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手紙屋

プロットはあるんですけどストックがないです……。

 燃え盛る家々、飛び交う怒号、逃げ惑う人々に倒れ伏しすでに物言わぬモノ。おこぼれにありつこうと村を襲う魔獣ども。


 この世界では悲しいことに多くはないが珍しくもない崩壊した不運な村の光景から数km離れた魔獣蔓延る森林に隠れるように隠蔽された横穴に下卑た笑いが響いていた。


「はっ!シケた村かと思ったがやたら骨のあるやつがいると思えば……こんな宝を隠してやがったか。」


 いかにも粗暴な見た目の大柄な山のような男は妖しく光る真紅の宝石を手に上機嫌だ。


「やりましたね、親分!……ところで、そいつが何なのかご存知で?」


 親分と呼ばれた男とは対象的に線の細く非力そうな長髪の男が尋ねる。


「ふん、そんなもの知るか。売り飛ばすもんなんて大体の価値が分かればいいんだよ!俺の長年の勘が告げてる。こいつは、ヤバいブツだ。」


 長髪の男は一瞬苦笑いをしたがすぐに切り替えた。万が一にも親分の不興を買えば面倒だ……と。

 それに親分の勘には確かな実績の裏付けもある。


 指名手配冒険者(レッドリスト)岩窟のハンク。

 かつてはギルドでも名を馳せた豪傑だが名声だけでは庇いきれない素行の不良に加えて欲深く略奪まで行い、遂には指名手配冒険者に指定された。


 しかし、ギルドの討伐対象に指定されながらも逃げおおせるどころか怖いものはないとばかりに暴れ回る実力者だ。


 上位者特有に勘も鋭く、特に欲を惹かれるものへの嗅覚に狂いはない。


「ところで親分、こっちの石っころも見せてもらってもいいですか?」


 長髪の男は紫色に濁った石の欠片を拾い上げる。石にしては不思議な色合いを放つ石だが宝石には見えない。

 親方も特に興味はないらしく一瞥して好きにしろと言い捨てた。


 長髪の男が石をまじまじと睨めつけたその時、ハンクたちのいる岩窟の入口の方から凄まじい爆音と衝撃が轟き岩窟全体が大きく震えた。


「何事だァ!!」


 ハンクがそう叫ぶのとほぼ同時に連続して響く爆音と共に爆発の衝撃で投げ出されたハンクの手下が吹き飛んできた。


「おい!何があった!!」


 ハンクがすでに満身創痍の手下を叩き起すと息も絶え絶えに招かざる客の来訪を伝える。


「て、手紙屋です……!あいつが……」


 手下がそこまで口にすると突然手下は淡い光に包まれ忽然と姿を消し、代わりに岩窟に響く足音が凄まじい重圧とともに近付いてくる。


「来やがったか、ギルドの犬が……ッ!!」


 臨戦態勢に入ったハンクが来敵に備え、おい!と岩窟全体に呼び掛けるが返事はおろか気配すらしない。岩窟にはすでにハンクと迫り来る敵しかいなくなっていた。


「手紙を届けに参りました。」


 岩窟に男の声が響く。声の主は凶悪なハンクの3m程の図体を前に怯むことなくただ平静に歩み寄る。


 線の細い、優男だった。青みがかった黒髪に170cmほどの背丈の鋭い目の男。落ち着いた旅人然としたゆったりとした服を纏いハンチング帽に近い帽子を深く被っている。


 ハンクが岩窟の壁面に手を当て抜き取るように岩石の棍棒を生み出し振るうが男はこともなげにひらりと紙のように躱す。


 ハンクが雄叫びと共に棍棒を振るい、凄まじい衝撃音と共に岩窟が震え棍棒の衝突した地面から尖った岩石が波打つように生えるが男にはカスリもしない。


 男が手元からふわりと紙飛行機を飛ばし、紙飛行機はヘナヘナと緩慢な軌道で緩やかにハンクに吸い込まれるように飛んでいく。


 ハンクは警戒し大袈裟に身を躱す。


「何ィ!?」


 しかし、紙飛行機は不自然に軌道をカクンと曲げ加速してハンクを追尾するのを間一髪、棍棒を振り上げ撃ち落とす。


 ドォンと凄まじい爆裂音と共に紙飛行機は弾け飛び棍棒を粉砕し爆発の余波でハンクは岩窟の壁に打ち付けられる。


「クソッ!こいつは爆撃魔法か?テメェ、転生者じゃねぇのか手紙屋ァ!!」


 ハンクは身を起こしながら恫喝するが手紙屋無反応にハンクを見下ろし距離を取っている。ハンクの怪力を警戒してのことだろう。


 しかし、ハンクはこれを待っていたとばかりに薄ら笑い地面を殴り付けた。


 これまでの振動の比ではない揺れが起こり、岩窟は脈動し上下左右縦横無尽に床が、壁が男に迫りあっという間に隙間なく押し潰す。


「ヘッ、油断したなァ手紙屋……。この俺をただの怪力だと舐めやがって!!この岩窟のハンクは岩石魔術の天才なんだよ!!」


「ああ、知っている。」


 鋼鉄を鋼鉄で打ち付けたような激しい音と共にハンクの顎を真横から迫り上がった石柱が叩き付け、脳を揺らすハンクにとめどなく四方八方から石柱が殴打し壁面にめり込ませ四肢と顔だけが外に投げ出された形で拘束する。


 朦朧とするハンクのぼやけた視界の先で完全に塞がり岩窟の壁と化していた、先程男を押し潰した箇所が割れ事もなさげに中から押し潰される前と変わらぬ姿で砂埃をはらいながら男が歩いてくる。


「な、何なんだテメェはァーーッ!!」


 得体の知れぬ圧倒的な上位者の存在を前にハンクは畏れの入り交じった絶叫をあげる。


「手紙屋だ。ギルドからお前宛に投降命令が出ている。」


 手紙屋がそう告げハンクの顔面を鷲掴みすると、ハンクは淡い光に包まれ消えていった。


 手紙屋以外誰もいなくなった岩窟でハンクが取り落とした真紅の宝石を拾い上げる。


「大厄災の血石、か……。一介の指名手配冒険者には持て余すものだな。」


 そう呟くと懐に宝石をしまい手紙屋は岩窟を割りながら入口へと戻っていった。

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