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【モブ武将】松下嘉兵衛は、木下藤吉郎を手放さない!~おこぼれの小大名で終わりたくないので、三英傑を手玉に取ってビッグになろうと思います!  作者: 冬華
第2章 駿河・立身編

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【幕間話-8】 寿桂尼は、裏から手を回す

天文24年(1555年)10月上旬 駿河国今川館 寿桂尼


『どうやら、氏真には好いたおなごがこの城下にいるようだ』


先日の宴で義元がそう教えてくれたから、心配で探りを入れたのだけれども……目の前に積みあがった肯定する報告書の山を前にしては、わたしも目を背けるわけにはいかなかった。


だから、先程本人を直接呼んで問い質したのだ。果たして本気なのかと。


『ええ、本気ですよ。何しろ、有能な家臣をしっかりと味方に繋ぎ止めておくためには、こうする事が一番効果的だからと、誰かさんに教わりましたからね』


……まあ、そういう風に教えたのは確かにわたしだけど、その言はまるでその家臣と結婚するみたいで、何だかつい想像してしまう。孫とその家臣がチョメチョメっていけない事だけど、それだけに燃えるというか……ああ、この気持ちを分かち合えるお友達はいないのかしら?


「寿桂尼様?如何なされましたか。ご気分でも優れないので?」


「だ、大丈夫。いつもの発作だから気にしないで」


「は、はぁ……」


ちなみに、氏真の婚約者であるお春はわたしの孫だけど、まだ10歳だから側室を持つこと自体は反対していない。いや、正室が必ず世継ぎを産むとは限らないから、お家の繁栄を思えば寧ろ大歓迎だ。


「それで、お美代。ここに積み上げられた報告書のいずれにも書かれてある、松下大蔵少輔の事だけど……そんなに優秀なの?」


だけど、無条件というわけにはいかない。外戚の存在は、いつの世もどの国であっても、亡国の原因になりかねず、その選定は慎重に行わなければならないのだ。適当に選んがために、王莽に簒奪された漢の例もあるわけで。


「はい、後ろ盾になられている朝比奈様は元より、雪斎様も三浦様も、あと……武田のご隠居様も、三河における反乱討伐の功績を称えて、評定衆にお加えなされるようにお屋形様に薦められているとかでして……」


「そう」


武田の糞ジジイが絡んでいるのか。そう思うと途端に気分が悪くなる。


しかも、あのジジイが背後に居て、こんなに手際よく同時進行で話が進められていては、何か企んでいるのではないかと心配にもなって来る。さて、どうしたものかしら……。


「寿桂尼様」


「お喜代、どうかしたの?」


「孕石主水様がお見えになられていますが……」


そういえば、主水が松下大蔵少輔と何やら因縁があるとお喜代から聞いたから呼んだのだったわ。忘れていたけど、丁度良かった。どういう男なのか、聞いてみる事にしよう。


「え……?松下大蔵少輔ですか」


「そうよ、主水。そこのお喜代からあなたなら何か知っているからと」


「まあ……一言で申すなら、お家に憑りついた悪鬼ですかな?」


「あ、悪鬼?」


それは聞き捨てならないと思って耳を傾けていると、今川家に仕える譜代の家臣たちの多くが松下大蔵少輔に弱みを握られて逆らえないとかで、さらに言えば、この主水は邪魔だとして、毒入りの味噌汁を飲まされたとか……。


「最近では三浦様も何かとあちらの肩を持つようになられましたし……」


「そ、それって、三浦も弱みを握られたというのですか!」


「おそらくは……」


もちろん、この主水の言う事を全て真に受けたりはしないが、もしそれが事実ならば、非常に由々しき事になっている事にも気づく。特に武田の糞ジジイがその裏で糸を引いているとすれば、今川家が乗っ取られかねない。


「よくぞ教えてくれました。あとは……」


「それと……もうひとつお耳に入れたきことが」


「まだあるの?」


「実は、三河にいる某の友が伯父の義妹の姪の旦那から聞いた話らしいのですが、大蔵少輔はどうも今川家の居城を岡崎に移すべきだと申しておるようでしてな……」


「な、なんですって!岡崎と言えば三河のですよね!?」


「ええ、どうやらその様ですな」


「なんで、そのようなことを……!家臣の分際で僭越ではありませんんか!!」


「……伝え聞いた話では、そうしなければ今川のお家が滅びるとか。無論、そんなわけがあるかと信じない者も大勢おりますが、これ以上奴を野放しにしておくのはマズいのではないかと某も危惧しておりまする」


むむむ、それが真ならとんでもない話だわ。三河の反乱討伐で手柄を挙げて、今度の人事異動で評定衆に加わると義元から聞いていたが、これは断固として阻止しなければ!


「主水、ありがとう。よくわかったわ」


「お役に立てて光栄に存じます。では、某はこれにて……」


「お美代、お屋形様に申し上げておくれ。今宵、このわたしが話をしたいと」


「畏まりました」


しかし、阻止しなければと思いつつも、三河の反乱討伐で大蔵少輔が手柄を挙げた事には変わりない。これに報いなければ、義元の公平性を疑われかねず、それは今川家の為にはならない。


「評定衆には加えるが、これ以上奴に力を与えたくはない。そんな都合の良い役職は……」


「寿桂尼様。それでしたら、勘定奉行などではどうでしょう?」


「勘定奉行か……」


なるほど。勘定奉行なら一見大抜擢のように見えるけど、内政が充実している我が今川家においてはなすべきことが皆無の閑職だ。それなら、手柄を挙げる事もかなわないし、これ以上の出世も見込めないわね!


うんうん、これは良き方策だ。丁度、現職は来月隠居すると言っていたし、義元にそう進言しなければ!

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