【幕間話-6】 左京は、茶の湯のお礼をする
天文24年(1555年)7月中旬 駿河国駿府 朝比奈泰朝
まあ、茶の湯の事はさておき、こうして男たちが集まったからにはやっておかなければならない事がある。それは……猥談だ。
「あ……お子様の次郎三郎にはまだ早かったか。そちらの方の初陣はまだであろう?」
「そ、そんな事はありませんよ。経験は確かにまだですが……知識はバッチリです」
「知識はバッチリって……」
それは一体どういうことかと思っていると、次郎三郎は懐から巻物を取り出して俺に渡してくれた。
「これは……春画か。しかし、描かれている女性はどこかで……」
そう……どこかで見たと思っていたら、隣に座る大蔵殿が次郎三郎の頭にゲンコツを一つ落とした。
「おい……俺の婚約者で、おまえ何をしているんだ?」
「なにって……ナニですが?」
「大体、何でおまえがこれを持っている!?どこで手に入れた!!」
「藤吉郎が仕返しのお裾分けですと。あ……しまった。これは内緒だった!」
内緒話を……しかも、一番漏らしたらダメな相手にするなよと、間抜けな次郎三郎につい噴き出しそうになったが、なるほど。そうだ、この女性は井伊家のとわ姫だ。そして、風呂場で押し倒されてナニされている男は……この大蔵殿だ。
「あれ?でも、大蔵殿。貴殿ととわ姫はまだ祝言を挙げていなかったよな?」
「え……ええ」
「普通、こういう事をするのは、祝言を挙げてからではないのか?あれれ、おかしいぞ。順番が間違っているよな?」
「う……そ、それは……」
しかも、こんな真っ平によくもまあ欲情できるものだと……口では言わないけど、心より思った。俺だったらそう、少し年上のボンキュッボンの方がいいな。特に赤子を連れた未亡人だったら最高だ。背徳感が何ともたまらない。
「まあ、そのあたりは兄貴も溜まっているのでしょうよ。こんな真っ平に手を出さざるを得ない程にという事で……」
おいおい……次郎三郎。君って本当に口が軽いなぁ。確かにそう思ったとしても、口に出して言っちゃダメだろうよ。
「痛い!あ、兄貴、ごめんて。もう言わないから許してよ……あいた!」
しかし、次郎三郎が大蔵殿にお仕置きされるのは仕方ないとして、この春画を見ていると……何だかムラムラしてきたな。そうだ……。
「なあ、二人とも。お仕置きはそのくらいにして、これから遊郭に行かないか?ほら、聞いたことがあるだろ。梅乃屋だよ、梅乃屋」
「「う、梅乃屋!?」」
「そうよ。大蔵殿には茶の湯を教えてもらうし、次郎三郎もこんな絵で欲望を満たしているくらいなら、そろそろ初陣を遂げた方がいいと思うし」
「し、しかし……町の女郎屋ならともかく、梅乃屋なんて……滅茶苦茶高いんじゃ……」
確かに高い。何しろ、元々は京から下向したお公家さんたちをオモテナシするためにお屋形様のお父上が作られた遊郭なのだ。いくら俺でも、毎月与えられている小遣いから捻出できたりはしない。
「その辺りは心配するな、次郎三郎。今日の掛かりは俺が持つからさ」
「「本当ですか!!」」
「ああ」
しかし、元々大蔵殿には何かしらのお礼はしておくように言われて、俺の財布にはそれなりの銭が入っているのだ。あとは父上のお耳にさえ入らなければ何も問題はない。
「あ……しかし、この事がおとわの耳に入ったら……」
「大丈夫だって。梅乃屋の情報管理体制はしっかりしているから、外に漏れる事はあり得ないよ。ここにいる誰かが口を割らない限りは」
もっとも、店に入る時は要注意だ。そこを見られてしまえば、流石に言い訳はできないから、周囲をよく確認しなければならない。ただ、隠れ家的な場所にあるため、それはそう大して難しい事ではないが。
「それなら、早速行こうか」
「お待ちを」
「ん?大蔵殿。もしかして、やっぱりおとわ殿が怖いか?」
「いえ、そうではなく……折角なので、それなら衣装を持参したいと思いまして……」
「衣装?」
一体何のことだと思っていると、大蔵殿は春画に描かれているようなナニするときに興奮する衣装を独自で制作して、隠し部屋に保管しているのだと教えてくれた。そして、どうやら持参した衣装を気に入った花魁に着せて遊びたいと言い出したのだ。
「ちなみに、巫女服は……?」
「もちろん、ありますよ。お持ちしましょうか?」
「頼む。一度、巫女さんと……したいと思っていたのだ」
未亡人もいいけど、こちらの方が背徳感はマシマシ。次郎三郎もそれならと己の希望を述べて……俺たちは大人の遊園地に出陣したのだった。




