下藤吉郎を手放さない!~おこぼれの小大名で終わりたくないので、三英傑を手玉に取ってビッグになろうと思います!  作者: 冬華
第3章 駿河・出世編

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第113話 望月の頭領は、出し抜かれて焦る

永禄元年(1558年)6月中旬 甲斐国躑躅ヶ崎館 望月盛時


はぁ……胃が痛い。配下の者たちを総動員して、駿河に逃走した飛加藤を追わせているというのに、今日この時まで有力な手掛かりを得ないまま……俺はお屋形様に呼ばれてしまった。


「望月遠江守にございます」


「入れ」


だから、きっとまたネチネチとお叱りを受けるのだろうなと覚悟して、障子を開けたのだが……そこにいたのはお屋形様だけではなかった。


「真田殿……」


「おお、望月殿か。聞いたぞ、飛加藤にしてやられたんだってな!」


真田弾正殿——。儂と同じように忍びを配下に持つ男であり……同時に儂とこの武田家における諜報活動のお役目を競っている相手だ。つまり、飛加藤にしてやられたことを一番知られたくない男というわけだ。


「それでどうだ?飛加藤の行方は掴めたのか?あれからすでに2か月は経っていると思うが……」


「……あと一歩の所まで来ているはずなのだが、何しろ同盟国・今川家の領内の事。慎重に動かなければと思っておりましてな……」


あと一歩というには全くもって遠すぎる現状に目を瞑って、俺は弾正殿の問いかけにそう答えた。しかし……


「お屋形様、先程申し上げた通りでしょう。遠江守殿は嘘を吐かれていると」


「そうだな。どうやら弾正の申す通りだったようだな……」


「お屋形様!?」


弾正は恐らく、配下の忍びを使って駿河国内における捜査状況を調べたのだろう。こうして儂の言い訳は一蹴されて、忽ち窮地に陥った。


「望月遠江守、これまでよくぞ俺に仕えてくれた。礼を申すぞ」


「お、お屋形様!し、しばらく……しばらくお待ちを!必ずや飛加藤の情報は……」


「それならもう不要だ。奴は今、今川家の松下何某とかいう男の庇護下にあるそうだ」


「松下何某……?」


「お屋形様、松下大蔵少輔でございますよ。雪斎や朝比奈備中守の秘蔵っ子で、今川家で勘定奉行を任されている男だと先程申し上げたではありませぬか」


「おお、そうだったな。そうそう……松下大蔵少輔だ。遠江守は知っておるか?」


「名前だけでしたら……」


松下大蔵少輔。そう、名前だけなら千代女が接触した木下藤吉郎とかいう男の主だったと記憶している。


「畏れながら、真にその松下大蔵少輔が飛加藤を匿っているので?」


「見苦しいですな。我が真田の力を疑われるのか?」


「儂は自分の目で見たものしか信じぬようにしておるゆえな」


「では、どうぞ都合の良いように、これからも信じられたらよいではないか。こうしてお屋形様も『ご苦労だった』と労われているわけですから、この上は潔く身を退かれた上で……」


くそ……言いたい放題言いやがって。だが、この窮地……どのようにして乗り越えるか。やばいな、良い思案が全然浮かばない……。


「お屋形様……」


「どうした、三郎兵衛。人払いをしていたはずだが……」


「只今、今川家より若御台様ご懐妊のお祝いにと使者が来られまして。ただ、その者の名は……松下大蔵少輔と」


「「「なに!?」」」


これは飛んで火にいる夏の虫というか、鴨が葱を背負って来たというべきか。お屋形様にとっても儂にとっても、絶好の好機到来だ。


「お屋形様!」


「なんだ?」


「松下大蔵少輔を討ち取るお役目、何卒某にお与え下さい!」


とにかくその大蔵少輔とやらを殺して古今集を奪い返せば、お屋形様の御心にかなうはず……そう思って、儂は必死にその事を願い出た。しかし、それを真田が鼻で笑った。「貴殿は馬鹿なのか」と言って。


「馬鹿とは無礼でございましょう!」


「馬鹿に馬鹿と言って何が悪い。松下大蔵少輔は、今川家の使者としてやってきたのだぞ。斬り殺してどう言い訳をするつもりだ?駿河と一戦交えるつもりか?」


あ……確かにそうだ。殺すにしてもそれはマズいという事に気が付いた。


「弾正……そのあたりにせよ。望月、これまで大義であったな。以後は湯にでも浸かりながら、静かに暮らせ」


「お屋形様!」


「……それで、弾正。ならば、やはり毒を用いるというわけだな?」


「御意にございます。あくまで長旅の疲れによる病死と……これなら今川家にも説明がつくでしょう。まあ、念のため、隣の部屋に武者は集めておきますが……」


「よし、それで行こう!」


「あ、あの……お屋形様?某にも何かお役目を……」


しかし、用済みとなった儂の言葉はもう耳に入らず、お屋形様は真田殿と共に部屋から出て行かれた。ダメだ……どうやら、本当に儂は用済みらしい。


「……お世話になりました」


こうして無人となった部屋で一人、無念を噛みしめながら儂は、最後に一礼してから部屋を出たのだった。

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